夢の超音速飛行復活に向けて、着々と。
NASAが超音速ジェット機「X-59」の地上でのエンジン性能テストを無事に完了しました。X-59の目的は、超音速ジェット機の最大の欠点だった騒音を低減し、「ソニックブーム」を「ソニックサンプ」(サンプ=ドスンという音)程度に抑えることです。
2024年10月から今月にかけて、NASAとLockheed Martin(ロッキード・マーティン)は共同で、X-59に搭載するF414-GE-100エンジンのテストを行なってきました。
「我々は予定通り、エンジンの地上テストを進めることができました」とNASA グレン研究センターのX-59推進リーダー、Raymond Castner氏はプレスリリースで言っています。
風洞実験では、想定通り滑らかで安定した空気流ができていました。構造的な、または過剰な振動問題もありません。冷却が必要なエンジンと機体のパーツも、きちんと冷却されていました。
NASAはX-59のテストの動画を公開しています。
まずX-59のチームは油圧系、電気系、環境制御操作システムをテストしました。次に彼らはスロットルチェックを行ない、機体のアフターバーナーを最大に点火しました。
Image: NASA Glenn Research Center/YouTubeジェットの部分に浮かぶ模様は「ショックダイヤモンド」と呼ばれる現象で、超音速でノズルから排出されるガスの圧縮と膨張によって作り出されています。
Image: NASA Glenn Research Center/YouTube飛行機の速度がマッハ1(音速、時速約767マイル≒1,234km)を超えるとき、気圧の波が衝撃波となって、耳をつんざくような音を発生してしまいます。この「ソニックブーム」と呼ばれる音は地上まで轟音として届き、建物の窓が割れることすらあります。
そのため米国では1973年、軍用以外の飛行機による国土上空での超音速飛行を禁止したほどです。商用の超音速飛行機としてはかつてコンコルドが存在していましたが、燃料効率が悪く採算も成り立たない上に住民からの苦情も多く、2003年に運行停止してしまいました。
X-59が米国カリフォルニア州パームデールにある格納庫から初めて姿を現したのは、2024年1月でした。全長99フィート(約30m)にして高さは14フィート(4.27m)、幅は29.5フィート(9m)の細長い機体は、空を切り裂く針のようにも見えます。その細長いデザインは、気圧の変化を低減し、従来のソニックブームをソニックサンプ程度に抑えるためのものです。
NASAのエンジニアはX-59の音を、車のドアを閉めるバタンという音になぞらえます。
Image: Lockheed Martinエンジンの搭載場所も、普通の飛行機では翼の下にあることが多いのですが、X-59では機体の先端にあります。これにより、発生する音を飛行機の下ではなく上に向けることができ、地上に届く音を低減できるとされています。
超音速フライトの復活に挑むのはNASAとLockheed Martinだけでなく、他の民間企業も別のプロジェクトで挑戦しています。
今年1月下旬、Boom Supersonicは実験機「XB-1」での超音速飛行を初めて行ない、1回のフライトの中で超音速状態に3回達しました。
X-59の巡航高度は通常の飛行機より高い55,000フィート(約1万6764m)で、時速は925マイル(1,489km)になるよう設計されています。X-59の初飛行は、当初計画では2024年とされていましたが、直近のプレスリリースではスケジュールに関する修正はなく、さらなるテストが必要だと書かれています。
具体的には、電磁干渉のチェックと、通常時・故障時のデータ処理方法のテスト、そして実用を見据えた地上移動テストも行なわれます。
X-59の初飛行後もNASAはテストを重ね、ソニックサンプが地上からどう聞こえるかを確認していきます。そのデモは2027年に行なわれる予定ですが、それが実際いつになるかも、まずは初飛行が決まってからになりそうです。