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大切なのは「キャラクターのイメージを読み違えないこと」 – TVアニメ『アストロノオト』音楽担当・宗本康兵に聞く劇伴制作の裏話

  • 2024年7月15日
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ドラマ・映画・アニメなどの感動的なストーリー、魅力的な登場人物・キャラクターをさらに盛り上げる・引き立てる要素は何か。さまざまな可能性があるなかで筆者は「音楽」に注目している。今回は、2024年4月より全12話で放送されたオリジナルTVアニメ『アストロノオト』の音楽制作を担当した宗本康兵氏にインタビュー。自身の歩みを振り返ってもらいつつ、『アストロノオト』の劇伴について、さらには作品やアーティストの音楽を作るうえで大切にしていることをお聞きした。

宗本康兵

 

◆ピアニストとしてさまざまなアーティストのサポートをするほか、楽曲提供、アニメ作品の劇伴制作などを手掛けられている宗本さん。小さい頃から音楽は好きでしたか?

そうですね。物心ついたときには、もうピアノを始めていました。兄がピアノをやっていて、それを見て「やりたい」と言ったそうです。幼いころから今まで、音楽はずっと身近にありました。

 

◆小さい頃は遊びたいという気持ちがあって、ピアノを弾くのが億劫になる人もいると聞きます。

僕はそういうことはなかったですね。ただ、ずっとクラシックをやっていたのですが、決まった曲ばかりを演奏するのがちょっと嫌になった時期はありました。それで、自分でも曲を作りたいなと思うようになったんです。

 

◆プロとして活動したいと思うようになったのはいつ頃でしたか?

音楽でご飯を食べて生きたいとざっくり思い始めたのは、中学1年生ぐらいです。とにかく何でもいいから、音楽に関わる道に進みたいと思っていました。それから先ほどもお話したように作曲家になりたいと思うようになり、音大を目指し始めたのが高校生ぐらいですね。音大に入学後、音楽関係のアルバイトもしたいなと思って探していたときに、川嶋あいさんというアーティストに出会いました。川嶋さんと出会い、音楽制作にも関わらせていただくようになってからは、大学在学中ではありましたが、ありがたいことにどんどん忙しくなって。ただ劇伴を作らせていただける機会がなかなかなく、最近、やっとご縁をいただくことができたんです。TVアニメ『アストロノオト』の劇伴制作のお話をいただいたときも、すごく嬉しかったですね。

 

◆お話にもあったように、宗本さんはTVアニメ『アストロノオト』の劇伴制作を担当されています。アニメはふだんからよく見ていますか?

見るのは好きですね。一気見したり、アニメ映画を見たりすることが多いです。

 

◆思い出に残っている作品は?

衝撃的だったのは、『ルパン三世 ルパンVS複製人間』。最初に見たアニメ映画だったんじゃないかな? 幼い頃に見たのですが、マモーというキャラクターがすごく印象に残っていて。ストーリーも相まってとても思い出に残っている作品です。

 

◆「ルパン三世シリーズ」と言えば、大野雄二さんの音楽も最高ですよね!

もうブラスの積みがめちゃくちゃカッコいい!コーラスの乗せ方もすてきなんです。ちょっとジャジーな感じで素晴らしい。

 

◆そのほか宗本さんが衝撃を受けた作曲家・音楽家の方はいらっしゃいますか?

みんな大好きだと思いますが、久石譲さんです。久石さんが作る音楽を聞いて感動したのも、劇伴を作ってみたいと思うようになったきっかけのひとつでした。あとは服部隆之さん。自分も将来はああいう音の付け方ができるようになりたいと、夢焦がれています。そうなるためには音楽以外の経験も大事。色々な作品を見て学ぶことが必要だと今は思っています。

 

◆改めてTVアニメ『アストロノオト』の音楽制作についてお聞きします。最初に作品のシナリオを読んだときの感想を教えてください。

SFやラブコメディなど、色々な要素があるなと感じました。ただ、物語全体を通してハートフルであたたかいという印象を受けたんです。いい意味で何も考えずに見られるし、どの世代が見ても楽しめる作品だと感じました。

 

◆そんな作品の音楽を制作するうえで意識した点を教えてください。

色々な要素があるアニメだからカラーはなるべく出せるようにとは思っていたのですが、作り方としては生っぽい音にこだわりました。そうしたほうが作品のあたたかさが一貫して出ると思ったので。あとは登場キャラクターがすごく立っているアニメだと感じたので、キャラクターを表現する音楽は、少し大げさめにイメージしながら作りました。

 

◆同じメロディでも実際に奏者が演奏する生音と打ち込みのデジタル音では雰囲気は大きく変わりますよね。

そうですね。テンポや使う楽器によっても聞く人の印象は大きく変わります。それを考えるのは難しくもあり、楽しくもありますね。

 

◆お話いただいたコンセプトのもと、最初に制作したのはどの楽曲でしたか?

