地球を取り囲む宇宙の暗闇には、太陽系のとある領域から飛来した小さな氷天体の集団がひしめいています。
彗星でも小惑星でもないこの謎めいた天体は、数十億年前の地球に水を運んできたルートの1つかもしれないと論じる研究が先月発表されました。
地球近傍天体(NEO)の最大60%は“暗黒彗星”だと、最新研究は示唆しています。暗黒彗星とは、彗星と小惑星両方の特性を備えるほとんど目に見えないハイブリッドな天体のこと。このような暗黒彗星は小惑星帯(火星と木星の間にある太陽系の領域)に存在する遥かに大きな天体の一部だった可能性があるものの、放出されてから小さな破片に分裂していき、今は地球の近くを飛んでいます。
この研究成果はプレプリント・サーバーarXivで閲覧でき、学術誌Icarusに掲載されています。
「このような暗黒彗星が地球に水を届けたかどうかはわかりません。そうは言い切れませんが、地球の水が正確にはどのようにやってきたのかに関してはまだ議論中であるとは言えます」と、ミシガン大学天文学部の大学院生で最新研究の筆頭著者Aster Taylor氏は、大学のリリースの中で述べています。
「私たちが行なった研究は、これが太陽系のどこか他の場所から地球の環境に氷をもたらす新たな経路だと示すものです」
地球の約71%が、地上の生命にとって重要な液体である水に覆われています。水は地球にとって欠かせませんが、水がどうやって地球に供給されたのかは未だにわかっていません。地球の水の起源については地球誕生時から存在していた可能性や、小惑星か彗星のような宇宙空間を飛来する天体を介して辿り着いたなど諸説あります。
小惑星は火星と木星の間の領域で太陽を公転する岩石天体で、氷がガス化するほど太陽に近いです。その一方で彗星は氷と塵から成る天体で、太陽に近づくとそれらが蒸発し始め、コマというぼんやりとした雲を形成します。
その中間にあるのが暗黒彗星で、小さくてほとんど見えない天体は彗星のコマをもたないものの、軌道は小惑星のように太陽の重力の影響を受けているわけではありません。その代わり、最新の論文に携わった研究者たちが調べた7個の暗黒彗星は、太陽の重力だけでは説明できない軌道の加速を示していました。氷の昇華による加速は非重力加速と呼ばれており、彗星はこの変わった動きを示しているのです。
「このような天体は小惑星帯の内側及び外側からやってきたと私たちは考えており、その意味するところは、これが氷を内太陽系に取り込む別のメカニズムであるということです」
とTaylor氏は言います。
暗黒彗星の起源を突き止めるため、研究者たちは異なる集団の天体にかかる非重力加速のシミュレーション・モデルをつくり、それらが10万年の期間にわたって進む経路を追跡しました。このような天体の多くは暗黒彗星が現在見つかった地点に辿り着いており、その発生源として最も可能性が高いのは小惑星帯であるとわかりました。
最新の研究論文で調べられた天体の1つである暗黒彗星「2003 RM」は、地球に近づいてから木星を目指して再び地球を通り過ぎるという、木星族彗星と同じ楕円軌道を辿ります。その一方で、残りの暗黒彗星たちは小惑星帯の内側から来た可能性があるそう。
大きな天体の破片である暗黒彗星は高速で自転する小さな天体ですが、自転を加速させる氷を含んでいると思われます。以下、Taylor氏の説明です。
「これらの破片も氷を含んでいますから、もっと分裂するまでどんどん速度を上げて自転していくでしょう(中略)いくつかの大きな天体を分裂させると、このような小さくて高速で自転する天体ができるのです」。
今回の研究で暗黒彗星について少し明らかになりましたが、どのように地球の歴史に貢献していた可能性があるかなど、学ぶべきことはまだたくさんあります。前述のリリースの中で、Taylor氏はこう語っていました。
「小惑星帯の内側には、私たちが考えていたよりも多くの氷が存在するかもしれません。宇宙にはこのような天体が、もっとあるのかもしれません。最も近い集団の大部分がこれだという可能性があります。本当のところはわかりませんが、これらの成果によってさらに多くの疑問が生じています」
Source: arxiv, University of Michigan,