初代は買ってはいけない。これはガジェットのあるある教訓です。いや、買ってもいいのよ? 買ってもいいけど初代は不具合が多いよという話。これは、昨今の最注目テクノロジー、AIにおいても同じこと。
昨年2024年は、AI〇〇と銘打った品は確かに多く出たものの、実際の機能は企業がアピールするほど実現されませんでした。機能自体がリリースと同時に使用できないもの、デモ動画で見たようなスムーズな使い方はできないものなど、どこか「思っていたのと違う」結果になった印象でした。
ChatGPTが台頭した2023年後半をAI元年とするなら、多くのAIプロダクトが世に出た2024年はAI2年目。そして、今、3年目に入ったところ。2025年は、2024年の「思ってたのと違う」をどこまで理想に近づけられるかがAIの課題です。
2024年に浮上した「思ってたのと違う課題」をまとめてみました。
2024年初めに一気に注目を集めるも、同じスピード感で波が引いた気がするウェアラブルAI。Humane AI PinとRabbit R1がその代表です。失敗の理由は明らか、単純に時期尚早でした。できることが限られているし、何より遅い。
Humane AI Pinは、リリース前にアピールされた多くのことをうまくこなせず、たとえできたとしてもバッテリー持ちと熱問題が心配。充電パックのリコール問題、売れ行き不振による企業身売りニュースと、リリース後はAI以外の部分がにぎやかだった印象です。
その後、12月にはAI Pinとはまったく別に、AIのためにゼロから作られたOSとして「CosmOS」をスタート。これは、車、スマートホームガジェット、テレビなどで使うAIという想定。しれーっとウェアラブルAIから、AIソフトウェアに方向転換したのかな?
Rabbit R1は、リリース前は自称パーソナライズなOSに期待がかかったものの、フタを開けてみればただのAndroidベースのシステム。多くのタスクをクラウド経由で行なうため、データの安全性が不安視される結果に。11月にはOSアプデで、「カスタムAIエージェント」がリリースされたものの、本来ならリリースから使えるべきだったものなうえ、現在もまだベータ版。
そのほか、ポケットサイズのAI翻訳機TimekettleのX1 Interpreter Hub。言語によって、その出来にかなりの差がありました。MetaのRayBanコラボAIグラスもありました。AI画像認識も毎回うまくいくわけではなく、やはりAIグラスと呼ぶには抵抗がある仕上がり。日常を記録するというAIカプセルPlaud NotePinは、使用ケースが限定すぎる印象です。
IntelやQualcommのチップ発表で競うようにアピールされたNPU値。Snapdragon X EliteやX Plusでざんざん耳にしました。Microsoft(マイクロソフト)は、QualcommのARMチップ搭載のパソコンを「Copilot+ PC」と呼び猛アピール。
2024年1月に参加したインテルのイベントにて、上級VPであるSachin Katti氏に、「AI PCと呼ばれる端末は、リリースと同時にAIを端末内で走らせることができるのか」と質問したことがあります。その答えは「YES、ただし対応しているアプリは少ない」というものでした。これは、テック史上初めて、テクノロジーが既存のソフトウェアを上回ったと感じた瞬間でした。
2024年のAIアプリで最もメジャーだったのは、ChatGPTをはじめとする各種チャットbot。これは、端末内でのAI処理をマストとしませんでした。次にCopilot+が登場、これが転換期となり、NPC力の高いAI強化型チップを端末に搭載することで、端末内処理を加速させました。AMDのStrix Point、インテルのLunar Lakeと、その後、続々登場し、WindowsパソコンとしてCopilot+と呼ばれる条件をクリアしていきました。
MicrosoftのAIパソコンCopilot+には、Copilotという専用キーが搭載されています。が、実際のAI機能はどうかというと、これを目当てに端末を購入するメリットはないというのが本音。端末内でできることといえば、せいぜいAI画像生成かテレビ電話のキャプション補助くらい。デモでアピールされていたAI機能Recallは、発表後すぐからセキュリティとプライバシー保護をめぐって物議の的となりました。リリースを遅らせ11月にプレビュー版として公開されるも不安は残ったまま。
AI機能を「Apple Intelligence」として2024年に猛アピールしたのがApple(アップル)。春の開発者イベントで華々しく発表され、秋にiPhone 16シリーズが出るも、期待されているAI機能が来たのは2024年末ギリギリ。12月のmacOS Sequoia 15.2アップデートでは、画像生成のImage Playgroundや、SiriのChatGPT統合がMacにも登場。ただし、AI機能が使用できる端末は制限あり。
そのほか、AIをローカル処理できる小型マシンとして、Nvidiaが4万円程度の「Orin Nano」を発表。これは期待高い!
AIの未来があるというAIエージェントは、簡単にいうと大きなタスクをこなすために自身で考えて行動できるAIモデルのこと。つまり、ユーザーのリクエストに1つ1つ答えて作業完了に向かうのではなく、作業完了のためそれに必要な細々したことをAIが複合的に考えて動くわけです。そして、このAIエージェントこそ現代のAI最大のチャレンジ。2024年はバズワードと言っても過言ではないほど、あちこちで発言されたものの、実用化はまだまだ先の話。
例えば、AIのClaudeを有するAnthropicが10月に公開したAIエージェントのデモ(Claude 3.5 Sonnet使用)では、AIがChromeにアクセスし、Google(グーグル)検索にワードを入力し、ユーザーのカレンダーにスケジュールを書き込む一連の流れを披露しました。が、AIエージェントの難しさは、タスク完了までの道のりが長いため、どこか1つつまづいてしまえば取り返しがつかないこと。旅行プランを作るのに、もしスケジュールに書き込んだフライト番号が間違っていれば、そのほかが完璧でもユーザーの旅行は完全アウトなわけで…。
GoogleのGemini 2.0やOpenAIのGPT-o1といったAIモデルは、ナンバリングとともに進化していきます。ベンチマークの数字は明らかに上がっていくものの、エンドユーザーである我々消費者がその違いを実感できるかはまた別の話。
AIエージェントはAIに任せるタスクが大きくなり複合的な判断が必要になることから、ユーザーの私生活にも密に触れることになるでしょう。そこで出てくるのがセキュリティとプライバシーの問題。端末内処理だけでなく、クラウド処理も必要になります。
Appleは、ユーザーのデータをプライベートクラウドコンピューティングシステム内にとどめ、セキュイリティ対策を行なうと宣言。OpenAIは、ユーザーのChatGPT履歴に直接アクセスできるものの、アクセス権を適切な関係者のみに限定していると説明。Microsoftは、現状ビジネスプラン(365)優先で、インハウス型AIエージェントの提供を約束しています。一方、Googleは、諸所明確にはしておらず。
今年は、AIエージェントの成長とともに企業のユーザーデータの取り扱い姿勢にも、より厳しい目が向けられていくことになります。
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