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「大阪球場に無数の懐中電灯が…」 ヒデキなくして今日の推し活はない? ヒデキの伝説をまとめようじゃないか

  • 2024年9月16日
  • CREA WEB

ヒデキは令和もモテモテだ!

「人は忘れる生き物である」――。ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウスの言葉だ。エビングハウスの実験によると、人は記憶して1時間後には、その半分を忘れてしまうそうだ。なんと儚い……!

 しかし、そんななかでも、人々の記憶にガッチリ残り続けるスターがいる。

 そう。西城秀樹――。言わずもがな、情熱の具現化、炎の神、昭和を代表するロックスターである。


メガネ&ヒゲのヒデキの色気が恐ろしいレベル。きっと最初はカラーでの撮影予定だったのが、カメラマンさんがあまりのセクシーさに耐えられず、急遽白黒にしたのだろう……と勝手に思っている。©文藝春秋写真部

 今年で七回忌。だが彼は世の中に忘れられるどころか、ファンたちの心の中で存在感は増すばかりだ。しかもその情熱は飛び火し、リアルタイムを知らない若者のファンまで増やしている。8月31日に放送された 『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』の昭和歌謡SPでは、「令和の今見てもカッコいい!昭和の歌手ベスト20」ランキングで5位に輝いていた。ヒデキ、令和でもモテモテだ!

 SNSでも「#西城秀樹」は頻繁にトレンド入りしているが、この夏は特に、記録的猛暑にも負けないほど熱く沸いた。ということで、夏のヒデキトレンドネタを掘り返したい。こういうのは何回振り返ってもいいですからね(ミルクボーイ風に)!

長すぎるプロローグ「勝手にヒデキおすすめジャケ写」

 まず、7月2日、劇場版アニメ「ベルサイユのばら」が2025年新春に公開決定という、ヒデキファンとしても腰が浮く嬉しいニュースが入ってきた。

 ちょっと待て、なぜヒデキとベルばらが関係あるのか――。その疑問、千の言葉より一枚のジャケ写が証明するのでここに提出したい。


1978年8月25日リリース「ブルースカイ ブルー」(レーベル:RCA)。前髪のなびき方、憂いのある視線、すべてが奇跡。何時間でも見ていられることから「時間泥棒ジャケ写」とも言われている。

 クッ、何度見ても恐ろしいほどにリアルアンドレ……! この「ブルースカイ ブルー」のジャケ写を見るたび、アンドレとヒデキが脳内で一体化し、いつの間にやら、ベルばらまで自動的に応援する体になってしまったわけだ。

 このように、西城秀樹のジャケ写は見る者のテンションをおかしくさせるほど麗しい。

 ということで、ちょっと止まらなくなってきたので、本編(ヒデキ夏トレンド振り返り)に進む前に、「勝手にヒデキおすすめジャケ写」を発表することをお許しいただきたい。大丈夫、秋の夜は長い。ヒデキを愛でる時間は山ほどある!

8cmシングル長方形の美「ブーメランストレート」


1977年3月15日リリース「ブーメランストレート」(レーベル:RCA)。向かって右端に書かれている「TBS系TV『生生生生ダウンタウン』主題歌」という言葉すら恋人を想う呪文に見えるヒデキマジック。

 タイトルは阿久悠さん作詞の大ヒット曲「ブーメランストリート」をもじった、野口五郎さん発案のダジャレ。これをあえてシンプルな明朝体で表現することで、ダジャレをオシャレに変換するのに成功。ヒデキの憂いある表情が、「ブーメランストリート」(1977年)から15年経ってもまだ愛しい人を待ち続ける男の忍耐強さを表現している。撮影場所はまさかの上野動物園の裏門! 彼が立っているだけでどこの宮殿の門かと思う、グーグルマジックならぬヒデキマジック! ちなみにこの曲がリリースされた1992年、パンダのリンリンが中国から上野動物園に来園している。

ギャップ萌え「一万光年の愛」


1985年2月5日リリース「一万光年の愛」(レーベル:RCA)。タイトルの下に小さく小さく書かれている「[科学万博 つくば博‘85]のテーマ曲です」の「です」に萌える。

