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IPCC(気候変動に関する政府間パネル)には、私も第2次報告書、第3次と参画しました。第3次報告書のメインは、気候変動問題の元凶となっている二酸化炭素(CO2)が人為的な活動の下で排出増につながっているということを、不確定要素はたくさんあるけれども、後悔なき政策をとるべきだと打ち出した点です。 この時には、「DES」というキーワードの下で各執筆者は答えを書くべきというタスクを受けました。DESとは、DがDevelopment、EはEquity、SがSustainability。すなわち人類の公平を保ちつつ持続可能な開発を行うために必要となる課題をきちんと明記しなさいということでした。 EU(欧州連合)は、超省エネ社会づくりに向けて国際的な排出権取引などCO2をめぐる市場をつくってルールを回していこうと極めて戦略的に動いていると思います。国際政治の場で制約条件を合わせて京都議定書の採択までこぎつけた力は大変なものだと思います。 一方、米国はこれから急激に変わると思います。自己の持っている資源を確保しつつ、エネルギーの多様化を図る。車社会の米国では、石油の枯渇性の問題はどうしても避けられないためにエネルギー・環境に少しシフトした政策をとりつつあります。一つはバイオエタノールを2012年までに1億2,000万klを供給するという構想を打ち出しました。日本が今使っているガソリンの倍の量をエタノールで供給するというたいへんなリップサービスです。 中国は、「エネルギー確保こそ国家なり」という考え方です。3兆5,000億円を使って上流側へのエネルギー確保に走っている。ロシアも「エネルギー・資源こそ国家なり」という新国家資本主義です。サハリンのこともそうですが、海外の民間企業はロシアという国とどう戦うかということになり、摩擦が出てくる可能性があります。 このように世界で「資源こそ国家なり」という考え方が台頭しつつあって、それぞれの国が国家レベルの戦略としてエネルギー・資源を一つのターゲットとして考えるようになってきたというのが、現状ではないでしょうか。 日本はどうかと言うと、「新・国家エネルギー戦略」を2006年5月に経済産業省が出しています。 五つの数値目標があります(囲み)。一つが2030年に30%の省エネ。省エネが進めば、再生可能エネルギーがより多くのシェアを占める可能性が十二分にあります。 もう一つは、運輸部門のエネルギーにおいて、石油起源のものを80%まで下げるという数値目標です。これを達成するために、原子力発電を40%以上に上げ、またバイオエタノールは石油起源以外の目標20%の一部を占めてくるでしょう。バイオエタノールにしても原発にしても適材適所で使っていく考えにならないと、再生可能エネルギーの世界というのも広がっていかないと思います。 私個人としては水素の時代が必ず来ると思います。日本は技術開発が極めて進んでいる国なので、燃料電池自動車も2030年には商品化されているでしょう。また、産業工程には廃熱をガス化するなど物質とエネルギーを併産する「コプロダクション(coproduction)」的な考えを入れていかないと、本格的な省エネルギー社会はやってこない。例えば燃料電池などで水素を電気・熱に変換して、またエネルギーで使っていくという、コプロダクション+エネルギーシステムという考え方が、本格的な超省エネ社会をつくるのです。 これは極めて高効率なエネルギーシステムになると同時に分散型にもなります。原子力も石炭火力も天然ガスもエネルギー変換機器を使うものは規模のメリットがあるので、大規模集中型のエネルギーシステムが求められてきました。ところが、例えば太陽電池には規模のメリットがない。小さくても効率は変わらないんです。 わが国の新エネルギーの導入は新エネ政策の中で、1次エネルギー供給量約6億klのうち、たったの3%、約2,000万kl弱を2010年度で目標にしています。それでもなかなか達成できないだろうと言われている。一方、風力や小規模水力などその他全部を含めた再生可能エネルギーを2010年に7%まで達成しようとしています。 日本の場合、バイオマスエネルギーは地域活性化の切り札として使われています。例えば、日本で豊富な木質バイオマスは、山の中に寝ているものを間伐材としてうまく収集して、セルロース系のバイオエタノール技術の開発を行う。こういう地産地消のエネルギーシステムづくりを草の根的に始めて、大切に育てていく必要があると思います。 例えば菜種油を集めてきて、バイオディーゼルを作り、コミュニティバスを走らせる。また、市民が少しずつ出せるお金を集めてファンドとしたものを活用して、太陽電池を小学校など公共の建物の屋根につけるという例では、エネルギーに関する普及啓発や教育の一環にもなります。こういうことが一つの大きな流れだと私は思っています。 電力やガスの自由化がはやっていますが、設備産業である電力やガス事業では、大きな資金を要するのでそう簡単にはいきません。 ところが、バイオマスなどの分散型システムでは、地域の小規模なお金でうまく成り立つことができる。そこに分散型のメリットが出てきます。地域マネーがうまく機能していけば、地産地消のエネルギーシステムができていくはずです。そうなると、規制緩和が働いてきます。 アメリカではESCO(エネルギーサービスカンパニー)事業者が、分散型システムを大量に自分たちで調達をして、地産地消のエネルギーシステムを地域の中に入れています。これらのマイクログリッドは、さまざまな規模のものが2030年頃には出てくると予想されていますが、広く薄く分散している地産地消システムがなければ成り立ちません。そして、このシステムの中で省エネルギーが進めば、逆にマイクログリッドが発電所になり、地域の住民が民間電力事業者になることも可能です。 長期的に見て、プロサイドの電力供給形態と、一方で再生可能エネルギーをつなぐ地産地消のシステムを増やしていけば、国民の福祉を向上させながらCO2削減を達成し、それがビジネスモデルとして羽ばたいていく。こうなれば日本発でアジアに波及効果が出ていく。きれいごとを言うのではなく、極めて現実性に富んだ夢を語れば、国境や地域を越えたエネルギーシステムの到来ということになるんだと、私は思います。 (2007年2月8日東京都内にて)
新・国家エネルギー戦略の戦略項目
世界最先端のエネルギー需給構造の実現 1-1. 省エネルギーフロントランナー計画(30%以上の消費効率改善)
1-2. 運輸エネルギーの次世代化計画(石油依存度80%程度)
燃料改善、バイオマス由来燃料・GTL等の供給確保と環境整備、電気・燃料電池自動車等の開発・普及促進 1-3. 新エネルギーイノベーション計画
太陽光、風力、バイオマスなど特性に応じた導入支援など 1-4. 原子力立国計画(発電電力量の比率30〜40%以上)
資源外交、エネルギー環境協力の総合的強化 2-1. 総合資源確保戦略(自主開発比率40%)
2-2. アジア・エネルギー協力戦略
3 . 緊急時対応の強化
4-1. エネルギー技術戦略
4-2. その他環境整備
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