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“オールインクルーシブ”なファッションを通してよりよい社会の実現へ

  • 2022年3月4日
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【掲載日】2022年3月4日

SDGs達成に向けた取り組みが加速する中、注目が集まっている分野の一つがファッション産業です。大量生産と大量廃棄の問題、作り手の人権問題など、あらゆる課題が浮き彫りになった今、課題解決のためのアクションが世界各地で起こり始めています。その中で、多様な人々や地球環境に配慮した「オールインクルーシブ」なファッションを通して、よりよい社会の実現を目指しているのが、SOLIT株式会社です。今回は代表の田中美咲さんに、会社設立の経緯や同社が運営するブランド「SOLIT!」に込めた想い、今後の展望などについてお聞きしました。

 

田中美咲/大学卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。東日本大震災をきっかけに、福島県で情報による復興支援を行う公益社団法人(現一般社団法人)助けあいジャパンに転職し、被災者向けの情報支援事業に従事。その後2013年8月に「防災をアップデートする」をモットーに一般社団法人防災ガールを設立。2018年の第32回人間力大賞経済大臣奨励賞受賞。同年フランスSparknewsが選ぶ世界の女性社会起業家22名に日本人唯一選出され、世界一位となった。2018年2月には社会課題解決に特化したPR会社、株式会社morning after cutting my hair創設。さらに2020年9月には「オールインクルーシブ」な社会の実現を目指してSOLIT株式会社を創設し、代表取締役を務めている。

 

根底にあるのは「弱い立場の人に寄り添いたい」という想い

 

――まずはSOLIT株式会社を立ち上げた経緯について教えてください。

 

田中 私が大学を卒業して社会人になったのは、東日本大震災が発生した2011年のこと。私にとって震災や災害について考えずに社会人生活を送ることはあり得ませんでした。社会人になって最初の1年は週末に被災地で支援活動を行っていましたが、目の前で助けを求める被災者と向き合ううちにいてもたってもいられなくなり、仕事を辞めて福島県に移住することを決意しました。移住後は、福島県庁の広報課のようなところで被災者への情報発信事業を行っていました。しかし現地に深く入れば入るほど、国、政府、自治体などと地域住民たちが意思疎通できていないことを痛感。そこで、自分で非営利団体を立ち上げようと考え、人にも環境にも配慮した課題解決のための事業を始めました。その3社目として立ち上げたのが、SOLIT株式会社です。東日本大震災が一つの大きなきっかけでしたが、自分の根底にある「全ての人が自律的に選択でき、生きやすい世の中になってほしい」という想いに従って選択を繰り返してきた結果、今があると感じています。

 

――SOLIT株式会社ではどのような事業を展開しているのでしょうか?

 

田中 SOLIT株式会社では多様な人々や地球環境に配慮した「オールインクルーシブ」な社会の実現を目指し、現在は大きく2つの事業を展開しています。1つは、ファッションブランド「SOLIT!」の運営です。障がいの有無、セクシュアリティー、体形などに関係なく、どんな人でもファッションを楽しむことができる服を提供しています。もう1つはSOLIT!の運営を通して蓄積した、ダイバーシティー&インクルージョンの考え方や、インクルーシブデザインの手法といった知見を活かして、他の企業とコラボレーションしたり伴走支援をしたりする事業を行っています。

 

またSOLIT株式会社では、働く人々も多様であることが大きな特徴の一つ。会社が提示する契約形態に合う人を探すのではなく、“素敵な人”を探して、その人に合う契約形態をつくるようにしています。現在、正社員は私を含めて2人で、そのほか業務委託やインターンシップ、プロフェッショナルボランティアのスタッフなど約40人で運営しています。

 

服が大量廃棄される裏側で、「選択肢がない人」の存在を知った

 

――そもそもなぜファッションブランドを立ち上げようと考えたのでしょうか?

