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羽田空港に無数のレーザービーム。あのとき、空港は美術館だった

  • 2021年1月22日
  • Gizmodo Japan

Photo: 照沼健太

※この記事の取材・インタビュー・執筆は、2020年4月7日の緊急事態宣言発令前に行われました。緊急事態宣言と前後して、帰国者の受け入れなども制限されてきた中、やむなく掲載を保留してきましたが、さまざなアートやクリエイティブの「発表の場」が奪われ、テクノロジーによる打開策が求められている昨今の状況や、今後のモビリティの未来に対する懸念などをふまえ、いま掲載することにこそ意義があると考え、公開することといたしました。(ギズモード編集長 尾田和実)

空港から異次元へのフライト

2020年2月、僕は羽田空港の中で無数のレーザーを見つめていました。

レーザー光それ単体では1本の線ですが、それが無数に連なることで構造体のようなものが浮かび上がります。

Photo: MUTEK.JP

渡されたヘッドフォンを着用し、目の前の空間を歩いていくと、移動に応じてサウンドが変化して聴覚的にも新たな空間が広がります。

まるで“そこにない空間”を感じるような新鮮な体験を得られるこの作品のタイトルは「intangible film」。

Photo: Shutterstock.com

メディアアーティストである藤元翔平と音楽家・國本怜の二人が、重要文化財・伏見稲荷大社の千本鳥居をモチーフに、それぞれの鳥居/ゲートの隙間を膜(film)として捉えたインスタレーションアートです。

そして、この作品と同じくらいユニークなのが、作品の展示場所。そう、最初に紹介した通り、羽田空港の中なんです。

空港がデジタルアートの美術館に。その仕掛け人は文化庁とMUTEK.JP

Photo: MUTUK.JP

そもそもこのイベントは何かというと、“時の概念”をテーマにしたデジタルアート展「ETERNAL 〜千秒の清寂」。

国際的に名高い芸術文化活動を行う組織MUTEKの日本支部MUTEK.JPがクリエイティブ・プロデュースを手掛け、2月1日(土)〜2月7日(金)まで羽田空港 国際線ターミナル4F TIAT SKY HALLで「intangible film」含む全4作品が展開されていました。

Photo: MUTUK.JP

実はこれ、文化庁の訪日観光客向け新事業である「空港等におけるメディア芸術日本文化発信事業」の一環として開催されたアート展なんです。

2019年から2020年にかけ、文化庁は『メディア芸術×文化資源 分散型ミュージアム』プロジェクトを国内の国際空港10箇所程度で展開。その羽田空港版がMUTEK.JPによる「ETERNAL 〜千秒の清寂」だったというわけです。

文化庁 文化戦略官 所昌弘さん (左)、MUTEK.JP 理事 竹川潤一さん(右) Photo: 照沼健太

「空港は国内外への玄関口です。そんな場所で世界共通言語であるメディアアートを通して日本の文化を感じてもらい、作品のモチーフとなった日本文化との出会いを求めた新しい旅に促そうという試みです」

と説明するのは、文化庁で文化戦略官を務める所昌弘さん。

事実、文化庁が重要文化財という題目を提示し、そのお題に対し空港ごとに異なる団体や個人がクリエイティブ・プロデュースを手掛け、各アーティストやクリエイターが作品を制作したというこの試みは、世界でも類を見ない「空港で行われたアート展」として国内外で話題となりました。

Photo: MUTEK.jp

羽田空港でプロデュースを手掛けたMUTEK.JPの理事・竹川潤一さんは、そこで得られた手応えを次のように語ります。

「海外の航空会社の人から『地元の空港関係の人に送りたいから』と資料取り寄せの連絡をいただくなど、反響をいただいています。NYのJFK国際空港のスタッフの方には『NYでは工事現場をアートで飾るようなことは昔からやっているけど、空港でのアートはなかった。これはおもしろい』と言ってもらえました。

空港にはフライトまでの時間を持て余している観光客や航空関係者が多いので、いろんな方に来場していただけましたね」

空港は人とアートのハブにもなれる

Photo: MUTEK.jp

文化庁の所さんとMUTEK.JPの竹川さんが話す通り、僕が羽田空港で「ETERNAL 〜千秒の清寂」を訪れた時も、日本だけでなく海外からのお客さんが多数いたことに驚きました。

