試用期間満了で辞めてもらったら、不当解雇で訴えられた…それってアリ?
『御社のモメゴト それ社員に訴えられますよ?』は現役の社会保険労務士として活躍する村井真子さんが原作を手掛けたお仕事マンガ。これまで目の当たりにしてきたリアルな実体験が作品に反映されています。
「試用期間満了で解雇」を描いたエピソードでは、試用期間の意味を正しく知らなかったがために、辞めた社員から訴えられた社長さんと、その相談に乗った駆け出しの社労士・真実のやりとりがリアルに描かれています。このあらすじをご紹介しましょう。
『御社のモメゴト それ社員に訴えられますよ?』はこんな作品
30代のシングルマザー・真実(まみ)は、独立して2年目の社会保険労務士。ある日取引先を訪れると、ハローワークで採用したばかりの若手社員・津久井が退職したとのこと。「試用期間が切れたから辞めてもらった」と社長の鹿島が言うので、真実は動揺しながら「退職届をもらったかどうか」を確認します。
鹿島社長は退職届をもらっていないと言い、真実は青ざめます。真実は不当解雇に当たると指摘し、退職した津久井へ離職票を急いで送るよう社長にアドバイスしました。しかし後日、鹿島社長のところに津久井からパワハラと不当解雇を訴える書類が届きます。
社長は津久井へのパワハラで思い当たることはないと言い、周囲に確認してもそのような事実はあがってきませんでした。真実は津久井からの訴えと、ヒアリングで社員たちから聞いた人物像が一致しないことから、この訴えは本人のものではなく裏に誰かいるのではと感じます……。
そんな『不当解雇』のエピソードの他、『社内不倫のウワサ』『社員の音信不通』のトラブルに真実が社労士として立ち向かっていく様子が描かれます。
この作品について、原作者の村井さんにお話を伺いました。
『御社のモメゴト それ社員に訴えられますよ?』原作者インタビュー
──不当解雇にまつわるトラブルのエピソードでは、試用期間の意味など知らないことがたくさん出てきました。雇用についてトラブルになりやすい事例をひとつ教えていただけますでしょうか。
村井真子さん:言葉の意味や定義があいまいなまま使われていることが、トラブルの種になっていると感じることがあります。代表的なものが「試用期間」です。試用期間で合わなければ解雇されても仕方ないと思っている労働者の方も、解雇していいと思っている経営者の方もおられます。
また、情報自体が思い込みでゆがめられてしまったり、情報元が不正確であったりすると、労働法のルールを意図せず不正確に運用してしまうこともあります。このようなトラブルを防ぐためには、情報の出元を調べ、正確に運用していこうとする姿勢が大切だと思います。
──「試用期間」の意味を正しく理解していなかったので、勉強になりました。このエピソードは、雇用のトラブルのみの話かと思いきや、津久井とその母親の「親子関係」の物語に発展していきました。このエピソードで伝えたかったことを教えていただけますでしょうか。
村井真子さん:私自身、子育てをしてみて親は子どものためになら冷静さを失ってしまうこともあるのだと感じるようになりました。子どものためになんでもしてあげたい、子どもの苦しみは取り除いてあげたいと思う反面、それは子どもの自立の機会を奪うことになりうるという葛藤もあります。
このエピソードで、退職することになった津久井は、母親の期待にこたえたいと弱音を吐かずに頑張り続けます。また津久井の母は息子のためにと過保護になってしまいました。働く私たちも誰かの親であり子でもありますが、そこに答え続けるということを働くことの一番の理由に据えてしまうのは危険ではないかと感じます。そのような思いが、このエピソードでお伝えできたらと思いました。
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社労士の立場から見る会社内や家庭での関係性への洞察にハッとさせられる物語です。企業で働く会社員、社員を雇う経営者なら誰しも無関係ではない「社労士」のお仕事。その裏側にマンガで触れてみませんか?
【著者プロフィール】
村井真子(むらいまさこ)……社会保険労務士/キャリアコンサルタント/経営学修士(MBA)
総合士業事務所で経験を積み、愛知県豊橋市にて2014年に独立開業。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追及とともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問としても活動している。士業を含め取引先は160社以上。著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』、原作に『御社のモメゴト それ社員に訴えられますよ?』、監訳に『バウンダリーレス・キャリア上巻』『組織と従業員の間で変化する心理的契約』『経営心理学』など。
取材=ナツメヤシコ/文=レタスユキ