11月14日から世界配信されるNetflixシリーズ「さよならのつづき」で主演をつとめた有村架純さんと坂口健太郎さん。10月に開催されたアジア最大級の映画の祭典、第29回釜山国際映画祭の配信作を上映するオンスクリーン部門で全8話のうち1、2話のワールドプレミアが行われ、喝采を浴びた二人に現地で話を聞いた。
「さよならのつづき」は事故で恋人の雄介(生田斗真)を失ったさえ子(有村)と、雄介の心臓を移植された成瀬(坂口)が、北海道とハワイを舞台に運命的な出会いを果たすという物語。脚本は「ひよっこ」や「ちゅらさん」の岡田惠和によるオリジナルストーリーだ。二人は岡田脚本の「そして、生きる」(2019)など多くの作品で共演しており、「健ちゃん」「架純ちゃん」と呼び合う、幼馴染のようなリラックスした雰囲気で、映画への思いや釜山での興奮を語ってくれた。
――今回、釜山国際映画祭で「さよならのつづき」の1話、2話が世界初上映されました。まずは800人もの韓国の観客と一緒に観た感想を聞かせてください。韓国の映画祭には映画を勉強している学生さんが多く参加しているせいか、熱心な質問が飛びますね。
有村 海外の映画祭では、その国の方の芸術文化に対するリスペクトが強い分、作品への評価も結構シビアなイメージがあります。文化が違う分、自分たちの作品がどこまで説得力を持っているのか、観客の方に納得していただけるかっていうのはわからない部分はあるんですけど、そういう国境を超えて良い作品だと正当に評価していただけたら嬉しいし、このあとの日本の作品へも良い連鎖のようにつながったら嬉しいなって思います。
坂口 僕は海外の映画祭に参加するのが実は初めてだったんですよ。
――え、それは初耳でした! こんなにいろんな作品に出ているのに。それは興奮したのではないですか?
坂口 そうですね。僕たちもお客さんと一緒に劇場の席で観てたんですが、日本では舞台挨拶をするときもお客さんと一緒に作品を観るということがあまりないので、最初はちょっと落ち着かないような気持ちもあったんですけど、昨日は本当に不思議で。
日本で初号試写で一度観ていたんですが、昨日観たときの方が、なんかぐっときちゃったんですよね。最初に自分の出ている作品を見るってなると、いろんなものが目に付いてしまうんですが、それが1回抜けたからなのか、結構泣けてくるような感覚だったんです。
映画祭ってお祭りだから上映後の質疑応答とかでも、観客の方の作品へのエネルギーがすごく高い。日本の作品を韓国の映画祭に持ってきて、受け入れてもらったという感覚もあって、とても感激しました。
――有村さんは釜山国際映画祭は2017年にも『ナラタージュ』で参加されていたので、もう常連ですね。
有村 いえいえ。やっぱりドキドキしましたね。
――昨日の上映も大きな劇場でしたし、イ・ジョンジェさん、カン・ドンウォンさんはじめ多くの韓国スターや監督が参加した屋外劇場での開幕式は4,000人もの観客が詰めかけ、お二人も大歓声を受けていましたね。
坂口 開幕式のレッドカーペットも、有名な俳優さんがどんどん、どんどん歩いていく中で、僕らも続いていって。心地の良い興奮と、ちょっとした緊張感と、なんかそういうのが色々混ざって。いい時間になったなと思います。
――「さよならのつづき」は北海道とハワイが舞台になっていますが、ハワイの場面はニュージーランドで撮っていたと聞いて驚きました。2023年のアメリカ脚本家組合、俳優組合のストの影響だったんですね。
有村 そうなんです。去年でしたから。
坂口 僕は北海道はがっつりと長期で行って。ニュージーランドは架純ちゃんが一番長かったね。
有村 1カ月くらいいました。
――長期の海外ロケでご苦労はありましたか。
坂口 楽しかった!