確かアニメ第1話の冒頭で流れる「ファーストバトル」というSFチックな楽曲だったと思います。その後に本作のメインテーマを制作しました。これはどの曲もですが、アニメスタッフの方々がとても親切に「こういう感じの曲が欲しい」と最初からおっしゃっていただけたので、ほとんど迷うことなく制作に取り組むことができたんです。

 

◆制作するなかで、最も印象に残っている曲は?

自分で作っておいてちょっと恥ずかしいですが、最終話で流れた「いつかまた」という曲が個人的に好きです(笑)。作っていて自分でも気持ちよくなるような、心地よくなるような感覚になった曲です。

 

◆制作するのに苦労した、難しかった曲はありましたか?

第11話であすトろ荘が宇宙船に変形したときに流れる「インペリアルガーディアン」という曲は、アニメ制作サイドのみなさんが求めているイメージと違っていて、何度かリテイクしました。リテイクのお願いをされた後、どういうことが求められているのかマネージャーと話しながら整理して曲を作り直した記憶があります。

 

◆当然ですが、音楽も色々な人の力やアイデアが結集して最終的に形になっているんですね。

そうです。今回で言えばアニメのスタッフさんもそうですし、あとはレコーディングするときのミュージシャンの方々の力もあって曲が完成しています。僕が劇伴の制作をするとき、ふだんはロックミュージシャンとして活動されているドラマーの方にリズムパターンの演奏をお願いすることが多くて。その方は、すごく変なパターンで演奏してくださるんですよ(笑)。

 

誰に演奏をお願いするのか考えるのもプロデューサーの仕事。

そうですね。いつも「この人にお願いしたらここは予想外のことをやってくれそう」とか「この人にお願いしたらきれいな音色を出してくれるだろう」と考えて、ワクワクしながら曲を作っています。

 

◆個人的には全体的にブラスサウンドが随所で使われていて、曲を聞くとテンションが上がります。

次回予告で流れていた「ココロのカギ(応援.ver)」はまさにブラスバンドバージョンに編曲したものですが、あれはマネージャーさんが「応援バージョンも作りましょう」と提案してくれて作ったものなんです(笑)。野球の応援とかで使ってもらえたらいいなぁ。ブラスバンド部の学生たちが吹いてくれたら嬉しいです!

 

◆宗本さんは本作のエンディングテーマ曲「ココロのカギ」の作曲も担当されていますね。

ラブコメでもあるので、豪徳寺ミラさんと宮坂拓己さんのかわいらしいラブソングを作れたらと思い制作した楽曲です。昭和感もあって、アニメのEDで流れるとほっこりします。この曲で、初めて声優さんのレコーディングに立ち会わせていただきました。勉強になりましたね。

 

◆どういった点が勉強になりましたか?

例えばJ-POPのアーティストさんだと、ピッチが低いと感じたときに直接的に言うと考え込んでしまう方もいらっしゃって。そういう方には、「ちょっと明るくしてみましょうか」とニュアンスで伝えると、ピッチが当たることがあるんです。一方、キャラクターを背負って歌唱される声優さんに「明るくしてみましょうか」とお伝えしたら、「キャラクターは性格的に今より明るいタイプではなくて……。ズレちゃうかもしれません」という返答があったんです。

 

◆声優さんはピッチではなく表現的な意味での「明るい」だと思われたんですね。

そうなんです。声優さんは、キャラクターがどう歌うのかということをいちばんに考えているんだなと感じました。「明るい」という言葉ひとつをとっても、伝わり方って人それぞれなんですよね。改めて、伝え方や言葉の選び方の大切さを学びました。そういう学びもありつつ、ふたりの歌唱によって、より素敵なラブソングになったと感じています。

 

◆音楽制作するうえで、歌入りの曲とそうでない曲では、意識する点も異なりますか?

全然違います。まず、歌があるときはメロディが重要。伝えたいものは歌詞であり、言葉なんですよね。僕の場合はいかに邪魔をせず、カッコよく歌詞や声の響きを届けられるのかを意識しています。一方の歌がない劇伴などはメロディをいくつ重ねてもいいですし、特定の歌い手さんがいる訳じゃないのでレンジをどこまでも広げられるんですよ。自由度は高いですね。

 

◆本作のほかにもアニメの劇伴制作を担当されていますが、アニメの音楽を作るうえで特別意識することはありますか?