国際線ターミナルの4F、そのはじっこが会場だったのにも関わらず、です。

空港、特に国際線ターミナルはフライトまでの時間に余裕のあるお客さんがほとんどです。そんな状況でデジタルアートを体験し、これまで気づかなかったものに気づいたり、新しい世界の見方を得られたりするというのは、なんとも有意義な時間の使い方だと感じました。

Photo: MUTEK.jp

今は空港を訪れる人が少なく難しい状況にありますが、これは間違いなく人とアートの新たな関係性を作るエキサイティングな試み。

2020年度は、全国7空港及び東京国際クルーズターミナルにおいて実施予定であり、展示開始に先駆け、2021年1月20日には特設Webサイトがオープンしています。オンラインでの作品展示のほか、制作に至るまでのリサーチの様子や制作のプロセスを伝えるコンテンツを通じて、日本文化の魅力を紹介していくとのことなので、ぜひこちらも併せてチェックしてみてください。

■Stillness [2020]

テーマ:禅、座禅、茶室
モチーフ:建仁寺塔頭 両足院(京都府)
クリエイター:THINK AND SENSE、大野哲二

京都建仁寺塔頭 両足院 副住職伊藤東凌氏の協力の元、フォトグラメトリー技術により三次元化したデータを、最もミニマルな「点」のランドスケープと「うねり」のサウンドスケープにより禅の世界観の一端を描写。生成される映像は、展示空間の環境情報をリアルタイムに反映する。周波数の高低差から生まれる差分や、倍音成分によって聴こえてくる「新たな音」の存在を感じさせる。

■Fragments (Airport version)

テーマ:日本中世文学、随筆
モチーフ:方丈記,、下鴨神社摂社 河合神社*(京都)
クリエイター:山本信一、木下真理子、Corey Fuller

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたるためしなし。世中(よのなか)にある人と栖(すみか)と、又かくのごとし…」。鴨長明の『方丈記』の一節を揮毫した書を現代美術に変換し、映像表現として時間軸を与え、言葉を分解・再構築したサウンドを重ねることによって構成された作品。木下真理子が書の活動でコンセプトにしている空や縁起の感覚。コリーフラーが取り組んでいるアンビエントの織りなす豊かな静寂。山本信一が作品で目指している風景を眺めるときのメタ的な視点。それぞれのアーティストのもつ世界観を『方丈記』を交点にしてコラボレーション。

*河合神社 : 世界遺産である賀茂御祖神社(通称:下鴨神社)(京都府京都市)の摂社

■Moment in Composition–麒麟紋曼荼羅– [2020]

テーマ:伝承、紋、円、自然の美
モチーフ:日本橋(東京)、麒麟紋章の円で描かれた調和のとれた美しさと自然が描く輪郭
クリエイター:瀬賀誠一、Kyoka、波戸場承龍、波戸場耀次

紋章上繪師である波戸場承龍・耀次の江戸時代から続く正円を組み合わせてデザインする紋章上繪の技法を、瀬賀誠一がデジタルで応用。美しさの“構成の瞬間”に正円が描く水面のような波紋に角度を与えた遠くへ流れる音像。大小様々な正円のシンプルで強力な組み合わせに自然の美との調和を見出だし、偶然性を象徴する波や地形などの風景に重ねたときに自然が描くパターンに数式が潜んでいる感覚を表現。

■intangible film [2020]

テーマ:神域
モチーフ:伏見稲荷大社、千本鳥居(京都)
クリエイター:藤元翔平、國本怜

国の重要文化財である伏見稲荷大社(京都)の境内にある千本鳥居。無数の鳥居が連なるように配置され、通路という機能を持った人工的な構造体であり空間でもある。 鳥居には、神域に入る印やゲートとしての役割がある。なぜ人々は、ゲートを連ねたのか。千本鳥居を形成する各ゲートの間に焦点を当てたインスタレーション作品である。 鑑賞者は、ヘッドフォンを装着して体験する。ゲートの内側と外側を定義づける実体の無い膜の内側には、無数のレーザー光によって形成された構造体が浮遊している。 鑑賞者は、構造体の内側、外側の両方から、視覚的、聴覚的に構造体の振る舞いを捉えることができる。 空間に浮遊する精霊のような実体の無い構造体は、泰然と鑑賞者と対峙し、包み込む。

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