アメリカでブタの腎臓を移植した女性が、無事に術後2ヶ月を迎えました。
ブタの腎臓移植手術を受けたのは、アメリカ在住、53歳のTowana Looneyさん。
遺伝子編集されたブタの腎臓が、生きた人間に移植されるのはこのケースで3回目。10回の遺伝子編集を経たブタの腎臓が移植されるのは初めてで、Looneyさんは現在、豚の臓器を持って生きる世界で唯一の人となります。
左から、移植外科医のJayme Locke医師、手術を受けたTowana Looneyさん、ニューヨーク大学ランゴーン移植研究所所長のRobert Montgomery博士Looneyさんは1999年、自身の母親に腎臓を提供しその後、妊娠中の合併症で高血圧が悪化、その数年後に腎不全を発症。それから8年近く透析を受けていましたが、長年の透析によって血管はボロボロになってしまったそうです。
Looneyさんの名前は移植待機リストの上位にずっとありましたが、今後も適合するドナーが見つかる見込みがないことから、FDA(アメリカ食品医薬品局)の拡大アクセスプログラム、いわゆる人道的使用に基づき、成長ホルモンなど10ヶ所の遺伝子編集を施したブタの腎臓の移植手術が許可されました。
手術は2024年11月25日、ニューヨーク大学ランゴーン医療センターで行なわれました。7時間にも及ぶ手術は、無事に成功。
8年前に腎不全になって以来、こんなに体調がいいのは初めてです。1日で10ブロックも歩きました。透析を受けていたときは、息切れせずに長い距離を歩くことはできませんでした。いまはエネルギーに満ち溢れています。まったく新しい世界、まったく違う感覚です。
と語るLooneyさん。NPR(National Public Radio)によると、すでに病院を退院し、近くのアパートに引っ越し、日々健康に過ごしているそうです。
今回、Looneyさんに移植された“Ukidney”と呼ばれる腎臓は、米バイオテクノロジー企業であるユナイテッド・セラピューティクス社の子会社、Revivicor社が開発し遺伝子編集されたブタのもの。ブタの臓器をヒトに移植する「異種移植」は、移植のための臓器の不足を背景に注目されていて、日本でも明治大学発のスタートアップベンチャー企業、ポル・メド・テックが臓器移植用ブタの開発・生産を進めています。
ちなみに、ブタの腎臓移植手術が生きた人間に初めて行なわれたのは、2024年3月。末期の腎臓病を患っていたアメリカ人男性(62歳)が移植手術を受けました。移植の結果ではないとしながらも、手術の数ヶ月後にこの男性は亡くなってしまいました。その前にも、ブタの心臓をヒトへ移植する手術が行なわれましたが、残念ながら手術を受けた2人の患者もすでに亡くなっています。
現在、アメリカの移植待機リストには約10万4000人が名を連ねており、そのうち9万人以上が腎臓移植を待っています。米疾病予防管理センターによると、アメリカでは成人の7人に1人以上、約3550万人が慢性腎臓病を患っていて、そのうち約80万人が末期腎不全であると推定していますが、2023年に腎臓移植を受けられたのはたったの約2万7,000人でした。
倫理的な問題なども含めて課題はありそうですが、もしも自分が臓器移植を待つ立場だったらと考えると…。再生医療は今後、さらに発展していきそうですね。
Sources: NYU Langone Health
Reference: BBC
「ギズモード・ジャパンのテック教室」