有村 私もすごく楽しかったんですが、紫外線が強くて日焼け対策に苦労しました。ニュージーランドは赤道に近いので紫外線が日本の7倍だと事前に聞いてはいたんですが、確かにジリジリして。日本に帰ってきてからも、しみが出来たんじゃないかと心配でしたね。
坂口 苦労というか、今回ハワイの空港という設定で僕がピアノを弾くシーンがあるんです。お話の上では早めに出てくるんですが、あれを撮ったのがニュージーランドでのかなり後半で。だから楽しく撮影をしていて、もうすぐ終わるなあと思いつつ、だけどまだめちゃくちゃ自分の中では比重が重いものが残ってるな、っていうのがずっとあったんです。最後に大きな仕事があるから。
――坂口さんは以前、初舞台「かもめ」(2016)でも見事なピアノを披露されていましたね。
坂口 観てくれていたんですか。ありがとうございます。
有村 私も観ましたよ、「かもめ」。大変だったでしょうね。
――CREA本誌であの頃に坂口さんにお話を聞いたことがあって、子供の頃に少し習ってはいたけれど、ブラームスは難しかったっていうお話をされていたのがとても印象に残っています。
坂口 大変でした。でも楽しかったですよね。楽しかったけど、やっぱり初舞台だったので、どういうものなんだろうなってのを探りながらやっていたところもあって。そのあと、「ごめん、愛してる」(2017)というドラマでもピアノを弾いたので、今回はそれ以来かな。
――ああ! 韓国ドラマが原作のあのドラマでは、天才ピアニスト役でしたね。
坂口 でも、あれはクラシックだったんで、なんて言うんだろうな、丁寧にしっかり弾くんです。でも今回は割とノリの良い曲(ジャクソン5の「帰ってほしいの」)だったからまたちょっと弾き方は違う。それに成瀬は心臓移植の影響で急にピアノが弾けちゃってるという設定なので、ただ上手に弾くというのとは違う難しさがありましたね。
――先に北海道のシーンを撮って、それから南半球のニュージーランドに行ったんですよね?
坂口 はい。北海道では主に夏から秋にかけて撮ったんですが、後半はすごく寒かったし、そこから南半球のニュージーランドに行ったらまた夏のような日差しで、その開放的な感じみたいなものはとてもありました。ただなんか日本食が恋しくなった瞬間はよくありましたね。
有村 健ちゃんはこの作品の間に、別の作品で韓国にも行っていて、全然日本に帰れなかったんですよね。
坂口 そう、北海道、ニュージーランド、韓国、さらにミラノと続いてて、またニュージーランドに戻ってきて、という感じで、半年近く家にほぼ帰ってなかった。だからお米が食べたくて(笑)。韓国のご飯も美味しいけど、日本食とはまた違うから、ニュージーランドではスタッフの方がカレーライスとか、日本っぽい食事を振る舞ってくれたんですよ。
有村 みんなで作ったりもして。
坂口 合宿みたいで楽しかったね。
――「さよならのつづき」は、タイトル通りにさえ子と恋人の突然の別れから始まる物語で、そこから前向きになろうとする話ではあるけれど、悲しい影から逃れられない部分があります。そこに気持ちは引きずられることなく進みましたか?
有村 それは大丈夫でした。半年近い撮影の間、スタッフさんたちもずっと一緒にいたんで、早く終わった日にはみんなでご飯に行ったりとか、コミュニケーションを取る時間がたくさんあったので、みんなものすごく仲が深まったし、「今日は良いものが撮れたね」という充実感が毎日あったので、常にエネルギッシュな日々でした。
坂口 現場は本当に前向きでしたね。この作品に対してのみんなの思いが色々とあって、熱量の高いセッションのようだったんです。良い意味でディベートというか、このシーンはどうなのか、じゃあどうしようって、みんなで話し合って出来たので、風通しは良かったですね。
――このドラマは心臓が過去の記憶を共有するというファンタジーの要素もあるけれど、同時に世界を股にかけるコーヒーハンターのさえ子の仕事や、成瀬の職場や妻のりんご農園など、日常も描かれます。北海道やニュージーランドの大自然が見事なだけではなく、さえ子が勤めるコーヒー輸入会社や、カフェ、空港、学校などの人工物の撮影にもこだわりを感じました。こうした撮影場所というのは演技にも影響しますか?