キャラクターのイメージを読み違えないことですかね。音楽によってよりキャラクターが魅力的に映ることもありますが、逆に音楽とキャラクターやシーンが一致していなかったら台無しにしてしまう可能性もあります。音楽によってイメージが損なわれないように意識していますね。

 

◆さまざまな考えのもと音楽を制作されている宗本さんが、音楽プロデューサーとしていちばん大切にしていることは?

例えばアーティストさんの楽曲制作をするとき、その方が何を表現したいのかがいちばん大切だと僕は思っています。アーティストさんのなかにはセールスや聞き手の方のことを真っ先に気にする方もいらっしゃるのですが、僕はそのアーティストさんが何を表現したいのかをまずは聞きたいんです。もちろん、表現したいものがない場合でしたら「こういうのはどうか」と提案させていただくこともできます。ただ、何かしらの思いを形にできるよう、最大限の努力はしたいんですよね。

 

◆例えばバズを生みたいから、売れたいから流行に乗っかった曲を歌いたい、ということではなく。

表現するアーティストの方が「そういう曲をやりたい!」と強く思っていらっしゃるなら、僕は全力でサポートします。ただ、「売れたいからこういう曲を作りたい」という考えだけで売れた方って、実際にいらっしゃるんですかね? 戦略的にやる場合でも、アーティストさん、もしくはディレクターさんやマネジメントの方の「売れたい」だけじゃない強い意思があると思うんですよ。劇伴の場合は、作品が伝えたいことは何か、アニメ制作スタッフさんが何を伝えたいのかを聞くのが大事なのかなと。表現したい方の表現したいことを膨らませるのが、音楽プロデューサーの仕事だと思っています。

 

◆音楽制作に対する熱い思いが伝わってきました。そんな宗本さんにとって、音楽とは?

音楽とは……自分が素になれる時間ですかね。音楽を作ったり弾いたりしているとき、僕は本当に他のことは何も考えていないんです。その瞬間がいちばんストレスを感じないんですよね。マイナスイオンが出ている気がします(笑)。心がすごく開ける瞬間なんですよ。

 

◆その思いは仕事で音楽に関わるようになってからも変わっていない。

はい。語弊があるかもしれませんが、あまり仕事と思ってやっていないかもしれません。やりたいことだからやっているというか。楽しくなくなる瞬間があるとすれば、自分の作った楽曲が100点満点だと思ったときじゃないかな。いつも100%全力で楽曲制作をしていますが、振り返ってみると「今の方がいい、もっとできる」と思っちゃうんですよ。それくらい音楽は色々な可能性がありますし、だからこそ作るのが楽しいんだと思います。

 

text/M.TOKU

 

リリース情報

TVアニメ「アストロノオト」全曲集が発売中。インタビューでお話いただいた楽曲もすべて収録!

音楽:宗本康兵

アーティスト:降幡 愛 / 豪徳寺ミラ(CV.内田真礼)、宮坂拓己(CV.斉藤壮馬) / 松原照子(CV.降幡 愛)

価格:4,180円 (税込)

収録内容:劇伴52曲、OPテーマ(TV size)、EDテーマ、挿入歌2曲。合計56曲収録

詳細・購入方法は公式サイトをチェック

https://sh-anime.shochiku.co.jp/astro-note/

 

TVアニメ「アストロノオト」Blu-ray BOX 2024年9月25日(水)発売

価格:3万800円(税込)

本編:第1話〜第12話 収録(約288分+映像特典)

【映像特典】

・ノンクレジットOP&ED

・PV集

・TVCM集

・イラストギャラリー

・窪之内英策キャラクターデザイン原案ギャラリー

・ショートアニメ「サケトロノト」LEVEL1〜LEVEL4(全4話)※LEVEL4はBlu-ray限定エピソード

・実写版ナオスケ プロモーション動画集

 

【音声特典】

〇オーディオコメンタリー

・第1話(出演:豪徳寺ミラ役・内田真礼 宮坂拓己役・斉藤壮馬)

・第9話(出演:若林蓮役・釘宮理恵 若林富裕役・杉田智和 総監督・高松信司)

・第12話(出演:豪徳寺ミラ役・内田真礼 宮坂拓己役・斉藤壮馬)※未公開オーディオコメンタリー

 

【封入特典】

・ブックレット(16p)

・キャラクターデザイン原案・窪之内英策 描き下ろしイラスト使用ポストカード

 

【外装特典】

・キャラクターデザイン・あおきまほ 描き下ろしイラスト使用アウターケース&ジャケット

 

詳細・予約方法は公式サイトをチェック

https://sh-anime.shochiku.co.jp/astro-note/bd-dvd/

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