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「女にテレビは作れない」「仕事できねぇくせに」ハラスメント、性差別…氷河期世代プロデューサーが語る“壁”

  • 2024年11月7日
  • CREA WEB

津田 環さん。

 配信プラットフォームが活況を呈し、テレビの観られ方が大幅に変わりつつある今、番組のつくり方にもこれまでとは違う潮流が勃興しています。その変化の中で女性ディレクター/プロデューサーは、どのような矜持を持って自分が面白いと思うものを生み出しているのか。その仕事論やテレビ愛を聞く連載です。

 今回は、『世界ウルルン滞在記』『Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜』などの番組を手がけ、『Wの悲喜劇』内の企画「今だからこそメディア業界のセクハラ問題を考えようSP」に当事者として出演しテレビ業界におけるハラスメントについて語った、制作会社「テレビマンユニオン」所属のプロデューサー・津田 環さんにお話を伺いました。(前後篇の前篇/後篇を読む)


「女にテレビは作れない」と言われ続けた

――津田さんはもともとテレビ業界を志望されていたんですか?

 大学のときから映画が好きで、映画・テレビ問わず、映像関係の仕事につきたいと考えていました。大学卒業後、映像関係のスキルを学びたくてフランスに留学したんですが、卒業後すぐに就職しなかった理由として、当時は就職氷河期だったというのがあります。でももうひとつ、学生時代に映画制作の現場でアルバイトをしたことも関係していて。

 アルバイトしていた現場がもう、めっちゃくちゃマッチョだったんですよ。「映画を作るのに、こんなに男社会である必要はあるのか?」って違和感がすごかった。それで「これはダメだ、今すぐここに入ってもいいことはないな」と思って、外の世界を見てみることにしました。

 フランスとスペインで合計4年過ごして、うち2年間はがっつり映像の勉強をして、面白かったです。フランスでは日本のように「男だから」「女だから」ってことがまったくなかった。

――そして帰国後、テレビマンユニオンに派遣社員として入られています。

 派遣からスタートして、当時でいう番組契約(編注:番組単位で契約する業務委託形式)、期間契約社員を経て正社員になりました。最初の1〜2年、男性プロデューサーやディレクターから「女にテレビは作れない」ってとにかく言われ続けました。

――のっけから“洗礼”が……。そう言われて反骨心が芽生えたんでしょうか? あるいは落ち込んだのでしょうか。

 どっちもですね。「そんなはずないじゃん。なんでこんなこと言われ続けないといけないんだ」って悔しさはもちろんありました。だけど業界に入ったばかりで立場は低いし、大きな番組を手掛けてきたおじさんから「お前なんて仕事できねぇんだよ」って言われたら、言い返す材料がないから「そうなのかな」って思っちゃいますよね。

 今になってみれば、もしそういうことがなかったらもっと早い段階で企画をいろいろ出したり、もっと違う番組を提案できたりしたんじゃないかな、と思うんですが。

――最初に関わったのはどんな番組だったんですか?

 最初に私が採用されたのは『世界プチくら!』(ABC)って番組でした。世界のいろんな街に女子が1人で行って「暮らすように旅する」っていうコンセプトの、女性向けの内容で。にもかかわらず、初めて会議に行ったら会議室にガーッと男が並んでいて、女子スタッフは後ろの席に座らされて「一言も発言しないでね」って言われたんですよ! びっくりしました。なんのために採用されたのか、よくわからなかった。

 この番組はいろいろあって2カ月くらいで終わっちゃうんですね。だけど、たったそれだけの期間でもセクハラやパワハラはあった。「日本のテレビって、まだこんな感じかぁ」と当時ですら思ってました。

――そこで幻滅して「この仕事は辞めよう」とは思わなかったんでしょうか。

 就職氷河期だったし、今みたいに第二新卒なんてなかったですからね。それに、私みたいに留学帰りの人間は特に就職先がなかったんですよ。辞めたら親も泣くし、とりあえず今ある仕事を続けよう、と思ってました。

“女の企画”がぶつかる壁

――『世界ウルルン滞在記』(TBS系/1995〜2008年)に長く携わっていらしたんですよね。そこではどんな業務を?

 海外ロケを手配したり管理したりするアシスタントプロデューサーから始まりました。これまでやっていた人が産休に入るからということで、呼ばれて行って。番組が終わるまで5年ほどやりましたね。

――お仕事の中で楽しさややりがいを感じる場面はありましたか?

 番組づくりに関してはもちろんありましたよ。どういうふうに番組ができていくのか、すごく勉強になりました。

 私たちプロデューサーというのは、場を整えてシチュエーションを作る係なんです。どこに誰をぶっこんだらどういうドラマが生まれて面白くなるかを予測する。『ウルルン滞在記』なんてまさにそういう番組じゃないですか。どの国のどんな厳しそうな環境に誰をぶっこむかという話なので(笑)。しかもトラブルばっかり起きるんですよ。思ったようには絶対にいかない。そういうときの対処の仕方もすごく学びました。

 だけど、ひどいこともいろいろあった。それこそ、言えないようなことも(苦笑)。その狭間にいつもいましたね。


――若手の頃に「こういう番組を作りたい」と企画を出されたことは?

