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アメリカ西部を襲う干ばつのリアル。水資源をどうやって守っていけばいいのか?

  • 2021年8月6日
  • Gizmodo Japan

Image: Justin Sullivan (Getty Images) via Gizmodo US

北アメリカ西部で深刻な水不足が続いています。

西部地方の90%が干ばつに見舞われており、アメリカ最大の貯水池であるミード湖とパウエル湖、それより小規模な水系でも記録的に低い水位が観測されています。

干ばつの影響は人工的に造られた水道システムに留まりません。西部地方の河川や湖の多くは水涸れしており、生態系を脅かしています。また、山火事が多発した影響も加わり、焼け焦げた木々が川や湖に流れ込んで水質を悪化させる懸念も出ています。

干ばつ、水涸れ、山火事…、これらが意味しているのは、もはや西部地方の人工増加に水資源が追いつけなくなっている現状です。そこにさらに気候変動の影響が加わって、西部地方の降雨パターンがますます不規則になり、暑さのためこれまで以上に水の消費量が増えてしまうことも加味すると、極めて切迫した状況であることは否めません。

この現状をどうやって打破すればいいのでしょう。このままミード湖が枯渇し、水道の蛇口から一滴も水が出ない日が来てしまうのでしょうか? 西部地方の水系を立て直すことは可能なんでしょうか? そして、もしまだ希望があるならば、今後どのような政策が必要で、どのような行動変容が必要となってくるのでしょうか?

専門家の見識を仰ぐべく、米GizmodoのTaft記者がスタンフォード大学のニュウシャ・アジャミ(Newsha Ajami)教授に話を聞きました。アジャミ教授は都市水政策を専門とする「Water in the West」プログラムの責任者で、スタンフォード大学ウッズ環境研究所の研究員でもあります。

では、アジャミ教授とのインタビューをダイジェスト版でどうぞ。

「水ありき」から「人ありき」の都市開発へ

米Gizmodo:まずは漠然とした質問なんですが、なぜこんなことになってしまったんでしょう? 現在アメリカ西部で採用されている水政策はなぜここまで問題を大きくしてしまったんでしょうか?

ニュウシャ・アジャミ教授:世界のどこに住んでいるかにもよりますが、原点に立ち返って考えてみると、人類は常に水資源の近くに居を構えてきました。ローマ人とペルシャ人は、場所から場所へと水を動かす方法を編み出しましたが、人口の大半は水資源の周りに集まるのが常でした。

ところが過去100年間で顕著になってきているのは、人が行きたいところへ水を動かし、その土地の水資源が本来支えられる限界値を超えていく仕組みです。カリフォルニア州、広くはアメリカ西部は正にそのような仕組みによって開拓されました。結果、人々は水資源のキャパシティが足りない土地にも住めるようになり、そしてそこに住むために四方八方から何千、何万マイルも水を運んでくるインフラを整備したのです。このようなコミュニティの多くは、そのインフラのキャパシティをも超えてしまうほどに拡大しました。拡大した理由の一部は政策にあります。この100年間、アメリカ連邦政府が西部の水インフラに巨額の投資をしてきたため、結果として西部が栄えたのです。

そうやって人が集い、人口が増加していったのですが、先に来た人たちのほうが水資源にアクセスしやすい場所にいました。そのうち他のコミュニティや自治体もどうやったら水を入手できるかを模索し始め、もっと水を運んでくるようになりました。ラスベガスが格好な例です。ミード湖の底にいくつかストローをつっこんで水を確保したからこそ、成長が可能となったのです(訳者注:「サード・ストロー(third straw)」とは政策立案者が使う用語で、文字通り湖底から水を引いてくるパイプラインのこと)。

水を運んでくるという決断が後々どのような影響をもたらすのか、当時の私たちは知る由もありませんでした。どうやったらできるのか?に主眼が置かれ、パワーで盲目的に押し切る土木作業が相次ぎました。こんなに土木建築のノウハウもスキルもツールも持ち合わせているのだから、建設しないわけにはいかない、というように。

そのときは誰も長期的な環境破壊のリスクを把握していませんでした。建設された人造物はいずれ破損を免れませんから、効率性が失われていきます。さらにそこに気候変動が拍車をかけました。時が経つにつれ、インフラの老朽化が進み、気候変動も進み、今正に崩壊し始めています。私たちの政策が環境に与えた悪影響が顕在化してきているのです。

負の外部性

米Gizmodo:環境への影響を考慮せずに進められた政策の具体的な例をひとつ教えていただけますか?

