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古人骨分析のプロが明かした、科学でわかるマヤ文明の秘密とは?〜注目の新書紹介〜

  • 2021年1月17日
  • GetNavi web

書評家・卯月鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

科学の力で神秘のヴェールを剥ぐ

「マヤ文明」と聞くと、神秘のヴェールに包まれた魔境というイメージが浮かびます。世界の滅亡を予言したマヤ暦、解読できない絵文字、勝敗で人身御供を決める神聖な球技……。

 

マンガやゲームでかじったオカルト知識がうごめいて、もはや本当にあったかどうかもあやふやになるレベル(笑)。しかし、現在は科学の光が当てられ、古代マヤ文明の実態が明らかになりつつあります。

 

今回の新書『古代マヤ文明 栄華と衰亡の3000年』(鈴木真太郎・著/中央公論新社・刊)は、科学的な手法を導入した最新の考古学の見地から古代マヤ文明に迫る本。

 

著者の鈴木真太郎さんは、古人骨を分析する「生物考古学」を専門とした考古学者。プロフィールを読んだ限りでは一般向けの単著はこれが初めてのようですが、非常にわかりやすくマヤ文明の謎と生物考古学のアプローチが解説されています。

 

歯からわかるトウモロコシの食べ方

「まえがき」にも書かれていますが、そもそもマヤ文明とは、メキシコ南東部からグアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス西部、エル・サルバドル西部の一帯で栄えた文明。その起源は紀元前1000年ごろまで遡り、16世紀のスペインの襲来によって滅亡しました。

 

生物考古学では、骨や歯に含まれるストロンチウムと酸素の同位体の分析から、人がどう移動しどこで何年過ごしたかがわかるのだとか。興味深かったのは、5世紀に成立したマヤ文明の王朝・コパン王国の創始者の出自。

 

これまでは碑文などから遠方のメキシコ中央部にあった大都市テオティワカンの出身というのが通説でしたが、実はベリーズで生まれた生粋のマヤ人だったと判明しました。こんな細かいことまで分かるんですね! ではなぜ、王は外の地から到来したかのような碑文を残したのか? ひとつ謎が解けてはまた謎が生まれ、新たな推察が浮かび上がってきます。

 

骨からわかることは他にもあります。第5章は「古代の食卓」。虫歯罹患率や歯の損耗具合、さらに人骨に含まれる窒素同位体などから食料事情を把握することができます。マヤ文明の主食がトウモロコシであることはすでにわかっていましたが、どのように加工されていたかも見えてきます。

 

グアテマラ南部にあるシン・カベサス遺跡出土の人骨は虫歯の罹患率が高く、損耗が遅い。一方でその近くのレイノサ遺跡は虫歯の罹患率が低く、損耗が速い。ここから著者は、シン・カベサスではトウモロコシを石灰水で下ゆでするニシュタマルという調理法が採用されていたのではないか……と導き出します。

 

柔らかくしてあるため歯が削れることはないが、歯に張り付くため虫歯にはなりやすい。このあたりはミステリーを読んでいるようで、いろいろな想像が湧き上がりました。

 

ほかにも歯に穴をあけてヒスイをはめ込む歯牙装飾、乳幼児の頭を板で挟む頭蓋変形といった、古代マヤ独自の文化とその理由も推測されています。「解読不可能」と言われていたマヤ文字も解明が進んでおり、“読める歴史史料”に変貌を遂げつつあるそうです。科学的なアプローチによって、古代のロマンがさらに色鮮やかになる、そんな一冊でした。

 

【書籍紹介】

古代マヤ文明 栄華と衰亡の3000年

著者:鈴木真太郎
発行:中央公論新社

かつて中米に栄えた古代マヤ。前一〇〇〇年頃に興り、一六世紀にスペインに征服された。密林に眠る大神殿、高度に発達した天文学や暦など、かつては神秘的なイメージが強かったが、最新の研究で「謎」の多くは明かされている。解読が進んだマヤ文字は王たちの事績を語り、出土した人骨は人びとの移動や食生活、戦争の実態まで浮き彫りにする。現地での調査に長年携わった著者が、新知見をもとに、その実像を描く。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

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