謎に包まれていた生物の正体が、やっと解明されつつあります。
「プリンシペコノハズク(学名:Otus bikegila)」と命名されたこの新種のフクロウは、アフリカ西岸に位置するサントメ・プリンシペ民主共和国のプリンシペ島で発見されました。
夜行性にして白昼は苦手?ちょっと眠たげなプリンシペコノハズク Photo: Martim Melo via Gizmodo US「発見」と言っても、島民によるプリンシペコノハズクについての証言は1928年まで遡るそうです。2016年になってから科学者の間で「新種かも?」説が浮上し、このたび科学誌『ZooKeys』に発表された研究によって初めて新種だと認められました。
新種と特定するために研究者たちが注目したのは、プリンシペコノハズクの形態、遺伝子情報、そして独特な鳴き声。
お隣りのサントメ島に生息するサントメコノハズク、そしてアフリカ大陸に広く生息するアフリカコノハズクとは共通の祖先を持つものの、プリンシペ島に渡り数千年のあいだ孤立していた結果、独自の進化を遂げたそうです。
プリンシペコノハズクは、近縁種と比べると翼長とくちばしが長いのが特徴です。今回の研究対象となった4羽は、平均して体長およそ200mm。猛禽類にしては小さいほうでしょうか。
遺伝子情報を調べてみたところ、同属のコノハズクとは有意な差があることがわかりました。
鋭いツメは猛禽類の証 Photo: Martim Melo via Gizmodo USさらに、プリンシペコノハズクの最大の特徴はその不思議な鳴き声にあります。
こちらを聞いてみて、どう思われましたか?筆者にはワンコの甘え声にも、ブラジル音楽に使われるクイーカの音にも似ているような印象でした。こんな声が森の奥から聞こえてきたら、確かに気になりますよね。
この独特な鳴き声を手がかりに、プリンシペコノハズクの調査に乗り出したのがポルトガルのポルト大学に在籍している進化生物学者、Martim Melo氏です。
Melo氏の研究に必要不可欠だったのが、ローカルナレッジでした。
プリンシペ島で暮らす人々は、以前からプリンシペコノハズクの存在を聞き知っていました。その貴重な地元民の知識を科学者へ伝達する役目を果たしたのが、通称 “Bikegila” ことCeciliano do Bom Jesus氏。
彼はもともとオウムハンターで、豊富な森の知識の持ち主でした。そして、プリンシペ島の森の中で、木のうろに棲む大きな目を持つ鳥をたびたび目撃していました。
中央が "Bikegila"ことBom Jesus氏、向かって右がMartim Melo氏。向かって左は論文共同著者であるBarbara Freitasさん、そしてその手にはいささか憮然としたプリンシペコノハズクさん Photo: Martim Melo via Gizmodo US1998年頃、Bom Jesus氏が当時まだ名前のなかったプリンシペコノハズクについてMelo氏に詳細に話したことをきっかけに、プリンシペコノハズクの科学的探求が本格化。そして、ついに2002年にはMelo氏がプリンシペコノハズクの鳴き声を初めて聞く機会に恵まれ、録音にも成功しました。その録音された鳴き声を手がかりに、プリンシペコノハズクの捕獲、そして生物学的調査が行われたのです。
その結果、鳴き声も、遺伝子情報も、これまで知られている種とは優位な差が認められたため、プリンシペコノハズクは晴れて新種と認定されました。
詳しくはこちらの論文をどうぞ。
Melo氏とプリンシペコノハズク Photo: Martim Melo via Gizmodo US興味深いことに、フクロウの鳴き声は模倣によって習得されるのではなく、生まれながらにして遺伝的に備わっている形質なのだとMelo氏は説明しています。
フクロウは鳴き声を頼りにお互い認識し合い、コミュニケーションを取り合い、パートナーを探すそうです。もし鳴き声が違っていたら、違う言葉を喋っているも同然だそうで、それらの個体同士がつがいになる確率は低いそうです。だからこそ、フクロウのひと声が今回の新種発見にもつながったわけです。
ちなみに、Bom Jesus氏は今ではプリンシペ島にあるオボ自然公園でレンジャー兼ガイドとして活躍しているそうです。彼が提供してくれた貴重な目撃談や、伝達してくれた地元民の体験に基づいた知識抜きでは、プリンシペコノハズクの発見には至らなかったかもしれません。
彼の仕事を、そして広義には科学調査に不可欠な地元民の貢献を讃える意味で、プリンシペコノハズクの学名にBom Jesus氏のニックネームである「Bikegila」が採用されたそうです。
しかし、この話は「発見!よかった!!」では終わりません。非常に残念なことに、プリンシペコノハズクは新種として認定された時からすでに絶滅が危惧されています。
現時点で推測されているプリンシペコノハズクの個体数は1,000羽から1,500羽。しかも生息地がプリンシペ島内のわずか15平方キロメートル──およそ渋谷区の面積ほどに限られているそうです。オボ自然公園内に広がる原生林にしか生息していないものの、その一部にダムの建設が予定されており、影響が心配されています。
これらを踏まえた上で、Melo氏らはプリンシペコノハズクを絶滅危惧IA類に定めるよう、国際自然保護連合(IUCN)に求める論文も提出しています。「絶滅危惧IA類(Critically Endangered)」とは、同連合が定めた絶滅危惧種8カテゴリーうち、3番目に深刻な絶滅の危機に瀕している種。
「やれやれだぜ」とでも言いたげな Photo: Martim Melo via Gizmodo US生息地が自然公園内にあることが唯一の救いですが、これからも自然公園を開発から守っていかなければ、とMelo氏は話しています。
プリンシペコノハズクに限らず、プリンシペ島には多くの固有種が生息しています。Melo氏らの論文によれば、プリンシペ島にしか生息してない鳥類は、プリンシペコノハズクを含めて8種。島全体が139平方キロメートル(ほぼ小笠原諸島の西之島と同じくらい)しかないことを考えると、貴重な生物多様性が育まれている環境であることがうかがえます。
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