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Vol.77 千年の一滴 だし しょうゆ

  • 2015年2月12日

 日本とフランスの合作ドキュメンタリー映画「千年の一滴 だし しょうゆ」を見に行ってきました。Vol.70 うどん風土記でも記した通り、うどん好きの僕にとっては、非常に気になるテーマの映画です。かつて一人暮らしをしていた頃は、昆布とカツオでしっかりだしを取って、いろいろと料理をしていたのですが、最近では「だしの素」で済ましてしまうことも多く、情けないかぎり。もちろんうどん以外にも、あらゆる和食の場面で「だし」や「しょうゆ」は欠かせません。この映画で、日本の味の原点に立ち返ってみようと思いました。

映画「千年の一滴 だし しょうゆ」

 まず前編は「だし」がテーマ。京都の料亭では、下ごしらえのために毎朝昆布とカツオを使って、店の主人が丁寧にだしを引きます。澄み切っただしのスープはまるで、きれいな琥珀色の海のよう。

 カメラは北海道・知床半島の漁師さんたちの姿へ。いちばんおいしい、厚く大きく実った2年目の昆布だけを、独特な機具を使って海底から掬い上げます。収穫した昆布は、そのままでは「オーシャン臭」という臭みが非常にキツいのですが、しっかり乾燥させた後に適度な夜露にさらすと、その臭みが取れます。このように知恵を絞って昆布を積極的に食事に取り入れるのは、日本人だけのようです。

 カツオを燻してカビを付けて出来上がるのは、世界一固い食材と言われる「かつお節」。割った切り口がピカピカに輝いていて、映像の向こうからカツオの香りが漂って来るようでした。そして第三のだしとして欠かせないシイタケも紹介されていました。定点撮影でのシイタケの映像も素晴らしかったです。

 かつて仏教を広めたさまざまな人物のなかでも、食を極めたことで有名なのは道元。道元が示した六味(ろくみ)というのは「苦い・酸っぱい・甘い・辛い・塩からい」と「淡味(たんみ)」。「淡味」はやはり日本だけの感覚で、だしの旨み成分の味を指します。アミノ酸や核酸の一種である、昆布のグルタミン酸、かつお節のイノシン酸、シイタケのグアニル酸の存在を、800年前にすでに舌で感じていたということになります。

 後編は「しょうゆ」と題して、今度は科学的な検知を深めていきます。しょうゆを作る過程で大切なのは、大豆を麹(こうじ)に変えて、発酵させること。そのために欠かせない、日本にしか存在しないといわれる「エスペルギルス・オリゼ」というカビの存在に迫ります。

 舞台は京都のしょうゆ醸造「澤井醤油本店」。ここの古くから建つ町屋の2階では、春になると床一面に茹でた大豆を敷き詰めて、オリゼを蒔きます。そのときの掛け声が「枯れ木に花を咲かせましょう」。するとやがて、オリゼの胞子が大豆に根を張り、全体が緑色に輝いていきます。

 そして桶のなかで熟成させて、1年がかりで醤油になっていきます。そんな澤井醤油本店の、再仕込み醤油というカテゴリーに当てはまる「二度熟成醤油」を購入して自宅で味わってみました。塩辛さはほどほど、適度な酸味の中にほのかな甘さがあります。しょうゆだけ舐めても、かなり味わい深かったです。

HARCOバンドの石本大介くん

 映画は最終的に、オリゼを作っている日本に10軒ほどしかないという「種麹(たねこうじ)屋」を取材します。日本の伝統を感じさせる店構え、でも一歩中に入ると、試験管や顕微鏡の並ぶさながら化学研究所の世界。ここで作られたオリゼから醤油、酒、味噌などが生まれるのです。

 ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」。今、和食を世界中の人々に食してもらうだけでなく、和食を作ることのできる外国人を増やしていこうという動きもあると、ニュースで知りました。この映画はフランスやドイツのテレビで何度も放送されたそうですが、実際に昆布とカツオでだしを引く人が世界中にどんどん出て来たら、とても素敵だなぁと思います。

 自然番組としても、科学ドキュメンタリーとしても、とても面白い映画でした。それにしても、「だしの旨みや醤油と砂糖の甘さに油が乗れば、日本人は病み付きになる」と言われていますが、その気持ちも分かります。この美味しさを1000年ものあいだ、日本人は味わってきたのです。




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