ちょっと禁断、な気もする。
遺伝子工学企業のコロッサル・バイオサイエンス社は火曜日、絶滅した幻の鳥「ドードー」の復活に挑戦すると発表しました。「脱絶滅」活動を支えるため、あらたに1億5000万ドルの資金調達も済ませたもよう。
すでに同社は2022年9月には「ドードー復活プロジェクト」を計画していましたが、今回さらに一歩踏み込んでその壮大なプランやシードファンディングの状況を提示。目標達成に向けた本格的な始動をアピールしました。2度目の資金調達はUnited States Innovative Technology Fundや、CIAが出資するVC企業In-Q-Tel(9月に同社へ初出資)など、複数のベンチャーキャピタルが主導し、総額1億5000万ドルもの資金が投じられました。
同社ではドードー以外にもマンモス、そして最大の肉食有袋類であるフクロオオカミ(タスマニアタイガー)を「復活を目指す絶滅動物」として掲げています。
コロッサル社の目標は、単にこれらの動物をよみがえらせることだけではありません。復活させた動物を、かつて存在していた生息地に再導入することで、ある種の正常性をその環境に取り戻すことができるという考えなのです。
マンモスが絶滅したのは今から4000年前、ロシア北東部のウランゲル島が最後の住処でした。飛べない鳥ドードーはでモーリシャス島に生息していましたが、1681年以来姿を消しています。そしてタスマニアタイガーは1936年、タスマニアの動物園にいた「最後の一匹(と言われている)」が死亡し、その後生存が確認されていません。近年、それらの動物の遺伝子解析がすすみ、2015年にはマンモス、2016年にドードー、2018年にタスマニアタイガーのゲノムすべてが解読されたそうです。
ドードーはなぜ絶滅してしまったのか。それはやはり人間のせいということになるでしょう。人に狩りつくされ、人が持ち込んだ捕食動物や害虫に命を奪われ、生息地を失ったのです。マンモスも人が絶滅の要因になっているのかもしれませんが、ドードーとタスマニアタイガーは人類が驚異的なスピードで絶滅に追い込んだ動物の典型になってしまいました。
ヨーロッパ人がタスマニアを植民地化した際、そこにいたタスマニアタイガーは家畜の羊を襲う「脅威」と見なされ、駆除の対象となりました。タスマニア政府が懸賞金をかけるほど有害な動物扱いされていましたが、この脅威はかなり誇張されたものだったといわれています。専門家によっては「1936年以降も数十年間は野生のタスマニアタイガーが残っていた」という人もいますが、このアイコニックな種が窮地に追い込まれたことは間違いないでしょう。
コロッサル社はまた、ドードー復活プロジェクトを監督する「鳥類ゲノム研究グループ」の創設も発表しています。青と灰色でずんぐりむっくりした外観のドードーは体重が25kg以上あり、曲がったくちばしが特徴。モーリシャスにはドードーの天敵がいなかったことから、飛べない鳥として進化を遂げました。しかし1507年、ヨーロッパ人と出会ってしまったのが運のツキ、その約150年後には絶滅してしまいました。
もしもこの会社の研究が成功すれば(成功する可能性は高い)、絶滅したドードーの「代理種」が動物界に持ち込まれることになります。絶滅種を復活させるといっても、実はコロッサル社が遺伝子操作で生み出す動物は過去のマンモスやドードー、タスマニアタイガーをそのまま復活させるのとはちょっと違うのです(たとえば残された細胞を培養してクローンを作る、というわけではない)。
今回とられている「脱絶滅」のプロセスというのは、絶滅した生物そのものではなく、科学的見地から「最良の類似物」を得るという考え方です。具体的にいうと、21世紀によみがえるマンモスには現代のゾウのDNAが組み込まれることになり、新生タスマニアタイガーは似た種(近縁種)のゲノムと卵から作られることになるということです。
2016年、国際自然保護連合の「種の保存委員会」は、代理種を生成する基本ルールを示した報告書を発表しました。その中で同委員会は「ここでいう代理とは、ある意味(表現型・行動・生態学的)において、別の実体(絶滅種)の代わりになるもの」と表現しており、「代理は複製(正確なコピー)を作ることより好ましい」と続けています。
ナショナル・ジオグラフィック誌によると、コロッサル社が絶滅の危機にあるアジアゾウを使うのではなく、人工子宮から代理マンモスを生み出す意向なのだそう。
ただし、遺伝子情報だけでは絶滅動物の特徴をすべて知ることはできず、どのように活動していたか、という行動特性までは読み取れません。あらたに作られたマンモスが、外観はそっくりでも4000年前のマンモスと同じように行動しているかどうかは、確認のしようがありません。幸いタスマニアタイガーの映像は残っていますが、たとえば「ダブルイップ」と呼ばれる独特の鳴き方がどんな状況で使われたのかなど、その詳しい生態は時間の経過とともに失われています。
昨年、興味深い論文が生物学術雑誌『Current Biology』に掲載されました。この論文のテーマは、やはり絶滅種でかつてクリスマス諸島に生存した「ブルドックネズミ」の復活です。このネズミは現存する「ノルウェーネズミ」の近縁にあることがわかっており、遺伝学者がノルウェーネズミを使ってブルドックネズミをよみがえらせる原理検証モデルを開発したと紹介されています。
2種のネズミにはゲノムの領域がほぼ重なり合っている面(ケラチンに関わる遺伝子や、毛色や耳の形など)があるそうで、研究チームはその要素については再現できると自信を持っているのだそう。その一方、ブルドックネズミの嗅覚や免疫反応に関連する遺伝子は、現存するノルウェーネズミの遺伝子にはほとんど存在しませんでした。なので、もしも研究チームが何らかの方法でブルドックネズミを復活させようと思っても、免疫反応や嗅覚に関する要素はあくまで「本物っぽいもの」で、いわば成りすますことになります。
同様に、タスマニアタイガーやドードー、マンモスの代理種が本物とまるっきり同じ行動特性を見せるかどうかはわかりません。動物の行動というのは、多くが親から教わるもの。でも復活させられたマンモスはこの世に一匹しかいませんから、親もありません。
今のところ、タスマニアタイガーの復活計画では「タスマニアタイガーのような細胞」の核を、遺伝子操作したフクロネコの卵に植え付けることになっています。フクロネコもまた有袋類の一種で、コロッサル社のチームはこれがタスマニアタイガーを再生成するのにもっとも適していると考えています。同社のHPによると、宿主となるフクロネコの遺伝子は、より「タスマニアタイガーっぽく」なるよう操作されるといいます。
コロッサル社のようなスタートアップが実際に代理種を作るかどうかは別として、「代理種を作る」という名目で遺伝学の研究がすすめば、動物種同士の関係や病気などの脅威から生物を守る方法など、さまざまなことを教えてくれるはずです。
絶滅した動物も、現存する動物も、遺伝子レベルでそれを理解するのは悪いことではありません。大事なのは、テクノロジーが誰に、そしてどのように扱われるか。そこは本当に慎重にならなければいけません。
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