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Vol.60 コメ展

  • 2014年6月5日

 前回に続き「食」に関する話題をレポートします。東京・六本木 21_21 DESIGN SIGHT で行われている「コメ展」を見に行ってきました。ディレクションは以前同会場で行われた「デザインあ展」でもおなじみのグラフィックデザイナー・佐藤卓さん。そして、マルチメディアと地球環境への独自の取り組みも興味深い、文化人類学者・竹村真一さん。

 日本の和食文化がユネスコ無形文化遺産になり「米」文化が見直されてきていますが、一方、TPPの農産物・主要5項目に関する関税撤廃の是非は未だ交渉中ですし、後継者不足の問題はつねに存在します。今一度、日々当たり前のように僕らが食べている「米」のことを、いろいろと勉強したいと思いました。

コメ展

 最初に強く印象に残ったのは、フォトグラファー西部裕介さんの「コメマンダラ」と「既知の未知」。とくに後者はひときわ大きなサイズで、視界全体を覆う田んぼの姿に心を奪われます。霧に包まれた荘厳な田んぼの風景や、山間の僻地に構える小さな田んぼ、広大な農地になぜかよくある1本の大きな木、などなど。もちろん春夏秋冬まったく違う顔を見せるのも、嘘のない田んぼの姿。写真は米にまつわる神事の数々も語ってくれます。

 お茶碗1杯は約3000粒、稲穂3束分だということで、種まき、田植えから稲刈りにおよぶ農作業を続ける方々の、たゆまぬ努力を感じます。しかしその1杯は、先代の遺伝子を起点にした3粒の稲と、根っこからの水(H2O)、大気からの二酸化炭素(CO2)と、太陽からの光エネルギーだけから生まれているとのこと。竹村さんも展示のなかで、「まったくのいきもの、まったくの精巧な機械」という宮沢賢治の言葉を引用します。

 アジアから伝播した稲作ですが、日本は傾斜が激しく、山から海へとあっという間に水が通り過ぎてしまいます。それでも、田んぼを多く形成することで天然のダムを作り、生物多様性も育む「人工自然」の発明へと繋がっていきました。人が手を入れていく「里山」の機能、そのものですね。

 メインの会場は藁(わら)のテーブルで全体が仕切られ、多種多様な結び方につい見入ってしまう巨大な「しめかざり」がたくさん飾られていました。日本人は家の屋根や敷物、草履や体を覆う簑(みの)など、稲の茎の部分である頑丈な藁に囲まれて生きてきたんだなぁと感じます。納豆菌を繁殖させるのも藁の仕事。おかげで朝からたくさんの栄養を貰っています。

藁(わら)のテーブル

 そのほかに40分の映像作品「白姓」が放映されていたり、自分が米になって様々な終着点を向かえる「おコメ人生すごろく」、米の部首を使った漢字で運勢を占う「コメみくじ」なども面白かったです。

 この日は会場のショップで「砂川ゆめぴりか」を、七分づきで精米してもらい購入しました。Vol.51でもレポートしていますが、北海道砂川市での「きこえる・シンポジウム」でこの「ゆめぴりか」の話が出ていたので、思わず飛びつきました。素朴な甘さで味わい深く、粘り気や弾力もあって、その後自宅で食べながら、おいしさに感動してしまいました。ちなみにピリカはアイヌ語で「美しい」を意味するそうです。

砂川ゆめぴりか

 そういえば「コメ展」を訪れた日は、朝食は自宅で炊きたてのご飯を食べ、ランチは六本木ミッドタウン内にあったベトナム料理店で「フォー」を、そして夜は友人との呑みの席で広島の日本酒を注文し、まさに一日を通して「米」の恩恵に預かりました。これからはしばらく炊きたてのご飯を食べるたび、その「米」自身との会話がはずみそうです。「コメ展」の期間は6/15まで。ぜひ足を運んでみてください。




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