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新型コロナの流行でアート市場に起きた予想外の動き〜注目の新書紹介〜

  • 2020年11月15日
  • GetNavi web

書評家・卯月 鮎が選りすぐった最近刊行の新書をナビゲート。「こんな世界があったとは!?」「これを知って世界が広がった!」。そんな知的好奇心が満たされ、心が弾む1冊を紹介します。

 

 

コロナ禍で変わり始めた価値観

みなさん、こんにちは。書評家をしています卯月 鮎です。コロナ禍での生活が続き、以前とは感覚も少し変わってきました。これまでなら人が並んでいたり、混雑していたりするお店を見かけたら、「何だろう?」と気になっていたものですが、今では人が密集しているというだけで腰が引けている自分がいます。友だち、仕事仲間、知り合い……そんな人間関係の線引きにも変化が生じた気がします。

 

こうなると、人間の本質を切り取って露わにするアートにも当然影響が出てくるでしょう。今回の1冊は、芸術の秋にふさわしい新書『新型コロナはアートをどう変えるか』(光文社新書)。混乱するアート市場の現状は? そして新生アートから見えてくる新型コロナが社会にもたらす意味とは?

 

 

著者はアート・コレクターで横浜美術大学学長の宮津大輔さん。ビジネスとアートの関係性を書いた『現代アート経済学』(光文社新書)でも知られています。

 

まず第1章は「芸術は疫病をどう描いてきたのか」。すべての人が平等にガイコツになって墓場で踊る「死の舞踏」というモチーフが流行った中世ヨーロッパの黒死病。粋でいなせな若衆になった楊枝やタライが病魔を退治する擬人化絵が描かれた江戸時代の麻疹(はしか)。流行病に影響を受けたアートの歴史が解説されます。

 

『聖闘士星矢』のセル画が予想外の高値

もっとも興味深かったのは第3章「アートは死なず」。中国マネーの台頭と依然として力を持つオイルマネーにより、コロナ禍前には7兆円に膨れあがっていたアート市場。しかし、販売の中心だったアート・フェアが軒並み中止に追い込まれ、一時的な混乱を迎えているようです。それでも著者は、外出自粛が追い風となったeコマース関連など新たな富裕層の参入が考えられ、「数年で従前の規模を越えることは、リーマン・ショックの事例から、まず間違いないでしょう」と予測しています。

 

さらに、新型コロナ感染拡大に伴って、趣味性の高いサブカル的な作品の取引が活発になっているというから驚きです。サザビーズ香港のオークションでは『聖闘士星矢』のオープニングのセル画が予想価格の5〜7万香港ドルに対して、37万5000香港ドル(約525万円)で落札されたという例が挙げられています。感染防止のため他者との関わりが減ることによって、自分の本当に好きなものにお金を使いたくなる……その心境、よくわかります。

 

また、オンラインアートのトピックもなるほどと思えました。キーワードは「脱・所有」。2020年5月には世界中の名画が無料で楽しめるオンライン・アート・プラットフォーム「VALL」がスタート。月額料金制(月々2980円)で若手アーティストの作品もオンラインで鑑賞できます。絵画をコレクションする、展示されている美術館に足を運ぶ、そんな行動は過去のものとなるかもしれません。

 

新型コロナの流行によって見えてくる生きる意味とアートの必要性。深まる秋の夜長、温かい紅茶でも飲みながら、アートとは何かを考えるのもぜいたくな時間の過ごし方です。

 

【書籍紹介】

新型コロナはアートをどう変えるか

著者:宮津大輔
発行:光文社

世界のアート市場は、新型コロナウイルス感染拡大前まで活況を呈していた。実際、中国を中心とする華僑・華人を含むアジア、並びに中東産油国の旺盛な購買意欲に牽引され、オークション・ベースだけでも7兆3000億円(2018年)に上っていた。しかし、新型コロナウイルスが風景を一変させた。このパンデミックはアート市場にどのような影響を与えているのか――。本書では、人類が疫病といかに対峙し、芸術をもって描出してきたのかを振り返るとともに、ウィズ/ポスト・コロナ時代のアート界について市場動向を中心に予測する。同時に、歴史的転換点を迎えた現在、様々なアーティストによる作品紹介を通じて、彼ら・彼女らの作品に込めた意図を探る。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。

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