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犬の落としものクリーン大作戦

  • 2002年9月1日
  • 緑のgoo編集部

犬の落としものクリーン大作戦

 6000トン。この数字、パリ市内で一年間に拾われる犬のウンチの総量である。一日に換算してもおよそ16トンあまり……。もはやパリの名物として定着した感もある犬のフンだが、フランス人の飼い主はマナーが悪いことで有名だ。「私が拾うと、お掃除の人が職を失っちゃうでしょ」なんて開き直っている。しかし、これら“パリの名物”を踏んで病院に担がれる人は、1年に600人にも上るという。市役所にパリ市民から送られてくる抗議の手紙の95%近くが、歩道に関すること、なかんずく、犬の落としもののことなのだという。
「花のパリを、犬のウンチで汚されては」と、市長たちは、あの手この手で、あの手、この手の作戦を考えてきたのだが……。


シラクレットとは?


 まず、シラク大統領が、パリ市長だったころに考案されたのは、御覧の写真のような「犬用トイレ」。「トイレ」といっても、見てのとおり、歩道に犬の絵を描いただけで、「犬さん、ここで用を足してくださいな」というもの。もちろん、効果はゼロ。第一、犬に、こんな目印がわかってもらえるわけがない。人間でさえ生理的要求は制御しにくいのだから、ましては犬においてはなおさらだ。このトイレは、一部のパリジャンたちには皮肉をこめて「シラク・レット」と呼ばれている。今でも残ってはいるものの、何の役にも立っていないのが現状だ。
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シラク大統領が採択した犬用トイレ。「犬さん、ここで用を足してくださいな」というもの。   犬トイレの別バージョン。


犬ウンチ専用清掃スクーターよ、さよなら!


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神出鬼没のウンチ専用お掃除スクーター、モトクロット。もうすぐ姿を消してしまう。
 もうひとつのシラク氏の考案が、ウンチ専用お掃除スクーター「トロチネット」(写真参照)。だが、トロチ・ネットという名前はまったく普及せず、もっぱらモトクロット( moto + crotte、つまり、「ウンチ・バイク」)と呼ばれている。神出鬼没なこのお掃除バイク、モトクロットには掃除機のノズルみたいなものがバイクについており、強力なバキューム力でウンチを一瞬にして吸い込んでしまうもの。世界で唯一フランスでしか見られない犬のウンチ専用お掃除バイクとして、一部のパリマニアに熱狂的に騒がれた。このモトクロットは、約100台あまり存在し、これを運転するプロの犬フン収集バイカーはおよそ150人。なんと、これらバイカー(モトクロッター)を指導する専門インターン・チューターまで若干名存在するそうだ。
 モトクロッターの走る時間と道程は、パリ市清掃局からの指事によって徹底的にコントロールされている。すべてのモトクロットの行動は衛生通信ネットワークで遠隔からもわかるようになっており、集めたウンチの量、走っているスピードなども記録されるハイテクなシステムになっている。ウンチを集めた後、それを下水(!)に流し、給水タンクに水を汲み、バイクの整備をするのが犬フン収集バイカーの1日のスケジュールになっている。
 吸い取っていく姿が愛嬌たっぷりのモトクロットだが、なんと、これら100台のモトクロットを維持するには、一年間に約一億二千万円もかかるのだという。パリジャンたちの税金が、犬の落とし物のためだけに使われているのは、ずいぶん勿体ない話だ。



 ところが、去年から、新しい風が市役所から吹いている。社会主義者のゲイ(カミング・アウト済)市長、ドラノエ氏は、エコ政治団体である緑の党をパートナーにしているのだ。新市長は、「みんなの税金を有意義に使うため、モトクロットを廃止していく」と発表した。市役所の報告によれば、モトクロットは、パリの犬糞のたった20%しか拾っていないとのこと。シャンゼリゼなどのツーリストエリアには念入りにモトクロットが送られるが、滅多に見かけることがない住宅街もある。ドラノエ市長の考案は、ウンチ用ビニール袋が沢山詰まったボックス(写真)をパリの各所に設置すること。つまり、犬の始末は飼い主が責任を持つというフィロゾフィーをパリで初めて取り入れた革命だ。また、フン拾いの指導員や、ウンチ視察官を設け、垂れ流しの場合には、約2万円もの罰金を科せるという。現段階では、このウンチ袋ボックスや、犬フンポリスを見かけることはあまりないが、これからどのように変わっていくか楽しみだ。近い将来、空を仰ぎながらパリを闊歩する日がやって来るのかもしれない。
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ドラノエ市長の新兵器、犬フン袋ボックス。まだあまりお目にかからない。現段階でおよそ100ボックスが設置されているらしい。


ウンチをアートに変える旗


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犬フン専用の旗。5本入りで8ユーロは高い? 安い?
 「クリーン作戦は市民のイニシアティヴで!」と主張するアーティストが現れた。夜な夜な犬の落とし物に、お子さまランチ風の旗をたて、芸術作品にしているこのパリジャンの噂は、バスチーユ界隈で噂になっていたが、ある晩、彼が旗をたてている現場を発見! アーティストの本名は、シリル・ウプランという画家で、バスチーユの住民だという。
「歩き始めたばかりの僕の子供が、犬のウンチに滑って転びそうになったんだ。誰でもパリの歩道を気軽に歩けるような街づくりをしていきたいはず。でも、それを市にまかせっきりにしていてはダメだ。それを訴えるには、どうしたらいいかということを考え、アートというインスタレーションの手段を思い付いた。“自分の犬のものは、自分で拾おう”という社会的意図がこの旗には含まれているんだけど」。
 シリルさんは、この旗を1セット8ユーロで販売している。「近い将来、この旗がパリのお土産屋さんに並ぶかもね」、と笑って消えた。

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