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瀬戸康史インタビュー「多くの若い人に作品のテーマが届いたことに嬉しさを感じました」

  • 2022年3月9日
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1960年の安保闘争と、東日本大震災から10年が経った現代――。2つの時代が交錯する舞台『彼女を笑う人がいても』に瀬戸康史さんが挑んだ。そこで衛星劇場での初放送に先駆け、本作で初めて触れた学生運動の背景、念願だった栗山民也さんの演出など、瀬戸自身がこの舞台を通して得たものをたっぷりと語ってもらった。

 

瀬戸康史●せと・こうじ…1988年5月18日、福岡県出身。2005年芸能界デビュー。近年の出演作にドラマ『透明なゆりかご』、『私の家政夫ナギサさん』、WOWOW『男コピーライター、育休をとる。』主演、映画『劇場版ルパンの娘』、『コンフィデンスマンJP -英雄編-』、舞台『ドクター・ホフマンのサナトリウム〜カフカ第4の長編〜』、『日本の歴史』など。2月25日より主演映画『愛なのに』が公開中。Twitter/Instagram

 

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当時の学生たちの行動に怖さを感じながらも、どこか憧れの想いも抱いていました

 

──まずは公演を終えての感想をお願いします。

 

瀬戸 なんだか不思議な舞台でしたね。というのも、語弊があるかもしれませんが、今回の舞台ではお客さんに何かを届けるという思いでお芝居をしている感じがしなかったんです。いつもだと無意識のうちに体を客席のほうに傾けたりして、作品のメッセージを分かりやすく伝える動きをしてしまうんですが、今回に限っては、その場で展開している登場人物たちの会話や動きを、ただ見てもらっているような感覚があって。ある意味、いつもとは違うリアリティーのある作品だったなと感じています。

 

──物語の題材となっているのは1960年の安保闘争です。企画を聞いたときはどのような印象を持たれましたか?

 

瀬戸 恥ずかしながら、僕はこの事件のことをほとんど知らなかったんです。漠然と知ってはいても、実際にどのようなことがあったのかまでは分かっておらず、初めて内容を聞いたときは、“これは難しい作品になりそうだな”と思っていました(苦笑)。作品のタイトルにもある《彼女》というのは実際に学生運動の最中に命を落とした樺美智子さんがモデルになっていて、樺さんに関する文献をたくさん読み、“かつて日本でこんなことがあったのか……”と驚きました。それに、劇中で《彼女》の言動を見た同級生が、「なんだか怖い」とつぶやくセリフがあるのですが、僕も同じ感想を抱いて。ただ、同時に、自分の信念を貫き通す姿勢に憧れを感じたりもして、台本を読みながら複雑な感情になったのを覚えています。

 

──確かにこの60年前の事件だけを切り取ると、どこか別の国の話のような感覚に陥ります。

 

瀬戸 そうなんです。けど、いろんな資料を読むと、彼女のカリスマ的なエネルギーに引っ張られていった人たちが大勢いた一方で、そこまで信念を持たず、ただ流れに身を任せていた人も多かったみたいで。そこは、今の時代と変わらないんだなと、ちょっとホッとしたところもありました(笑)。

 

──実際に稽古に入ってからも、難しさを感じる部分はありましたか?

 

瀬戸 瀬戸山(美咲)さんの台本がとても分かりやすかったので、その不安はすぐに消えました。正直、本番前のインタビューでは、若い方に向けてどのような言葉でこの題材のテーマや魅力をお伝えすればいいのか分からず、悩んでいたんです。きっと30代でもピンとこない方が多いでしょうから。でも、台本が非常に優れていて、時代背景を知らなくても、メッセージ性が真っすぐ届いてくるんです。実際に舞台をご覧いただいたお客さんの感想を読んでもしっかりと伝わっていましたし、そうした声を聞くと、この舞台を今上演した意味や意義がすごくあったんだなと嬉しく思います。

 

──そうした中、今作で瀬戸さんが演じたのは60年代に新聞記者として学生運動を追っていた高木吾郎と、その孫であり、同じく新聞記者の伊知哉の2役でした。

 

瀬戸 演じる上で意識したのは、“新聞記者ってこんなキャラクターだよね”とステレオタイプの役作りはしないということでした。僕もよく本当の新聞記者さんから取材を受けることがあるのですが、当然ながらみんな個性がバラバラなんです。それを思うと、いわゆる“普通の新聞記者”っていないなと思って。それよりも、吾郎や伊知哉の核となっている“真実を知りたい”という好奇心を大事にするようにしていました。また、吾郎と伊知哉に共通しているのは、自分にとってプラスかマイナスかでは動いていないということなんです。ですから、あえて2役だから演じ分けるということは意識せず、自然とにじみ出る違いをお客さんが感じ取ってくれればそれで十分だという思いで演じていました。

 

──今作の演出を手掛けられたのは栗山民也さんです。瀬戸さんにとっては初めてでしたが、いかがでしたか?