 

田中 防災や気候変動など環境問題のフィールドで8年間活動をしていて、ファッション産業と言えば大量に生産して大量に廃棄しているというイメージしかありませんでした。そんな中で、指を麻痺している友人は、ジャケットやボタンの付いた服が着られないと「服の選択肢がない」と話している。このギャップに違和感を覚え、自分に何かできることがあるのではないかと考えたことがファッションブランド立ち上げの出発点となりました。

 

その後立ち上げたブランド「SOLIT!」では、多様な人と地球環境への配慮をできる限り「純度100%」で実現することを目指しています。例えばSOLIT!で販売している服は、すべてが受注生産品。依頼を受けてから生産するため、そもそも服が廃棄を前提としない仕組みになっています。つくる服に関しても、もともとある服に人が合わせるのではなく、「人に対して服が合わせる」という考え方をしていて、服のサイズ・仕様・丈を自分好みに選ぶことができます。例えば、脊柱側湾症(※)と呼ばれる障がいのある方の中には、左右の腕の長さが大きく異なる方がいます。そのため既存の服では片袖だけ引きずってしまったり、ブカブカで着づらかったりすることもあります。しかしSOLIT!の服は、左右の袖の長さを変えたり、余裕を持って着られるよう胴体のみを大きめサイズにしたりと、自由にカスタマイズすることが可能です。またSOLIT!では12サイズで商品を展開しているため、体形を選ばず着られますし、年齢や性別に関係なく着られるデザインも意識しています。

※脊柱側弯症…脊柱を正面から見た場合に、左右に曲がっている状態。

 

 

――商品はどのように企画してつくっていったのでしょうか。工夫した点などを教えてください。

 

田中 商品を企画するときには、まずチームのメンバーたちそれぞれが普段感じている服の課題を挙げ、その課題の背景にあるファッション産業の構造やデザインの文化、歴史について考える時間を設けました。さらに企画段階から、そもそも服の選択肢が少ないとされる障がいのある方、セクシュアルマイノリティーの方、高齢者の方も巻き込みながら、「インクルーシブデザイン」という手法を用いて、さまざまな意見を取り入れて一緒に考えていきました。

 

その中で特に着づらい服が多いと感じていたのが、身体に障害のある方たち。彼らにとって、服を着脱するときに腕を通したり肩を後ろに引いたりすることや、ボタンをとめたりすることはとても困難な動作です。そのため頭からすっぽりとかぶるようなパーカーやセーターしか服の選択肢がないという方が多くいました。そこで、身体に障がいのある方たちが「今まで着たくても着られなかった服」を作ろうとヒアリングを実施。結果的にはジャケット、パンツ、ボタン付きのシャツをSOLIT!の第一弾の商品として販売することが決まりました。

 

 

――実際にSOLIT!の服を着た方からはどのような反響がありましたか?

 

田中 今までパーカーなど頭からかぶる形状の衣服しか着ることができなかった方が、SOLIT!の服を着れば気兼ねなくデートに誘える!」と喜んでくれました。これを聞いてチームの皆で「最高じゃん!」と盛り上がりましたね。そのほかにも「このジャケットを着れば娘の結婚式に行ける」と話してくださった年配の男性もいました。健常者にとっては“one of them”でしかないボタン付きのジャケットやシャツですが、これらを着ることによってできることが増える人たちがいる。ファッションは社会参加の部分にまで関わるということを実感しました。

 

医療・福祉従事者と連携しながら“本当に着たかった病院服”を企画

 

――SOLIT株式会社のもう一つの事業では現在どのようなことを行っているのでしょうか。

 

田中 現在、大阪の岸和田リハビリテーション病院と、同病院が所属する生和会グループのSDX研究所と協業して、服の可動域に関する研究や病院服を開発するプロジェクトを行っています。

 

