地球がなくなるまで1秒も狂わない時計よりも、死ぬまで電池が切れない時計がほしい。
世界初の原子核時計、爆誕。原子核時計は、その名の通り、原子核からのわずかな信号によって時間を刻む装置です。アメリカ国立標準・技術研究所(NIST)の共同研究機関である宇宙物理学研究所連合(JILA)の科学者が率いる研究チームは、原子核時計に関する研究結果をNatureに発表しました。
NISTとJILAに所属するJun Ye氏は、NISTのプレスリリースで次のように述べていますよ。
何十億年放置しても1秒も狂わない腕時計を想像してください。まだそこには到達していませんが、この研究によって、そのレベルの精度に近づいています。
長期間にわたって非常に安定している原子時計は、最も精密な測定において科学者の信頼性が高くなっています。腕時計などのいわゆる普通の時計は、振り子時計のように、特定の周波数で振動する水晶振動子を使って時を刻んでいます。
しかし、宇宙探査機の正確な位置を把握するようなリスクと背中合わせの計測には、原子時計のような最高レベルの精度が求められます。
原子時計は、原子を周回する電子を、レーザー光によってエネルギー準位間で移動させて時間を計測しています。
NISTによれば、原子核時計も原子時計と同じように、原子核のエネルギー準位間の移動を利用して時間を刻むそうです。ただ、原子核時計は原子時計と違って、環境の電磁場の影響を受けないため、ノイズが少なく、より正確に時間を刻むといいます。
原子核時計が時を刻むには、原子核をエネルギー準位間で遷移させる必要があります。研究チームは、そのために特別設計のX線から、フッ化カルシウムの結晶にトリウム229の原子核を埋め込んだ紫外線を照射することで、原子核を励起させました。
研究チームの一員で、ウィーン工科大学の物理学者であるThorsten Schumm氏は、同大のプレスリリースで
この最初のプロトタイプで、私たちはトリウムが超高精度の時計に使用できることを証明しました。あとは技術的な開発だけで、大きな障害はないと思われます。
と述べています。
今回発表された原子核時計は、現存する最も精密な原子時計よりも正確ではありませんが、Schumm氏は数年内に追い越すと見込んでおり、次のように話しています。
初代の自動車は、馬車より速くありませんでした。新しいコンセプトを導入するのがすべてだったんです。それこそが、今回私たちが原子核時計で成し遂げたことなのです。
7月には、今回の研究に参加したJun Ye氏も関わった別の研究で、300億年に1秒しか狂わない史上最も精密な原子時計を発表しています。原子核時計はいったい1秒狂うのに何百億年かかるようになるのでしょうか。
ちなみに、宇宙誕生からまだ140億年たっていません。地球に至っては50億歳にもなっていません。
地球が太陽に飲み込まれるまであと50億年とも75億年とも言われています。10秒も正確に数えられない身としては、地球がなくなるまで1秒も狂わないのはひたすらすごい……という感想しかありません。
Reference: NIST, Nature