1985年誕生。当年とって40年目の春を迎えたシルバニアファミリーがいま、時ならぬブームのさなかにある。少子化なのになぜという疑問はその通り。盛り上がりの中心にいるのは大人の女性だ。
シルバニアファミリーは東京は台東区駒形に本社を構えるエポック社の主力商品、看板商品である。
「エポック社と言えば野球盤だよね」というのは(特に昭和の)男の子目線。令和NOWでみれば、エポック社の顔=シルバニアファミリーと言って間違いない。
では長年のファンのみなさんも、「ひさしぶり!」なあなたも、まずは基礎知識、つまりその誕生からの歩みでおさらいといきましょう。
シルバニアファミリーの発売は1985年3月20日。当時玩具業界は激変のさなかにあった。というのも任天堂の携帯電子ゲーム「ゲームウオッチ」、続くTVゲーム「ファミリーコンピュータ」や「セガ」によって、玩具の勢力図が転換したからだ。70年代はおおむね、小学校卒業頃まで玩具で遊ぶのが一般的だったが、これら電子/TVゲームの登場によって、より低年齢で玩具を卒業してしまう事態が起きていたのだ。
エポック社とて電子/TVゲームを手掛けてそれなりに成功を収めていたものの、任天堂、セガの背中はますます遠く……。そんな状況下において検討されたのが、男の子向け玩具を得意としていたエポック社にとっての新たな一手、女の子向け玩具の開発だった。そしてリサーチを続ける中で出会ったのが、欧州の伝統玩具であるドールハウスの精巧さと美しさだった。
テーマは「自然、家族、愛」と普遍性あるものとされ、人形ではなく動物家族だったのは、世代、年代を問わずに愛される、やはり普遍的、中立的な存在だったためだ。ちなみに当初設定されたサイズ感、顔つきなどは現在にいたるまで不変にして普遍。シルバニアファミリーは当初から完成されていたともいえる。
「9家族でスタートしたシルバニアファミリーに当初セット商品はなく、フィギュア、家、家具などを個別に選ぶ「構成玩具」でした。つまり自分の発想でシルバニア村世界をつくるロールプレイトイ。さらに特長的なのが、日本ではつい2020年頃まで名前をもたなかったことです」とは、エポック社マーケティング本部のゼネラルマネージャー、小野百合子さんだ。
現在では主人公「フレア」を中心にそれぞれ名前をもっているが、命名のきっかけのひとつは、動画コンテンツ製作にあたり、固有名詞をもたないことが会話に不便を生じたためだ。
現在のブームの中心にいるのは大人の女性である。少子化、玩具の低年齢化を補って余りある女性の熱狂が転じて、子供時代にシルバニアファミリーに親しんだママやばあばへの喚起となり、更に転じて子や孫へのプレゼントとして再び選ばれるようになっている。この相乗がブームのWエンジンだ。
「新型ウイルス以降、盛り上がりが顕著になりました。外出規制、リモートワークなどによっておうち時間が増えたことが追い風です。動画サブスクやSNSでシルバニアファミリーを目にして『懐かしい!』『かわいい!』と感じる人が多くいて、子供の頃のシルバニアファミリーを見つけてSNSにアップしてみたり、何十年ぶりに買ってみたり。また赤ちゃんフィギュアをお守り代わりに身に着ける、推し活を楽しむようにアクセサリーにする人も少なくありません。」と、同社広報宣伝課の鈴木晴子さんは言う。
大人のコレクション魂に火を灯す商品力の高さ、種類の豊富さは言わずもがな。現在までの総生産数はフィギュアで約2億体、家や家具などで3000万個、世界80の国と地域で販売されている。中でも日本発売の翌年から販売を続けるのがイギリスだ。現地代理店スタッフが「ドールハウス遊びが一般的なイギリスでこれは売れる!」と販売を決断したのだとか。
きっかけとは何か? それは海外からの声だった。店頭で商品ディスプレイを見た消費者から「ママがエプロンを着けて掃除機をかけているのに、パパはソファに座ってテレビを観ている役割分担はなぜか?」と問われたのだ。いわゆるマインドチェンジの進む海外の人々にとって、それがたとえ動物であってもロールプレイであり、子供たちの将来の刷り込みにつながってはならない。
日本ではまだまだそのような認識の広まる前だったが、エポック社では方針を一新。先の家事分担もそうだし、たとえば男の子は青っぽい服、女の子はピンクといった“あたりまえ”を無意識に使うことをしない。皆さんが店頭でシルバニアファミリーを見る時、こういった点を踏まえると新たな気づきを得られるかも知れない。
海外でマーケットの大きい国は北米、欧州となるが、直近で人気急上昇な国と言えば、スペインとメキシコが挙げられる。もともとメキシコでは展開していたが、新型ウイルス下で人気が再燃。SNSを通じて同じ言語のスペインへ飛び火したということらしい。
これまでシルバニアファミリー誕生の経緯や直近のブームの背景などを探ってきたが、しかししかし、どこまでいってもシルバニアファミリーは子供のための玩具、そこに揺らぎはない。
「シルバニアファミリーは早くから輸出にも注力してきました。そうして40年という歴史を積み上げる中で時ならぬ大人ブームも起きてエポック社としては大変うれしいことですが、シルバニアファミリーはあくまで子供のための玩具でもあります。人生最初のタイミングで目を輝かせて遊ぶお人形としても提供し続けたいと思っています」(小野さん)
なおシルバニアファミリーのテーマは「徹底的な美の追求」。動物らしい黒目が特長的で、“なんとも言えない表情”、“見ている人の気持ちに寄り添う表情”と言われているが、その特長はまるで能面ではないか。なるほど、シルバニアファミリーはやはり日本のフィギュアなのだ。
「実は、顔つきや手足の長さなど、意図的にわずかな差異を設けています。まったく同じ顔、からだつきだと、あまりにも工業製品的、大量生産的ではないかという判断からです。ですので熱心なユーザーにとっては、店頭で顔つきを見比べて『この子が一番かわいい!』と選ぶことがあたりまえになっています」(鈴木さん)
CREA読者のみなさんの手のひらに握られたシルバニアファミリー。それはあなた自身なのかも知れない。
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シルバニアファミリー40周年記念サイト
https://www.sylvanianfamilies.com/40th/
シルバニアファミリー公式サイト
https://www.sylvanianfamilies.com/ja-jp/
文=前田賢紀
写真=榎本麻美
写真提供=エポック社