病院服を開発することになったのは、患者さんや医療従事者へのアンケートを通して、現在の病院服があまり快適なものではないとわかったことがきっかけでした。従来の病院服と言えば、甚平のような形をしたものが一般的。しかし患者さんにとって着たくなるデザインとは言い難く、また胸元がはだけやすかったり、腕が通しにくかったり、お腹の辺りで紐をくくらなければならなかったりと、さまざまな課題があることもわかりました。そこで今回私たちが企画したのが、“みんなが本当に着たかった”病院服です。患者さんや医療・福祉従事者へヒアリングをしながら課題を一つ一つ解決し、最終的には、デニムやカーキベージュのような色味にしたり、ボタンをマグネット式にしたり、肩からわき下にかけてのアームホールを広げて着やすくするなど、さまざまな工夫を凝らした病院服が出来上がりました。

 

現在は、クラウドファンディングで開発費などの資金を集めたり、プロジェクトを運営するための仕組みを整えたりしているところ。22年4月からは岸和田リハビリテーション病院で実際に患者さんたちに着てもらう予定です。すでに途中段階の病院服を試着した患者さんからは、「この病院服を着て家族に会いたい」「外に出かけたい」といった感想をいただきました。患者さんたちがこの病院服を通して少しでも前向きな気持ちになれるよう、今後もチーム全員でプロジェクトを進めていきます。

 

アジア展開も視野に入れ、さらに幅広くアプローチしていきたい

 

――SOLIT株式会社がこれからつくりたいと考えているプロダクトや新たに企画していることを教えてください。

 

田中 ファッションの分野では、より幅広いプロダクトを考案していきたいと考えています。例えばアレルギー性皮膚炎の方でも着やすい素材を使った服や、精神疾患により首回りがきつい服を着られない方にもやさしいデザインの服など、身体に障がいのある方だけでなく、さまざまな方が抱える課題を解決するような服を作っていきたいです。さらに文具、家具、家電といったものにも、多様な人々が使いやすいように改善できるところがまだまだあるはず。今後はファッションだけにとどまらず、衣食住に関わるあらゆるプロダクトを展開することも目標としています。

 

また国内だけではなく、アジアへの進出も視野に入れていて、障がいのある方が着やすい服、着たくなるような服を各地にローカライズしながら作れないかと考えています。しかし実現するためには、まだまだ乗り越えなければならない課題が多くあるのが現状です。例えばSOLIT!では現在、生地の調達や縫製を中国で行っていますが、同じ価格帯で他のアジアの国にも展開しようとすると、かなりの輸送コストと環境負荷がかかってしまいます。そのため、生産地を変えたり、カスタマイズ性を少なくしてコストを下げたりするなど、あらゆる調整が必要になってくると考えています。

 

そのほか、アジアの新興国や途上国の中には、アメリカナイズされたファッション文化が拡大し、地元のファッション産業が衰退しつつあることが問題視されている国もあります。こうした課題に対しては、例えば伝統衣装にマグネットやマジックテープを付けるなどして、障がいのある方をはじめ、より多くの方に着てもらいやすくなるようSOLIT!のインクルーシブデザインの手法を伝えていくこともできるはずです。しかしこれを事業として成り立たせる方法を考えたり、「文化の継承」という側面から考えて問題がないかを検証したりするなど、こちらもクリアすべき課題が多くあると感じています。現在はまだ、さまざまなことをリサーチしている段階ですが、協業できるパートナーを探したり、現地と連携をしたりしながらアジア展開の実現を目指していきたいです。

 

 

――最後に、SOLIT株式会社の今後の展望を教えてください。

 

田中 SOLIT株式会社では今後も「多様な人と環境に配慮した服を作っているブランド」として、多くの人から選んでもらえたり、思い出してもらえたりする存在でありたいと考えています。さらにほかのアパレル企業に対して環境問題や人権問題を解決するための提案やコラボレーションを行ったりして、双方にとってメリットになることも考えていきたいです。これからも自社事業と協業の両軸でアプローチをしながら、そしてファッション分野だけにとどまることなく、オールインクルーシブな社会の実現に向けて力を尽くしていきます。

 

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