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現代の世界のエコ時事を語る時にかかせない人物、ジョゼ・ボヴェを知っていますか? ボヴェは、フランスの“闘う正義のエコ戦士”で、世界に多くファンを持っています。私も彼の大ファンなのですが、今月は、彼がどんな人物でどんなことをやってきたのかを簡単に御紹介していきたいと思います。 |
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1999年8月に、南フランスの小さな町のマクドナルドを農民たちが襲撃するという事件が起こった。アメリカの強引な輸出入政策に反対する農民たちが、報復措置としてアメリカ文化の象徴であるファーストフード店を襲ったのだった。 事件の首謀者はジョゼ・ボヴェ。数日後、「健康な食品ときれいな農業のための闘いに、農民が拘留される必要があるなら、私は刑務所に残る」と自主をして堂々と監禁された(『Le Monde n'est pas une marchandise』の表紙を御覧ください)。 マスコミは、最初、ボヴェらの行為をお笑い三面記事風に取り上げた。しかし、さすがは農業国フランス。事の重大さに気付いたフランス国民は、ボヴェの態度にシンパシーを覚えたのだ。こうしてボヴェはマスコミの脚光を浴び、うなぎのぼりに“国民的英雄”に。一時はフランス国民の半数が「次回の大統領候補にボヴェが立候補したら一票いれたい」と熱狂したほどだった。 ところで、ボヴェは農民の家に生まれたわけではなかった。ボルドー大学で哲学を勉強した後に、自ら農民になることを決意し、87 年にはConfederation paysanne (農民連合)の指導者になったのだ。マクドナルド事件で一躍有名になったボヴェだが、実は彼のアクティヴィストとしての歴史は長い。1970年代からエコと平和の闘ってきた。例えば、シラクが95年に行ったムルロワの核実験では、ポリネシアに赴き、グリーンピースに乗り込んだ。また、さらにそこからゴムボートで核実験区域にまで侵入し、最後の最後まで粘って反抗したひとりだったのだ。 ボヴェのユーモア溢れる話術とエコロジーへの情熱は、今ではヨーロッパはおろか、世界の隅々にまで響き渡るようになった。ボヴェは、今や、反グローバリゼーションのスター的存在として様々なフォーラムやコンフェランスにひっぱり凧状態だ。これからの地球に必要なのは、こうした正義のエコ戦士ではないだろうか。 |
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本書では、ボヴェは、狂牛病が生み出される酪農システムや農業政策の矛盾をインタビュー形式で伝える。人間の体と精神を養う聖職であるはずの農業が、金もうけの手段に成りさがっていると批判、ひたすら利益ばかりを追求する農業化学企業や現在のシステムを厳しく告発する。日本でも紀伊国屋書店が翻訳本を出版しているので、是非読んでいただきたい。フランスではベスト・セラーになりました。 |
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「怒るときに怒らなければ、人間のかいがありません」。この本を読んでいる時、太宰治のこの言葉が脳裏に浮かんだ。ボヴェの人生は反発の人生、レジスタンスの人生だからだ。 この書籍では、ボヴェがどうしてアメリカの政府や現代の農業事情に反抗するのかという理由を詳しく説明してくれる。目玉は、遺伝子組み換え植物がどのように人間を脅かしていくのかを語っているところだろう。私の感動した箇所を抜粋してみたい。 En rsum, les multinationales s'approprient tout le vivant. Le but est de breveter le vivant. Au risque de me rpter, l'enjeu du sicle venir est bien l : la marchandisation du vivant." (訳)……結局、マルチナショナル企業は、すべての生きとし生けるものを横領としているのだ。繰り返すが、21世紀の争点は、“生き物の商品化”、ここにある。 農業や健康の問題に留まらず、哲学的示唆を持っているからこそ、フランス国民がボヴェのレジスタンスに共鳴をするのだろう。 |
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この書籍に副題をつけるのなら、「フランス農民物語」といったところだろう。フランスの農民が、戦後から現在までどのように変わってきたのかということが綴られている。 忘れてはならないのは、ボヴェが、あくまでも“フランスの一農夫”として、国際政策に立ち向かっているアクティヴィストだということだ。それが、どんな政治家よりも、説得力のあるディスクールを生み出している。 余談だが、「政治家にならないか」という誘いに「向いてない、無理だ」とボヴェはスッパリと断ったそうだ。 「流れに逆らうか? それとも、採算をとるために流されるか?」の章は、現在の農民たちのジレンマが描かれている。こうしたジレンマの末、90年代後半、農場をBIOにしたヨーロッパ農家が急激に増えたのだろう。 |
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本書でボヴェは、農業を人類共通の文化として国を越えた連帯を説いている。農業はユニヴァーサルな職業であり、ユニヴァーサルな価値観で農民たちは繋がっているのだと。 ボヴェには「マクドナルドを壊した農民」というイメージが強烈だが、実は、彼は、世界のあらゆるエコロジスト、エコ・アクティヴィストたちと友好を結んでいる超コスモポリタン人間なのだ。例えば、あのザパティスタのマルコム副総司令官とはパイプを交換するほどの仲だという。草の根運動というのは、文字通り、地下の見えないところで固く繋がっているのだろう。 また、あれだけアメリカの強引な政策を批判しているボヴェだが、実はアメリカで幼少時代を過ごしていた。シアトルのWTO会議に抗議するために40年以上の歳月を経て再びアメリカの地を踏んだボヴェは、「アメリカにはブッシュ父子しかいないというわけではないのだ」と皮肉を言い、敬愛するマーティン・ルーサー・キングとヘンリー・デイヴィッド・ソローの二人の思想について長々と綴っている。どうやらボヴェの思想の背景にあるのは、このふたりらしい。 |
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ボヴェ自身が書いた(又は語った)本ではなく、ボヴェについて書かれた書。著者のドニ・パンゴ氏はジャーナリスト、映像作家として活躍している人。 どうして、ボヴェは、世紀末、彗星のようにメディアとポリティックのシーンに現れたのか。それは偶然ではなく、今まで続けてきた様々な闘争の産物だと筆者は主張する。 1農民として現代の農業システムに反発し、1消費者としてジャンク・フードの経営倫理を拒み、1市民として国際政治を批判する。そんなボヴェの姿を浮き彫りにした書だ。 「まるで、ボヴェ事体が商品じゃないか!」と、ボヴェの過剰なメディア露出を妬んで批判する文化人もいたが、この本でそうしたネガティヴなイメージは払拭された。彼は決して単なるお調子者ではなく、やっぱり正義のエコ戦士なのだ。 |