 あるにはありました。企画コンペで、300本の中から1位を獲ったこともあった。だけど、“女の企画”は難しいんですよね。通ったとしても、その先で壁にぶつかるんです。結局、一緒にやってくれるスタッフが男性だと、話が通じないことが多いから。

 そのときに私が出したのは、「女の子が4つの大切なものを持って一人旅に行く」という企画でした。私はナレーターを男性にしたかったんです。男性が女の子の一人旅を見て「へー、こんなことするんだ」みたいに見守るトーンを想定していて。それを男性スタッフたちにすごい否定されたんですよ。「お姉さんが若い子の下手くそな旅を叱るトーンにしたい」って言われて「えぇ!?」って。「いや、そういうイメージじゃないんです」って説明しても、ダメでしたね。

 いつもそういうことが何かしら発生するんです。たとえば、「女子向けの心理テストの番組をやってくれ」って言われて企画書を書くところから関わった番組でもぶつかりました。「心理テストを受けるゲストの年齢や離婚歴を、テロップで全部出せ」って言われたんです。「そういう情報がなかったら、どういう人かわかんねぇだろ」っておじさんプロデューサーが言うわけですよ。「は? ダメですよ、そんなの」って言い返したらめっちゃ怒鳴られて。

――普通に「ゲストに失礼だろ」という感じですが……。

 失礼ですよ。一緒にやっていた女性ディレクターもそう言ってました。結局、おじさんプロデューサーは怒って帰っちゃったんですけど、翌日になったら「帰って嫁に話したら『そんなのダメだよ』って言われちゃってさ〜。だから、テロップなしでいいよ」って言われて。もう、ずっとそういう戦いなんですよね。

「それなら私が主導権を握ったほうがいい」

――さまざまなテーマに沿って、当事者や取材者の女性たちが集まって本音を語る『Wの悲喜劇〜日本一過激なオンナのニュース〜』(Abema/2017年〜2021年)ではプロデューサーを務められています。これは津田さんが企画から立ち上げられたんですか?

『Wの悲喜劇』は、普段から業界の愚痴を聞いてくれていた元テレ朝の男性プロデューサーが声をかけてくれて、女性の放送作家さんや女性向けサイトの編集長と共同で立ち上げた番組でした。

 あれは基本的に女性スタッフで作っていたので、話が早かったです。それでも、始めたときは周囲の男性から「女の問題って、そんなにテーマないだろ」「ネタ切れになって続かないよ」とか言われました。でも第100回まで放送してますからね。

――性教育や地方移住、整形、資産形成、婚活、発達障害などなど、扱うテーマがすごく幅広いですよね。ネタ出しはどうされていたんですか?

 スタッフで話し合っていると、自然と出てきましたよ。女の人って問題意識が高いから。普段の会話でも、女性のADから「私、抜け毛がひどいんです。毛の話をやってほしいです」って言われたり、男性の技術さんが「不妊治療で妻が悩んでいて、僕はどうしたらいいかわからなくて」と話してくれたり、そういうところからもどんどん企画にしてました。

 テーマはいっぱいあるんです。男性が知らないだけで。彼らは、自分たちが知らないことがあるとは思ってないんですよね。

――「女性向けの番組を作りたい」と思うようになったのはいつ頃からなんでしょうか。

 いや、「女性向けの番組を作りたい」って思ったことなんかないですよ。普通に「番組を作りたい」と思っていただけで。だけど、もしかしたら女性じゃないと作れない番組があるんじゃないかなとは思ってました。

「女性向けの番組を作って」って言われて始めても、いつもおじさんに「これは違うんじゃない?」とか茶々を入れられて変なふうにされるわけですよ。「女向けの番組を女に作れと言ったくせに、なんでおじさんが文句言ってくるの?」って話じゃないですか。


――出版業界でも似たようなことはあります。

 あるでしょう。それなら私が主導権を握って作ったほうがいいのではないかと思った、というのが正直なところですね。私みたいな人間が入らないと、女性の意見がちょっと捻じ曲がった形で伝わってしまうのではないか、って。そういう気持ちはすごくあります。

――これから作ってみたいのはどんな番組ですか?

『Wの悲喜劇』をやっていたとき、視聴者の7割が男性だったんですよ。男性を批判するような番組は男性のほうが観るんです。Abemaの番組にはコメント欄があって、リアルタイムで視聴者の感想を見られるから放送中にチェックしてると、ケチをつけたくて観ているような人が多くって。

――意外です。女性の視聴者が共感しながら観ているのかと思っていました。

 もちろんそういう人もいますよ。だけど、そこで共感できるくらい意識が高ければ、番組を観るまでもなくそのテーマについて知っていたり興味があったりしますよね。本当にメッセージを届けたいのは、観てくれていない人のほうだと思いました。

 たとえばジェンダーの問題についてだったら、わざわざケチをつけに来る人は差別的な自分に自覚があるんですよ。だからある意味ではまだマシ。それより、そこに対する意識も関心もない男性のほうが、何が問題なのかわかっていないわけですよね。だからマイクロアグレッション(編注:無自覚の差別行為)的なことをしてしまう。

 そういう人たちに「なんか俺、ちょっと間違ってたかも」って思ってほしいんです。女性に関しても同じで、問題に気づいていない人にこそ観てほしかった。

――自分がされていることが差別やハラスメントであると自覚していない人、ということですね

 そうです、そうです。『Wの悲喜劇』をやっていて、そこはいちばん思いましたね。一生懸命、ストレートに「こういうことがあります」って言っても伝わらない。そこは番組の作り方を変えないといけないんだな、と。そういう人たちにも刺さるコンテンツをどうしたら作れるかを考えたいと思ってます。そこはメディアの人間として、もう少しやらないといけないことですね。

津田 環

テレビマンユニオン所属。AbemaTVNewsチャンネル「Wの悲喜劇」プロデューサー。「オオカミくんには騙されない」初代プロデューサー、「世界ウルルン滞在記」など海外取材の制作も多数。

文=斎藤 岬
写真=杉山拓也

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