【この記事ではDVについて具体的な描写があります。フラッシュバック等症状のある方はご留意下さい】
「毒親」という言葉はよく耳にするようになりましたが、その実体験を当事者から聞くと、想像を遥かに超えて過酷な環境だったことを思い知らされます。
漫画家・おうめ りゅうさんの実体験を描いた『死を願った父が亡くなった話』もそんな実体験を描いたコミックエッセイです。幼少期に受けた精神的虐待、母親への苛烈な暴力…過酷な日々と、そこから逃げ出すまでを描いた実体験は、あまりの壮絶さに読み進めるうちに思わず言葉を失います。
そんな恐ろしい実話を描いたコミックエッセイ『死を願った父が亡くなった話』をご紹介します。
『死を願った父が亡くなった話』あらすじ
25歳の時に「お父さん死んじゃったんだって」と母親から聞かされたおうめさん。15年以上会っていなかった父親の訃報に、わずかな驚きこそあったものの悲しみや動揺はなく、「どうでもいいや」とすぐに寝てしまいます。
幼少期の記憶にある父親は「嫌いな球団が勝った」などの些細なことで食事中のちゃぶ台をひっくり返したり、母親に暴力を振るったり…その様子をおうめさんは「怪物のようだった」と振り返ります。
ある日、子ども同士のじゃれ合いでクラスメイトTくんにしゃもじで叩かれたおうめさん。面白い話のつもりで夕食のときにその話をしたところ、父親は「なんだそのクソガキは」「やり返したのか」と激怒し、Tくんの家に電話をかけて激しく罵倒。その上、しゃもじをおうめさんに持たせて「Tの頭をそれで叩いてこい」と指示します。
さらに謝罪に訪れたTくん親子を激しく恫喝。ついにはしゃもじを手にTくんに制裁を加えようと、鬼のような形相で追いかけ始めるのでした…。
ある日、暴力に耐えかねた母親が警察に通報し、父親が連行されていったことも。おうめさんは「パパが逮捕された」「もう怖い思いをしなくていい」と大喜びするのですが、警察は民事不介入で数時間後に何事もなく帰ってきてしまうのでした…
そして小学校3年生のある日、父は顔面を殴って母の鼻の骨を砕いてしまいます。割れたガラスには血が飛び散って、その状況を証拠として淡々とカメラに収める母。そしてついに家を出る決心をした母親は、子どもたちを連れてDVシェルターへと向かいました。
そんな壮絶な日々を漫画にしたおうめさんに、作品にこめた思いを伺いました。
著者・おうめりゅうさんインタビュー
──お父さんとの非常に壮絶な出来事がたくさん描かれていますが、中でも一番大変だったのはどんなことでしたか?
おうめりゅうさん「しゃもじで友達を叩かされたエピソードです。僕の発言がきっかけで他所様の家庭にまで問題が及んでしまったことが申し訳なかったです」
──お父さんがお友達に間接的、直接的に危害を加える時、「ロボットのようにただ見ているだけだった」「ただ棒立ちで立ち尽くすことしかできなかった」など、感情を無にしてやり過ごしているのが印象的でした。この時、どのような心境だったのでしょうか?
おうめりゅうさん「父の支配下で逆らう事は出来なかったので命令を忠実に遂行することだけに専念していましたが、内心では凄く嫌だったし友人家族にも申し訳ない気持ちでいっぱいでした」
──お母さんが警察に通報し、お父さんが連行されていった時に「逮捕された!」と大喜びする幼いおうめさんの姿が印象的でした。結局お父さんは数時間後に何事もなく帰ってきたのですが、この時、どんなお気持ちでしたか?
おうめりゅうさん「ハッピーエンドから地の底に叩き落とされるような絶望を感じました」
──読者の方からはどんな感想がありましたか? コメント等で印象に残っているものがあれば教えて下さい。
おうめりゅうさん「うちもこうだった!というご感想をとても多く頂きました。またそういう方々から僕が今現在生存していることに安堵して頂けるメッセージなども頂き、救われました」
──今回、ご自身の体験したエッセイ漫画を執筆されましたが、今後挑戦したいジャンルやテーマはありますか?
おうめりゅうさん「『死を願った父が亡くなった話』を最後まで描き切りたいです。その後はもう少し明るい漫画が描きたいですね」
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おうめりゅうさんの経験は壮絶なものではありますが、今は平穏に暮らしていることは、同じような状況で暮らしている方の救いになるかもしれません。
「DV相談ナビ #8008(はれれば)」では全国共通の電話番号で、最寄りの相談機関の窓口に電話が転送されます。また「DV相談+」 https://soudanplus.jp/ でも、24時間メールや電話、チャットで相談を受け付けています。家族からの暴力や虐待に悩んでいる方は、勇気をもってまずは専門機関に相談しましょう。
取材 =レタスユウ/文=レタスユキ