平穏な日々を過ごしたくても、人生にトラブルはつきもの。時には、問題ばかりが積み重なる毎日に嫌気がさすこともあるのでは?
『わが家に地獄がやって来た』は、まさに平凡な主婦に次から次へとトラブルが襲いかかる怒涛のエピソードを描いた漫画です。「主人公はこの問題をどう乗り越えるの?」「次はどんなことが起こるの?」とヤキモキさせられながらも、コミカルかつポジティブに描かれていて思わず笑ってしまうシーンも多数あります。『夫の扶養からぬけだしたい』『犯人は私だけが知っている』などで知られる著者・ゆむいさんに、作品についてお話を聞きました。
義実家を舞台に繰り広げられる、波乱の日々
物語の舞台は、東京郊外の商店街にたたずむ小さな居酒屋さん。ここは、主人公・ユキエの義実家です。
夫・サトルの強い希望で、マイホーム購入のための資金を貯めるべく、義両親が営む居酒屋を手伝うことを条件に2階の一室に居候中。第一子の出産を間近に控え、大きなお腹を抱えて働いていました。ストレスの多い義両親との同居、酔っ払った常連客のセクハラに耐えるユキエ。
さらには、唯一の救いだと思っていた夫も大きな子どもに成り下がり、2人で暮らしていたときの頼もしかった姿はどこへやら。誰もユキエの味方がいないという地獄…。
そんなある日、海外赴任中のはずだった義兄とその彼女がやってきます。突然、ここに住むと言い出して…。
モラハラ、女性問題、金銭トラブルetc. それは、これから襲いかかるさらなる地獄の始まりに過ぎなかった!?
未熟な面や隠れた親切心などが、リアルな人間味を表現
――息をつく暇もない怒涛の展開で、最後まで一気に読み終えました。さまざまなエピソードが描かれていますが、特に好きなシーンや思い入れのあるシーンはありますか?
ゆむいさん:後半に出てくる、夫・サトルの借金が積み重なっていく流れを描くのが楽しかったです。私の夫の職場で実際に横領事件が起きたことがあり、その尻拭いに周りの職員がものすごく苦労したという話を聞いていたので、取り入れてみました。
もちろん漫画の設定は、実際とは職種や詳細などまったく違うものに変えていますが、横領を隠していく経緯やバレるキッカケは漫画の通りだったそうです。そして、その後のサトルの開き直り発言も…。こういう未熟な面も含めて、人間っぽさなんだろうなと思います。関係者にとっては笑い事ではないですが…。
――登場人物の時代錯誤な言葉や波乱に次ぐ波乱が巻き起こり、読みながらヤキモキしてしまいました(笑)。でもその中に、敵のような存在だった義兄の彼女・ルナにユキエが助けられたり、義母の常連客を大切に思う気持ちに触れたりと、人の温かさを感じるシーンもあり少し救われた気持ちになります。
ゆむいさん:平和ボケかもしれませんが、世の中に完全な悪人はいないと思っています。なので漫画だとしても、どうしても「すごい悪人」を描くことができないのです。たとえ相性が悪くても、人の親切心は絶対にどこかにあると思っているので、そういう救いは残しておきたかったんです。うまく言えないのですが、「悪者を懲らしめてスカッとしたい」とか「反省してほしい」とかは、なにか違う気がするので…。
どうしようもない時に、思い出してもらえる作品に
――夫・サトルの女性問題、横領、借金…まさに地獄のような状況に追い詰められたユキエは、意を決して自分の力で立ちあがろうとしますね。ゆむいさんの作品に登場する女性は、自分で現状を打開しようという強さがとても魅力的です。現状を変えたくてもなかなかできない…という人も多いと思いますが、一歩踏みだすために大切なことはなんだと思いますか?
ゆむいさん:人によって、きっかけは違うと思います。私の場合は、子どもに対する猛烈な責任感、そして自分を肯定するために実績を作りたいと思ったのが原動力でした。自分が大切にしているものを守るための行動なんだと思えば、どんな環境でも一歩踏み出せるんじゃないかなと思います。
――主人公・ユキエの産後の状況について、ソースはご自身とあとがきに書かれていました。子供が小さいのに頼れる人がおらず、逃げ場もない…そんな状況を、ゆむいさんはどのように乗り越えたのでしょうか?
ゆむいさん:ぶっちゃけ乗り越えてなんかいないです(笑)。なんとかやり過ごしただけです。お金も頼れる親もいなければ、根性でどうにかするしかないです。でも本当ならそんな苦労はしなくていいと思います。若くて無知だったからこそ起こったことだけど、だからこそ体力がもったとも感じています。 今はそれなりの年齢になって昔より資力もあるので、正当なルートで乗り越えられると思います。
――この作品を通して、読者に伝えたいこと、感じてほしいことはなんですか?
ゆむいさん:伝えたいこと…なんて大層な指標はないので、あまり深刻に読まずに軽く笑い飛ばしてほしいです!何か問題があっても、半ギレ・半笑いで受け流すしかないような、どうしようもない時もあると思います。そんな時に、あんな漫画あったよな…と思い出していただければ幸いです。
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主人公・ユキエの周りの人たちに苛立ち、ヤキモキもするけれど、登場人物の優しさや人間味に触れるシーンでは救いを感じられる本作。まるで、著者・ゆむいさんの心の温かさを反映しているようです。立ち向かうことも大切だけど、どうしようもない時は受け流したり、笑ってやり過ごすことも一つの方法だと教えてもらいました。そう思うと、なんだか心がふっと軽くなりませんか?
取材・文=松田支信