19世紀から乱獲時代を生き延びたクジラがどこかにいるかもしれないってことか。
長生きのクジラ種がいるのはなんとなく知っていましたけど、南半球に生息するミナミセミクジラのご長寿ぶりは想像をはるかに超えていきました。
アラスカ大学フェアバンクス校を中心とする研究チームによると、ミナミセミクジラはこれまで考えられていた寿命のほぼ2倍に相当する130年以上生きられる可能性があるそうですよ。
この驚きの研究結果は、学術誌Science Advancesに掲載されています。オープンアクセスなので、誰でも無料で読むことができます。
研究チームは、40年にわたって収集された個体追跡データを使用し、保険会社が人間の寿命を計算するような方法で、南半球に住むミナミセミクジラと北米大西洋沿岸で暮らす絶滅危惧種のタイセイヨウセミクジラの寿命を分析したところ、驚きの結果を目の当たりにしました。
ミナミセミクジラは、これまで考えられていた70〜80年どころか、なんと130年以上も生きられる可能性があるそうですよ。それどころか、150年近く生きる個体がいるかもしれないといいます。
Image: Breed et al. 2024 / Science Advances ミナミセミクジラ(赤線)とタイセイヨウセミクジラ(青線)の寿命研究によると、ミナミセミクジラの平均寿命は73.4歳で、10%の個体が131.8歳を超えていたそうです。その一方で、タイセイヨウセミクジラの平均寿命はたったの22.3歳で、47歳を超える個体は10%しかいないのだとか。
同じセミクジラなのに、平均寿命の差が50年以上、長生きしまくったタイセイヨウセミクジラですらミナミセミクジラの平均寿命にも届かないんですね。
では、どうしてこんなに寿命が違うのでしょうか。研究を率いたアラスカ大学フェアバンクス校のGreg Breed准教授は、原因は人間活動にあると指摘し、次のように述べています。
「タイセイヨウセミクジラは、ミナミセミクジラと比べて極端に寿命が短いのですが、これは生物学的な違いによるものではありません。本来ならもっと長生きできるはずです。タイセイヨウセミクジラは、漁具に絡まったり船と衝突したりする事故が多いのです。また、エサ不足にも苦しんでいます。これは、私たちが十分に理解していない環境の変化と関連している可能性もあります」
今回の研究は、保護活動に重要な示唆を与えています。Breed准教授によると、高齢の個体を含む健全な個体群を回復するには、数百年かかるかもしれないそうです。100〜150年生きて、約10年に1頭しか出産しない動物の場合、回復が遅いのは当然とのこと。
この研究はまた、クジラの個体群における文化的な知識の重要性を示しています。「回復」というのは、単に個体数やバイオマスだけの問題ではなく、クジラ社会の中で受け継がれていく文化や知識の問題でもあるといいます。
高齢の個体は、若い世代に生きるための知恵を伝える重要な役割を担っているそうです。若いクジラは高齢の個体の行動を見て学び、生き抜くためのコツを身につけていきます。高齢の個体が減ると、この重要な知恵の伝達が途切れてしまい、若い世代の生存にも影響を及ぼす可能性があるそうです。なんか人間社会にも通じるような気が…。
研究チームは今後、現在80年程度と考えられている他のクジラ種についても、実際にもっと長生きするかどうかに関する研究を計画中。さらに、捕鯨が現在のクジラの個体群における高齢個体数に与えた影響の解明や、高齢個体数が捕鯨以前の水準に回復する時期についても詳しく調べる予定だそうです。
Source: Breed et al. 2024 / Science Advances, University of Alaska Fairbanks