 

瀬戸 楽しかったです。栗山さんのことが大好きになりましたから(笑)。先ほど、客席を意識しないお芝居の話をしましたが、栗山さん自身も「今回はそういう型にはまった舞台じゃない」ということをおっしゃっていて。たぶん、僕は自分で思っている以上にお客さんにお尻を向けて芝居をしていたんですが、栗山さんも「それでいい」って言うんです(笑)。また、とても興味深かったのが、稽古中に何度もみんなに「言葉を大事にしよう」と話していたことでした。その理由として、この作品の主人公が新聞記者であり、真実を伝えていくことの大切さなどをテーマにしているからというのもありますが、僕たちも演劇人や役者として言葉を扱う仕事をしているので、けっして他人事ではないんです。僕自身、今回の稽古を通して改めて言葉というものを考え直すきかっけになりましたし、栗山さんから教わることも多く、本当にいい経験をさせていただきました。

 

──また、今回は深く重い作品でありながら、物語を引っ張っていくのが瀬戸さんをはじめ、木下晴香さんや渡邊圭祐さんなど若いキャストだったことも新鮮で魅力的でした。

 

瀬戸 ありがとうございます。お2人とは今作が初共演でした。晴香ちゃんはミュージカルの舞台で大活躍されている方ですが、ストレートプレーはこれが初めてなんですよね。圭祐に至っては初舞台でしたし。初めて経験する舞台がこの作品って、すごいことです。僕ならきっと途中で心が折れていたと思います(笑)。でも2人を見ていると、日に日に感情が乗ってくるのを共演しながら肌で感じて。本当に素晴らしい役者さんたちだなと思いました。

 

──共演するにあたって、意識されたことなどはありましたか?

 

瀬戸 僕はどの作品でもそうなんですが、稽古場にはセリフを覚えていくだけで、“こういう演技をしよう”という考えは持ち込まないようにしているんです。もちろん、台本は頭に入っているのでまったくのノープランというわけではないのですが(笑)、そこは重要視していなくて。相手役と接した時にあふれでる喜びや怒り、哀しみなどを大事にしているんです。

 

──なるほど。ちなみに、今作の吾郎や伊知哉のように、瀬戸さん自身に表現者として伝えていきたいものはありますか?

 

瀬戸 伝えたいことは、そのときどきによって変わっていきます。出演している作品のテーマにもよりますし。プライベートでよく絵を描くんですが、そこに込める想いも、そのときによって変わっていきます。例えば、コロナ禍の自粛期間中に描いたものには、《ずっと家にいても、工夫次第で毎日が楽しくなる》というメッセージを込めたりして。もともと、考える作業が大好きなんです。頭を使って、いろんなことを想像したり。絵を描くこともそうですが、役者として何かを表現することもそれに通じる部分があって。だから、やめられないんだと思います。

 

──絵を描くことは、お芝居と異なるベクトルの思考でしょうし、楽しみながらもリラックス効果があるのかもしれませんね。

 

瀬戸 そうだと思います。そういえば、この作品の本番中は、家に帰ってから一度も台本を開かなかったんです。そうやって気持ちの切り替えも上手く出来ていたのかもしれないです。

 

──今やってみたいことはありますか?

 

瀬戸 仕事の話になってしまいますが、やはり年に一本は舞台に出たいなと思っています。それこそ、今度は瀬戸山さんの演出を受けてみたいです。瀬戸山さんは演出家としても活躍されていますし、今回も何度か稽古場にいらっしゃって、意見を言ってくださったんです。その話を聞き、「瀬戸山さんなら、こういう演出をされるのか」とすごく興味を持ったので、いつか一緒にお仕事をしてみたいです。

 

──お話を聞いていると、今回の稽古場には演出家が2人いたような感じだったんですね。

 

瀬戸 そうなんです(笑)。それが面白かったです。もちろん、瀬戸山さんは「あくまでこれは、私個人の感想ですが」と断りを入れて話されていましたし、僕らも栗山さんのプランに沿ってお芝居をしていましたけど。でも、栗山さん自身も、よく瀬戸山さんに感想をうかがっていたので、本当に信頼し合っているんだなと感じました。

 

──最後に、放送をご覧になる方に向けて、瀬戸さんが思う見どころを教えていただけますか。

 

瀬戸 第一に、僕たち役者の熱量が伝わっていればいいなと思っています。また、どのような編集になるのかまだ分かりませんが、この作品は意外とセリフを話していない人物の表情や佇まいが重要な場面もあるんです。現代のシーンで伊知哉が自分の信念を語っている時、若い矢船(渡邊)がどんなリアクションを取りながら聞いているのか……など。それこそ、僕が背中を向けて喋っているシーンがどのように映るのかも気になりますので(笑)、僕も楽しみに放送を待ちたいと思います。

 

舞台「彼女を笑う人がいても」
CS衛星劇場 2022年3月13日(日)後 7・00よりテレビ初放送!

(STAFF&CAST)
作:瀬戸山美咲
演出:栗山民也
出演:瀬戸康史、木下晴香、渡邊圭祐、近藤公園、阿岐之将一、魏 涼子/吉見一豊、大鷹明良

(STORY)
1960年6月16日、学生たちは雨が降る中、黒い傘を差し、国会議事堂へと向かっていた。そんな彼らを以前から取材していた新聞記者の吾郎は、激化する安保闘争の中で命を落とした1人の女学生の死の真相を追うようになる。一方、2021年を生きる伊知哉は、新聞記者の仕事に行き詰まりを感じていた。東日本大震災の被災者を追う取材が、部署の配置転換によって、これ以上かなわなくなってしまったのだ。そんなある日、伊知哉は自分の祖父・吾郎もかつて新聞記者だったこと、そして安保闘争の年に記者を辞めたという過去を知る――。

 

撮影/宮田浩史 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/YOSHi.T(AVGVST) スタイスト/田村和之 衣装協力/エトセンス、パラブーツ

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