サイエンス分野の気になるプロジェクトを取り上げる、米Gizmodo恒例のサイエンス特集。耳をつんざくようなソニックブームを抑えながらも超音速飛行するであろう実証機を開発したNASAのQuesstチームも、今年の特集にピックアップされました。
はたして航空機はソニックブームを発生させずに超音速飛行できるのか?
音速の壁が破られてから76年、そして超音速旅客機の運航が終了してから20年が経っていますが、超音速フライトと音よりも速く飛ぶジェット機の大騒音とはいつまでも切っても切り離せない関係です。
NASAのX-59は非常に長いノーズでもってソニックブームを低減し、爆音よりも低音量の“ソニックサンプ”にまで下げるよう設計された実証機。
人の耳には轟、爆発音として聞こえる強力なソニックブーム(圧力変化)の影響を地上に及ぼさないことが狙いです。
と、X-59のチーフエンジニアのJay Brandon氏は言います。
何年にもわたって工学的挑戦に取り組み、X-59の飛び方をモデリングしたのち、チームは1月に同機を正式にお披露目しました。しかし同機はまだ飛んではいません。年内に設定されている初フライトは、長年この航空機に従事しているQuesstチームにとって決定的瞬間となるはず。
NASAアームストロング飛行研究センターの低ブーム実証プロジェクトの副チーフエンジニアMark F. Mangelsdorf氏は、航空機を最初に空中でテストせずともソニックブームが生じるのかどうかを予測する能力を作り出すことがひとつの課題だったと述べていました。
X-59の針のような極端なノーズコーンの形状は前述のソニックサンプを可能にするはずのものですが、このデザインは機体にフロントガラスがない理由でもあります。チームは外部視界システム(XVS)という、前面の窓がなくともX-59のパイロットが外を見ることができるスクリーン一式を開発することで、その問題を解決しています。
X-59は全長約30.39mで、全幅9m。この航空機はたったひとつの単純な理由のために、短剣のごとく細く尖った形をしています。NASAはソニックブームの音量をそれほど不快ではない小さな音へと落として、超音速航空機が再び合衆国上空を飛行できるようにしたいのです。
民間機による陸地上空での超音速飛行は米連邦航空局(FAA)によって1973年以来禁止されていて、その主な理由は頭上を通る軍用機の爆音とその轟で窓ガラスがガタガタと揺れることに市民が怯え悩まされたことにあります。Brandon氏はこうコメントしていました。
70年代から現在に至るまで本当に長い道のりでしたが、解決できたかどうかはこの航空機を飛ばしたときにわかるでしょう。
ソニックブームは物体が音(約767mph、マッハ1)よりも速く移動するときに生じます。しかしX-59チームは、この航空機がそれを変えられると考えていて、2020年代後半には米国の数都市でテストするつもりです。
X-59は高度約5万5000フィート(約1万6800m)を925mph(マッハ1.4)で飛行するよう設計されています。音速で飛ぶ際、同機は地上から聞こえはするものの本物のソニックブームよりも驚かせない、「ドアを閉じるような騒音」を発生させるはずだとBrandon氏は言います。
民間の超音速フライトが復活すれば世界中の移動時間は劇的に減りますが、そのために米国はFAAの許可を必要とし、その実現にはソニックブームが低減される必要があるのです。
Quesstは未来の超音速航空機デザインに通じる道であって、X-59は市民を運ぶわけではありませんが、地上の日常生活に支障をきたさない超音速航空機の技術的な実現可能性を実証するでしょう。でもそのためにはまず飛ぶ必要があります。
X-59モデルのシュリーレン画像。NASAグレン研究センターの超音速風洞にて Image: NASAX-59の初フライトは2024年末に予定されています。ひとたび実現し成功した場合、Quesstチームは2025年を通じて、カリフォルニア州にあるエドワーズ空軍基地及びNASAのアームストロング飛行研究センターで飛行テストを続けます。
その後、同機は2026年と2027年の間に選ばれた米国の都市上空を何度か飛んで、地上の人々のためにソニックブームが十分に低減されているかどうかを実証することになっています。NASAはこの地域での実験のデータを2030年までにFAAに提供する予定。そうしたらFAAは、商用の超音速航空機に合衆国の陸地上空の飛行をさせない現行の規制を変えることができるという流れです。
「X-59のソニックサンプはこれ以上ないほど静か」だとMangelsdorf氏は語っていました。
機体を長くしていたらもう少し静音にできたかもしれませんが、このミッションを実行するには十分静かだと考えました。そして同機を飛ばし始めてから、さらに静かにする方法を学べればと思います。
とこと。全長と幅の比率がさらに極端な機体…というのは、おもしろい考えですね。
X-59が今年飛び始めたと仮定しても、その成功の全容は2027年まではわかりません。しかしどんな競争にも最初の一歩があるわけで、この独創的な航空機が飛行機による旅の次の時代の到来を告げるマシンとなるのかもしれません。
X-59チームにはJay Brandon氏をはじめ、Peter Coen氏、David Richwine氏、Nils Larson, Lori Ozoroski氏、Walt Silva氏、Alexandra Loubeau氏が在籍しています。
Source: YouTube, NASA(1, 2, 3, 4),
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