有村 そうですね。スタジオのセットに籠もって撮るよりはとても開放的になれるし、声のボリュームだったりとかも、自然と大きくなるような感じもあります。コーヒーのために世界中どこでも行く、さえ子らしい感じ。そしてドラマの中だけではなく、実際にロケをしていて、北海道の方たちに見守られている気がとてもしました。
坂口 場所の良さだけでなく、北海道の人たちはエキストラの方とか撮影協力の皆さんとか、本当に僕たちを心から迎えてくれる感じはすごくしましたね。こちらは撮影で皆さんが暮らしている場にお邪魔してるんだけど、歩いていると「昨日あそこでロケしてたんでしょ。頑張ってね」みたいな感じで声をかけられたり、とても皆さん大らかで、朗らかで。
有村 それと今回、カメラマンさんがコーヒーを淹れる道具や食べ物とかの、“ブツ撮り”にもとてもこだわっていて。ちょっと綺麗すぎるくらい、綺麗なんです。でもそういう努力の甲斐が、映像に表れていると思います。
――お二人ともドラマの中では英語を喋るシーンがあってとても発音が綺麗でした。
有村 え、本当ですか? それは嬉しいです。通訳さんに一生懸命聞いて、覚えたんです。
――有村さんはスペイン語も喋ってましたよね。
有村 スペイン語は講習みたいなのをちょっと受けたんですが、難しかった。
坂口 とても自然だったよ。
有村架純
1993生まれ、兵庫県出身。2010年に「ハガネの女」でドラマデビューし、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(13)の好演で注目を集める。『映画 ビリギャル』(15)で日本アカデミー賞優秀主演女優賞・新人俳優賞W受賞。同作と『ストロボ・エッジ』(15)で、ブルーリボン賞主演女優受賞。『何者』、『夏美のホタル』(16)で日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞新人賞受賞。連続テレビ小説「ひよっこ」(17)で橋田賞 新人賞、『花束みたいな恋をした』(21)で、日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞受賞。その他の主な出演作に、映画『コーヒーが冷めないうちに』(18)、Netflix映画『ちひろさん』(23)、ドラマ「「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(16)、「中学聖日記」(18)、「そして、生きる」(19)、「太陽の子」(20)、「姉ちゃんの恋人」(22)、NHK大河ドラマ「どうする家康」(23)、「海のはじまり」(24)など。公開を控えている作品に映画「花まんま」(25)、「ブラック・ショーマン」(25)がある。
坂口健太郎
1991年、東京都出身。2014年に俳優デビュー後、映画『64-ロクヨン-前編/後編』(16)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。「シグナル長期未解決事件捜査班」(18)で連ドラ初主演を果たし、ソウルドラマアワード2021「アジアスター賞」を受賞。『ヘルドッグス』(22)で日本アカデミー賞 優秀助演男優賞受賞。その他の主な出演作に映画『今夜、ロマンス劇場で』(18)、、『劇場版シグナル長期未解決事件捜査班』(21)、『余命10年』(22)、Netflix映画『パレード』(24)、ドラマ「東京タラレバ娘」(17)、、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(21)、「婚姻届に判を捺しただけですが」(21)、「競争の番人」(22)、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)「Dr.チョコレート」(23)、「CODE-願いの代償-」(23)。「愛のあとにくるもの」(24)では韓国ドラマに初挑戦した。
有村架純さん衣装
エンポリオ アルマーニ 173,800円(ジョルジオ アルマーニ ジャパン 03-6274-7070)
文=石津文子
ヘアメイク=廣瀬瑠美(坂口さん)、尾曲いずみ(有村さん)
スタイリスト=壽村 太一(COZEN inc)(坂口さん)、瀬川結美子(有村さん)