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容量市場初入札で上限にほぼ一致の高値、さじ加減難しく、制度完成はこれから【エネルギー自由化コラム】

  • 2020年10月29日
  • エネチェンジ

小売事業者が負担する拠出金で発電所の建設や維持に必要な資金を確保する容量市場が、本格的に始動しました。発電能力に値をつける仕組みは将来の安定供給を維持するうえで大きな意味を持ちますが、初入札でついた2024年度の価格は、事前に想定された上限値にほぼ一致する高値がついています。このままでは電力自由化に影響が出るとの意見もあり、経済産業省は総合資源エネルギー調査会で対応の検討を始めました。

上限値とほぼ同じ1キロワット当たり1万4,137円

「価格を聞いてびっくりした。このままで良いと思っていない」「多くの新電力が懸念していたことが起きた。受け入れがたい水準だ」。オンラインで開催された総合資源エネルギー調査会の制度検討作業部会で学識経験者の委員から高値がついた初入札に次々に疑問の声が上がりました。

入札結果は1キロワット当たり1万4,137円。2010年度以前に整備された古い電源は受取額を42%割り引く経過措置があるため、全体の平均価格は9,534円となりました。これで2024年度に全国で必要な電力供給量目標の9割以上に当たる1億6,769万キロワットを確保できました。

しかし、入札結果はあらかじめ設定された上限値より1円安いだけです。供給力の新設などに必要と推計される金額で、事前に指標と考えられていた1キロワット当たり9,425円を上回っています。

経産省によると、海外の価格は1キロワット当たりで英国が1,000~3,000円、米国が3,000~7,000円です。海外と比較してもかなりの高額です。

学識経験者から制度の見直しを求める声

市場管理者の電力広域的運営推進機関は小売事業者から集めた拠出金で発電事業者に1.6兆円を支払います。価格が高値となったことで小売事業者の負担が大きくなりました。新電力大手のエネットは200億円程度の負担増になることを会議で明かしています。

価格が上がった理由について、電力・ガス取引監視等委員会は、経過措置対象の電源の割引分の逆数を乗じて入札する「逆数入札」を挙げました。新電力からは需要見込みの過大を指摘する声が出ています。

委員からは価格が上限の範囲内に収まっていることから、許容範囲内として入札結果を容認する声も出ましたが、「制度の見直しも含めて考える必要がある」などと経産省や電力広域的運営推進機関に再検討を相次いで求めました。

経産省は必要があれば見直しを進める方針で、今後も作業部会で意見を聞きながら、対応を検討するとしています。電力広域的運営推進機関も独自に有識者会議を開き、初入札の検証作業をスタートさせました。

建設費など確保へ将来の発電能力を取引

容量市場は電力の売買ではなく、将来の発電能力を取引する市場です。発電所の建設には多額の費用と一定の期間が必要になります。発電所は電気が足りなくなってすぐに運転できるものではありません。大きな発電所だと開発計画から運転開始までに10年以上かかることが珍しくないのです。

発電事業者が建設や維持費用を安定して確保し、適切なタイミングで実行できるようにするのが容量市場創設の目的です。必要とされる電力量が常に確保されるようにするための市場なのです。

入札は1年単位で行われます。電力広域的運営推進機関が将来のある時点に全国で必要となる電力量に基づき、需要曲線を設定します。これに電源ごとの応札価格を安価な順に並べた供給曲線を重ね、その交点で価格を決める仕組みです。

決まった価格に総キロワットをかけた総額が、小売事業者から市場シェアに応じて集めた拠出金として発電事業者に支払われます。発電事業者からすると発電能力によって収入が事前に確定します。設備投資にこれまで以上に前向きになれ、結果として電力不足を招く危険性が減少します。

電力市場の役割

市場名取引される商品
卸電力市場実際に発電された電気
容量市場発電することができる能力
需給調整市場短期間で需給調整できる能力
非化石価値取引市場非化石電源で発電された電力の環境価値
出典:電力広域的運営推進機関資料から筆者作成(注)需給調整市場は2021年度以降に設立される見通し
 

容量市場初入札の供給曲線(データの平滑化処理後)

出典:電力広域的運営推進機関資料

高すぎると新規参入の障壁に

容量市場が創設された背景には、電力自由化により競争市場で卸売価格が決まるようになったことがあります。太陽光発電など燃料費を必要としない電源が普及する一方、新電力の参入で販売競争が激しくなり、電力価格が低下しました。

その結果、火力や原子力発電などが巨額の設備費を回収できなくなり、新規投資や設備更新が進まないことが心配されました。そこで、発電事業者に電源確保の資金を保証する仕組みとして容量市場が浮上したのです。

しかし、入札結果が高すぎず、安すぎもしない範囲内に収まらなければ、弊害が生じます。入札結果が安すぎると建設や維持にかかる十分な資金が発電事業者に渡らず、発電事業者の投資意欲を減退させて建設や維持が進みません。

逆に高すぎると小売事業者の負担が大きくなり、小売価格に上乗せされることが予想されます。さらに、新規参入を妨げたり、新電力の経営が成り立たずに撤退したりすることも考えられるのです。

新電力が相次いで経産省などへ見直し要請

今回の入札結果に対し、新電力は一斉に反発しています。湘南電力、地球クラブ、みやまスマートエネルギーなど新電力22社は梶山弘志経済産業相、小泉進次郎環境相に対し、容量市場の見直しを求める要望書を提出しました。

要望書は容量市場の創設で電源を持っていない新電力が一方的に負担を強いられ、このままでは電力自由化や電力システム改革をゆがめることになるとして、根本から見直すよう求めています。

自然電力やみんな電力、Looopなど34社は梶山経産相に初入札結果の再検討と制度設計の見直しを求める要望をしました。入札結果は国際的に例を見ない高値で、新電力にとって深刻な経営への影響があるとする内容です。

地球クラブは「電力大手に有利で、新電力に不利な内容になっているのではないか。再生可能エネルギーの供給能力を踏まえ、容量市場の目標量を最小化してほしい」と話しました。小泉環境相も記者会見で「国民負担が上がる可能性が高い」と懸念を示しています。

経産相は「国民の追加負担示す数字ではない」

これに対し、梶山経産相は記者会見で「小売事業者が支払う対価が明確化されたもので、国民の追加負担を表すものではない」と説明しました。自由化の進展で建設や維持の費用回収方法が変わっただけで、新たな費用が発生したわけではないことを強調した発言と受け止められています。

電気事業連合会会長の池辺和弘九州電力社長は東京都内で開かれた記者会見で「発電所の建設、維持をしないと、将来的に電気が不足して電気料金が高くなる。この誰にとっても不幸な事態を回避するために、容量市場が生まれた」と強調しました。

発電所を持たずに容量市場新設に伴う負担増に不満を訴える新電力に対しては、批判の声も出ています。安定供給の維持を電力大手に任せたままで金銭面の責任を負おうとしないただ乗り状態だというわけです。

新規参入促進と発電能力確保の両立を

容量市場は複雑な制度設計の理解が十分に進んでいないうえ、調達量に当たる需要曲線を人為的に決めていることもあり、さじ加減が非常に難しくなりました。先行して容量市場を導入した欧米諸国でも試行錯誤を繰り返しています。

しかし、容量市場がせっかくスタートした電力自由化の妨げになったのでは、意味がありません。新電力に過剰な負担をかけず、発電所の建設や維持費用を確保できる制度の改善が必要になりそうです。

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