アジャミ教授:ミード湖がわかりやすい例ですね。ミード湖は基本的に雪解け水を貯蔵して、晩春から夏にかけて再分配する人造システムです。自然にまかせた場合はまず雪が降り積り、やがて雪解け水となってコロラド川に注ぎ、メキシコまで流れていって海に還るのですが、ミード湖を堰き止めて水を貯めることにより、水の移行期を引き伸ばすことができました。必要なときに少しずつ放水すればいいので、水を長期間に渡って使えるようになったわけです。その上、ダムの力で発電も可能になりました。電力需要は高いですから、これは素晴らしいことです。

しかし、人間には便利になったと同時に、ミード湖は特有の生態系を育んできた生きている川でした。当然ながら川に生存を頼っていた生物がいたのですが、人間の決断によりミード湖が堰き止められ、その結果、水温や流れに変化が生じて生態系に影響を及ぼすこととなりました。しかも、本来ならメキシコまで届いていたはずの川の水も、下流に住む人々にほとんど届かなくなってしまいました。

豊かさという幻想

米Gizmodo:どこかで読んだんですけど、気候変動の影響が心配されるようになる前から、専門家は西部の水資源について警鐘を鳴らし始めていたそうですね。水の供給を上回る需要が問題を引き起こしていることは明白だと。専門家の間ではなにか「これはまじでヤバい!」みたいな瞬間はあったんでしょうか? もしそうだったら、なぜもっと早く対策を講じてこなかったんでしょうか?

アジャミ教授:水資源を確保するための政策が中長期的にどんな悪影響を及ぼすかを、当時は本当に誰も考えていなかったんです。そして降雪が足りなかったり、干ばつがある都度、その盲点に打ちのめされる結果となりました。河川には上流にも下流にもたくさんの人々が住んでいるということも考慮されてきませんでした。

水資源とその配給制度において最もおかしいのは、ちゃんとモニタリングできていないってことなんです。州にもよりますが、地下水のモニタリングを行っていなかったり、データを持っていたり、持っていなかったり。地下水の量が実際よりも多いと思いがちだと、水資源を過剰に配分しかねません。このような思いこみの上に水資源の管理体制を築き上げてしまって、その体制に管理されている水資源に生活を頼っている人たちがたくさんいるとなると、これは問題です。

気候は確実に変わりつつあります。西部地方は2009年に干ばつに見舞われ、なんとか生き延びることができましたが、2012年にも干ばつ。2017年にやっと抜け出したと思ったら、また2021年に干ばつです。以前はこうではありませんでした。干上がってしまう時期の周期が少なくとも数十年ありました。でも今、そんな余裕はありません。干ばつはいつまでも終わらず、常に私たちを困らせています。気候変動が気付け薬となって、私たちが造った水インフラがいかにダメだったか、そしてその上に敷かれた管理体制がいかに短絡的であったかを思い知らされる結果となっています。

西部地方の水インフラは、豊かさのインフラとして造られました。水が足りなくなったとしても、別の川、別の湖、別の場所から水を引いてくれさえすれば、私たちの需要を満たしてくれるだろうと思われていました。でも、現実は違いました。終わりのない豊かさなど存在しないのです。水インフラが抱える根本的な問題を、気候変動がさらに悪化させています。

水の真の価値とは?

米Gizmodo:では、この問題を解決するために、どんなことをしていかなければならないんでしょうか? 私自身はニューヨーク州に住んでいるので水道を使うときに水が足りなくなるとか、干ばつの影響やこの水がどこから来ているのかについて考えたりしないんですが、アメリカ西部に住んでいる人はもっとそういうことを考え始めてもいいんじゃないかな?

アジャミ教授:アメリカ中の人々がそうですが、自分の飲み水がどこから来ているのかまったく知らないんです。水道料金を支払って、または集合住宅がまとめて水道料金を納めていて、その料金は大した額ではありません。これはアメリカのどこに住んでいようと同じです。問題は、人々が水に価値を見出していないこと。水を大切だと思っていなければ、水資源管理についての政策に興味を持つわけがありません。そして人々が政策に興味を持たないと、政策の決め手となってしまうのは一番大きなロビー組織です。そうなるとお金と権力を持った人同士の争いになってしまって、論理的な決断には至りません。水という資源が何を意味しているのか、どこから来ているのか、どこへ行くのか、そしてなぜ私たちが水道料金を支払っているのかというディスカッションが、まだまだ一般的に浸透していないのです。

米Gizmodo:短期的、または中期的に水道料金が値上げされる可能性はありますか?

アジャミ教授:そうなるべきです。今アメリカで支払われている水道料金は、水道を提供するサービスに払っているものであって、水そのものには払われていませんから。水を使うことによって環境に与えるインパクトや天然資源の消費量(フットプリント)の代償は支払われていないのです。

農家の人は一般市民よりも安く水を買えると聞いたことがあるかもしれませんが、あれは正しくありません。農家の人だって私たちと同じサービス料を支払っています。ただ、飲み水を必要としていないだけです。飲み水を供給するインフラや水処理を必要としていないってだけです。

誰も水そのものに対してはお金を払っていません。今後必要となってくるのは、生きるために必要な資源として、社会経済的な活動の基盤としての水の価値をどう考えるか?というディスカッションです。究極的には、私たちは水を使うためにもっとお金を払うべきです。

だって、私たちの家では飲み水を使ってトイレを流しているんですよ。そんなシステムを誰が作ってしまったんでしょう?水を引いてきて、飲めるように最適なクオリティーに処理を施した後で、トイレに流してしまうんです。それっておかしくないですか? さらに悲しいことに、今未来に向けて造っている建物も、すべてそのような考え方をもとに造られてしまっているんです。

米Gizmodo:それはやばいですね…!

