大学を卒業後、アナウンサーとして28年勤めていたTBSを50歳を機に退社。20代のうちに結婚、第一子出産、第二子出産を終え、ワーキングマザーとして会社員時代を過ごした堀井美香さん。ジェーン・スーさんとの大人気ポッドキャスト「OVER THE SUN」をはじめ、フリーになってからはホールを借りての一人朗読会やエッセー「一旦、 退社。~50歳からの独立日記」を出版するなど、精力的に活動を続けています。今回は、そんな美香さんに家族&子育てや朗読ボランティアについてのお話を伺いました。
ワーキングマザーとして頑張った子育て 子離れするのが一番の課題だった
――フリーになられて仕事だけでなくボランティアまでやられていて、多忙を極めている印象ですが、今はご家庭や子育ての負担は少なめですか。
堀井美香さん(以下、堀井) そこはありがたいことに完全に手が離れています。家族LINEがあるんですが、LINEしてもうっすーい返事しか返って来ないですね。何か送っても、息子なんかはスタンプだけの返信で終わり。もうちょっとなんかリアクション欲しい、って思いますけど(苦笑)。
――お子さんが20代にもなるとそんなかんじなんですね。お子さんが小さい時は大変でしたか?
堀井 両親や頼る人もいなかったから、私が頑張らないとと抱えていました。子どもに入れ込みすぎて、仕事以外の時間は全て子どものために、自分のことは後回しという感じでしたね。
娘は自立が早くて、意志がはっきりしてると言うか、小学高学年頃には既に手を離れていた印象ですが、息子には中学生の頃も、塾決めとか、掃除とか、色々とアシストしていましたね。でもそれが、悪循環でしたね。当たり前のことだけど、やってあげるとやらなくなるんです(笑)
――男の子は手の離しどきが難しいみたいですね。大人になってもお世話しちゃうパターンもあり得ますから。いつごろ息子さんの手を離すことができた、と思いますか?
堀井 親としての先輩たちの話もあって、息子が大学に入ってからは、一切関与してないですね。先回りする親のままだったら、就職活動も気になって、「この会社、募集が始まったよ」とかやってたと思います。実際は彼がどこの会社を受けるかなども、彼自身からチラッと漏れ聞こえてくるぐらいでした。でも手放すことが、息子を信頼することにも繋がりました。もう社会人になって一人暮らししてますが、ちゃんとやってるみたいです。「野菜摂りなさいね」としつこくLINEしてしまいますが。これはいつの時代も親の常ですね。
子育てから手を引いたことで生まれた信頼 新しい家族のカタチはとても心地良い
――母であることに変わりはないけど、そこで一旦、子育ては終了した感じがしますよね。お子さんの手が離れたことで家族のカタチは少し変わりましたか。
堀井 家族4人それぞれの場所で忙しくしていますが、何かあったらこの人たちは集まってくれるという信頼感が芽生えました。驚かれますが、旅行に行っても、現地集合現地解散なんてこともあります。3,4日の海外旅行でさえ、私と夫が先に行って、娘や息子が合流。仕事からだったり、他の国を周ってきたり、皆が方々からやってきます。
―― すごく自立した関係のご家族ですね。
堀井 私と夫も、もう50をすぎて少し時間に余裕が出てきたのですが、だからと言って一緒に何かしよう!ということもなく(笑)それぞれ好きなことをやってて、夫が土日にいなくても何やってるかわからない。この間なんて、夫が炭臭くなって帰ってきたから、「え、キャンプ?」みたいな(笑)。そんな感じなので、今はすごく心地いい関係でいられます。この先、夫と離れた場所で多拠点生活のようなことがあるかもしれないですね。
――たとえ離れても、家族、夫婦という枠組みは保てる関係性が築けているということですよね。
堀井 そう。私にとって多分一番大切な人たちだし、一番助け合える。「はい、集合!」って言ったら集まってくれる人たちだと思っています。
ボランティアの朗読会は心が鍛えられる たとえうまくいかなくても傷つく必要なんてない
――たくさんのお仕事をされている中で、ホールでの朗読会のほかに、あえてボランティアで図書館での朗読もされていらっしゃいますよね。
堀井 大きなホールでやる朗読会は自分の覚悟を試すつもりでしっかり取り組ませてもらっています。それ以外に小さな図書館でやる朗読会をボランティアでやっていて、お客さんも3人〜30人とかバラバラです。
朗読会を開催するにあたってはまず、私が図書館のお問い合わせフォームにメールを送るんです。私の活動を知って、図書館からオファーくださることもありますが、それを全て受けることはスケジュール的にも難しく、ボランティアでなく仕事の意味合いが強くなってしまうので、今は自分で場所を探していくようにしています。
――図書館の選定はどのようにしているんですか。
堀井 私が気になっている図書館にメールを投げています。でも大抵、最初は不審がられますね(笑)。そもそも「堀井って誰?」ってなりますし、もし知っていてくださっても「本物か?」って。メールを送っても返信が来なかったり、打ち合わせにこぎつけても最後まで「どうしてですか?」みたいな不思議な感じだったり。実は、今も一週間前に投げたメールが全然返って来ない(笑)。
客観的にみると、これってあまりうまくいってない状況じゃないですか。でもこの一歩を踏み出すのが大事。この一歩を別に否定されたとしても、そんなに大きく傷つく必要はないんです。ハイリスクでもないですし。断られても「私ってダメなんだ」「私って嫌われてる」ってことじゃないから、何事においても、ちっちゃいトライはどんどんやったほうがいいって思っています。
――美香さんでもそんな壁にぶつかることもあるんですね。
堀井 あります、あります。私が読んでいても、子どもが寝そべっていて「あと何分で終わる? 5、4、3…」ってカウントされる中で読むんです。鍛えられるでしょう、心が。
でもね、絵本なんて本当に好きな子じゃないとそんなに10分も15分も聞けないですよ。内容的に面白い「パンどろぼう」みたいな本はみんな近づきすぎるくらいに寄ってきてみてくれる場合もあるけれど「ごんぎつね」とか「宮沢賢治作品」とか読んだ時にはあきらかに退屈そうにしている子もいて。「いつ終わるんだろう?あと何分?」という視線の中で読むと、私のメンタルは鍛えられますし、対応スキルも上がってくる! この子たちに最後まで聞いてもらえる技を身につけたい!って思ってやっています。
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子育てを卒業してから朗読会、そしてボランティアでの朗読と、新しいチャレンジを始めた美香さん。「うまくいかなくてもいい、まず一歩を踏み出すのが大事」という言葉に勇気づけられますね。
あなた自身が第一歩を踏み出すとき、美香さんの言葉を思い出してみるといいかもしれません。
▶プロフィール
堀井美香(ほりい・みか)
1972年、秋田県生まれ。ʼ95年TBSにアナウンサーとして入社し、2022年に退社しフリーに。現在は数々の人気番組のナレーションのほか、ジェーン・スーさんとのPodcast番組『OVER THE SUN』が人気を集める。その他朗読会などのイベントも手掛ける。著書に『一旦、 退社。~50歳からの独立日記』(大和書房)など。
2024年8月12日(月)の新日本フィルハーモニー交響楽団「Hello!! シネマミュージックin Summer」にナレーション・司会として出演予定。
取材・文=竹林和奈