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Vol.63 みつばちの大地

  • 2014年7月17日

 東京・神保町にある岩波ホールで「みつばちの大地」という映画を見て来ました。本の街、神保町。書店のほかにカレーやコーヒーの店も多く、映画を見るついでに街を探索してきました。僕にとって様々な知恵を授けてくれる環境映画は、もはや本のような存在です。しかも今回はパンフレットにシナリオもすべて採録されていて、読んで学べることも多かったです。

 はじまりは養蜂家のフレッド・ヤギーというおじいさんが、木の枝に大きく鈴なりになったミツバチの大群をバサッと巣箱の中に落とすシーンから。そこはスイスの山岳地帯で、冒頭からその絶景に息を飲みました。映像美の素晴らしさは随所に表れていて、まるでミツバチにステディカムを取り付けたような飛行シーンも見事でした。これにはクアッドコプターという無人の空撮カメラが使われているそうです。

 蜂群(ほうぐん)崩壊症候群という言葉を目にしたことがある人は多いかもしれません。突然、ミツバチが大量にいなくなってしまう現象で、当初は原因不明とされてきました。蜂の巣、つまりコロニーはそこにあるのに、蜜を残したまま子供も死骸も何ひとつ残さず、まるで夜逃げのごとく、ある日忽然と姿を消してしまうのです。

みつばちの大地

 この映画を撮るために世界を4周したという監督のマークス・イムホーフ氏は「殺虫剤やダニ、抗生物質、近親交配、ストレス、それらすべての複合が、ミツバチの死因である」と言います。原因は複雑なようで、農薬が付いた花粉を巣に持ち帰り幼虫たちが死んでしまうケースや、ダニ、バクテリアなどの影響でノゼマ病や腐蛆(ふそ)病にかかり、ミツバチの身体や、ときには巣ごとやられてしまうケースもあるそうです。

 学校の理科でも習ったと思いますが、例えばおしべとめしべが同じ花のなかに伸びていても、普段は少し離れています。そこにミツバチなどの昆虫が花の蜜を吸いにくることで花のなかでゴソゴソと動き回り、おしべの花粉がめしべに付いて受粉します。これは被子植物の特徴で、昆虫を呼ぶために自らが広告塔となり、いつも色鮮やかな花を咲かせています。反対にスギなどの裸子植物は、昆虫に頼らず風によって花粉を飛ばし、受粉させます。ノープロモーションで済むので、どれが花か分からないくらい形も地味ですね(笑)。

 そうやって受粉で実った野菜や果物を、我々人類が収穫して食べるわけですが、現在、世界の食料の3分の1はミツバチに依存すると言われています。もしも本当に、このままミツバチがいなくなってしまったら、、、。中国では毛沢東の時代に、穀物を守るために数十億のスズメを処分し、その結果今度は昆虫が大量発生してしまったために殺虫剤が使われ、多くのミツバチがいなくなりました。完全に絶滅した地域では、人間の手による受粉が行われていますが、世界中の花を人間が受粉することは到底できません。

 僕も知らなかったのですが、コロニーの95%を占める働きバチというのは皆メスなんですね。女王蜂もメスですが、もちろん蜜や花粉を取って来たりはしません。ただし一度だけ、交尾飛行に旅立ちます。前回の蜻蛉(カゲロウ)のように、空のなかで結婚をするのですが、彼らは重婚制。空中で複数のオスの蜂と交尾をし、巣に戻って来て、あとは毎日2000個の卵をひたすら生み続けます(同時にほかの2000匹が死んでいきます)。そんなひとつのコロニーには約5万匹のミツバチが暮らしています。

 その5万匹は、もはやひとつの個体と言ってもよく、ときには1匹の偵察バチの新しい情報によって生まれたひとつの感情(の集合体)に従って決断し、一斉に移動します。蜂群崩壊症候群とは、さまざまな外的要因によって、彼らが一斉に「失踪」という道を選ぶことなのかもしれません。その5万匹のコロニーが5万コロニー、100万コロニーごと、ある地域からいなくなるということが、実際に起きているのです。まるで宇宙の星々の話にも思えます。

 僕がもっともハッとしたことは、映画の中と外にふたつありました。ひとつは映画のなかに出てくる、アインシュタインの「ミツバチがいなくなると人類は4年以内に滅びる」という言葉。もうひとつはそれを引用した監督が、今度はパンフレットのインタビューのなかで、それは本当は間違っているのではと答えるときのセリフです。「きっと最後は私たちが死に絶え、ミツバチが生き残るのではないでしょうか」。




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