アジャミ教授:豊かさという幻想。そして中央集権システムが生み出した結果です。中央の水処理施設に水を送り、水質管理を行って水をきれいにしてから人々の家まで送り届けるシステム。このシステムが造られた当時は、水を必要とする人口が増えていって、干ばつにより水が足りなくなっていずれ困るかもしれないから、飲み水はトイレに流さないほうがいいかもね、とは誰も考えていなかったのです。

水が足りないのに芝生は青い

アジャミ教授:もうひとつ面白いことがあります。アメリカ最大の作物は草です。牛が食んでいる牧草ではなく、あなたの家の庭にもあるかもしれない芝生。水はやるけど食べられない草です。必要でもない芝生のためにこんなにも多くの水を消費しているなんて、馬鹿げていると思いませんか。

米Gizmodo:前回カリフォルニア州が干ばつ被害に遭ったとき、ロサンゼルス市内では水の使用に制限がかけられて違反金も設定されましたが、芝生を枯らしたくない金持ちの人たちは意に介せず、高い違反金を支払ってでも水をやり続けたそうですよね。それって、お金さえ持っていれば豊富な水資源にアクセスできるっていう可能性が、今の水道システムにはあるんじゃないかと思ってしまうんですが。

アジャミ教授:そうですね。それは鋭い指摘です。公平で公正なアクセスについての会話があって然るべきです。芝生のためにお金を使える人は芝生を生やしていいのか? 結局同じようなことが電力供給にもいえるんですが、ちゃんと電気料金を支払ってさえいれば、家にテレビを50台設置してもいいことになっています。でも、すべての人がそれを望んでいるわけではありません。そのように極端な資源の使い方を推奨したくないゆえに、テレビを50台所有している人に一般より高い電気料金を設定できなくもありません。

水道料金に関して言えば、現状では水道料金にちゃんと水の価値が反映されていないばかりか、低所得帯の利用者に不利となっています。彼らのコミュニティが必要としているインフラ整備に十分な投資が成されていないからです。

未来への影響を今考える

米Gizmodo:干ばつの被害が広がる中で、今後どのような行動変容が現れてくると思いますか?

アジャミ教授:希望的なものと、実際行われ始めているものを挙げますね。まず、新しく建設中の大学のテック・キャンパスでは水のリサイクルに力を入れているようです。水の価格について、そして排水システムについての話し合いが活発に行われていますし、省エネルギー対策や汚染された地下水の浄化に向けての取り組みも盛んです。

そうそう、ここがもうひとつおかしいところなんですが、これまで地下水について誰も議論してこなかったんですよ。産業活動に伴い地下水資源が汚染され続けてきたのに、地下水が必要となってくるなんて誰も考えていなかったんです。ですから、カリフォルニアやいくつかの西部の州では、地下水に関する法律を新たに制定しています。これは水質により焦点が集まりつつあるからです。湖や湾などの水質管理に多くの努力が注がれるようになってきています。

それから、以上に挙げたことの多くはすでに実行されているんですが、私の個人的な希望としては、今現在行われている開発行為が未来の水資源にどのようなフットプリントを残すかをもっと考えてもらえたらうれしいですね。効率が良いとは言い難い現システムをただただ繰り返して、問題があるたびに文句を言うのではなくて、未来に向けて考え直していけたらと。

順応しなければ破綻する

米Gizmodo:そうですね。今の水道システムはとんでもなく非効率で無駄が多いように思えます。でも、たとえそのシステムを調整して、水資源を最大限に活用しつつ再利用できるところは再利用したとしても、気候変動の影響下でこのままの西部地方一帯の人口を支え続けることはできるんでしょうか? むしろ支え続けられないってお考えになったことはありますか?

アジャミ教授:はい、ありますね。

米Gizmodo:すいません、つい暗い方向に話が行ってしまって。

アジャミ教授:いえ、とても良い質問だと思いますよ。いずれは少ない水でも生きられるように順応しなければ、破綻しますね。干ばつという点では、干ばつはもはや私たちのニューノーマルです。もう干ばつは干ばつではないんです。干ばつは常であり、現実だっていう考え方にシフトしていかなければならないと思います。もし雨に恵まれた年があったら、その水をどうやって守り、貯水していくかを考えなくてはならない。すでに枯渇している水資源を回復するためにです。

水に対する考え方をシフトして、水資源の管理の仕方を変えていけば、西部地方は生き残れると思います。干ばつに対するアプローチ、山火事対策、洪水対策、自然環境と構築環境との関係性、水の価格の見直し…これらを変えていく必要があります。このような変化を実社会が包括的に取り込んでいけば、西部地方はたぶん生き残れるでしょう。でも、今までのように地下水が無限であるかのように扱い続け、「地下水資源の利用をモニターするのは選択の自由の損害に当たる」などの議論が続いている限りは生き残れないでしょう。生き残れるはずがありません。少数の人が水道システムを悪用し、乱用するだけです。

私たちの目の前には道が拓けています。何をどう修復すべきかはすでに答えが出ています。修復していかないと、果たして生き残れるのかは定かでありません。

Reference: US National Park Service

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