 楽曲は恋愛を宇宙に喩えた、壮大かつテンションの高いラブソングだが、コスモっぽいデザインをジャケットに微塵も取り入れない潔さが見事だ。

「ワイシャツ着るの忘れちゃったよ〜」とでも言いたげなお茶目ヒデキの表情は、「もー、サングラスはかけてるのに、このドジっ子さん♪」と奥さんヅラしたくなる。

小物使いが天才的「ブーツをぬいで朝食を」「至上の愛」


左:1978年1月1日リリース「ブーツをぬいで朝食を」(レーベル:RCA)アクティブヒデキ。右:1975年8月25日リリース「至上の愛」(レーベル:RCA)アンニュイヒデキ。

「ブーツをぬいで朝食を」は、マフラーに照準を合わせる、というヒネリが利いている。ちょっと戦隊ヒーローっぽいヒデキが尊い。しかも、写ってはいないが、ちゃんと足元はブーツを履いているというエピソードが、想像力をかきたてる。

「至上の愛」は煙草の煙と白のタートルネックが素晴らしいアクセントとなり、もはや芸術。1975年という学生運動直後の退廃的な時代のにおいをも、ほのかに漂わせている。

心霊写真ならぬ心魂写真! LP「ビッグゲーム’79ヒデキ」「ビッグゲーム’80ヒデキ」


左:1979年10月9日リリース「BIG GAME'79 HIDEKI」(レーベル:RCA)。右:1980年9月5日リリース「BIG GAME'80 HIDEKI」(レーベル:RCA)。パッション&飛翔!! 撮影したカメラマンさんのガッツポーズが見えるほどすごい写真である。

 豪雨と雷のなか歌い続けた伝説のライブを収めたLPは、ジャケットも神がかっている。特に’80の表面のジャケ写は、ヒデキの顔が映っていないのに彼の全魅力が爆発! 彼を包むオレンジの光はライトの色ではなく、オーラだという説が、あくまで私の中でではあるが、有力視されている。彼の魂とパッションがそのまま写り込んだ、心霊写真ならぬ心魂写真だ。

「ペンライトの起源は誰か問題」


提供:hiroyuki_nakai/イメージマート

 さあ、プロローグが長すぎたが、ここからが本編、今年の夏のヒデキトレンドの振り返りをしていこう。まずは、7月上旬、Xにて「ペンライトの発祥」について盛り上がり、西城秀樹がトレンド入り&祭り状態となった。このペンライト発祥エピソードがすさまじくエモいので、改めて記そう。

 1974年、大阪球場コンサートの夜公演を控え、ヒデキがラジオ番組でこう言ったのだ。

「夜公演だけど、客席のみんなの顔が見たいから懐中電灯を持ってきて……」

 うおぉぉ50年前の出来事だと分かっていても、ヒデキの声で脳内再生され、テンションがぶち上がる! 持っていきます持っていきますッ、なんなら蛍光灯も持っていきますとも(←電源がないのでただの円と棒だ)!


トーク中なのだろうか。歌唱中なのだろうか。どっちでもいいのだが、「どっちなんだろう」と考えるのが楽しいのだ。©文藝春秋写真部

 ペンライト文化がはじまる瞬間、懐中電灯が輝いた、ヒデキの大阪球場コンサートはどれだけ素晴らしかったことだろう。行かれた方が本当に羨ましい。歴史の証人だ。

 私も参加したかった(泣)。ヒデキに自分を見せたくて、必死で顔の下から懐中電灯で照らし、納涼大会みたいになっていただろう。いや、それでもヒデキは叫んでくれたはず。

「君の顔が見えるよ。ありがとう」と!

 それ以降、コンサートではセロハンを巻いたライトや豆電球が定番となり、ケミカルライト(今でいうサイリウム)は80年代から物販で売られるようになったという。私がサイリウムを初めて使ったのは2019年の西城秀樹のフィルムコンサート。折って使うと知らず、スイッチを探してオロオロしたが、80年代から一般普及していたとは……! 推しの力は科学を進化させる。

『ブロウアップ ヒデキ』の衝撃


横顔がもう芸術。©文藝春秋写真部

 もとを辿れば、ソロ歌手として大規模野外コンサートを日本で初めて行ったのもヒデキ。そこで、あのだだっぴろいスペースでファンを喜ばせるために、これまでになかった演出をあれこれと生み出したのだ。

 ペンライトの他にも、クレーンとゴンドラの使用もヒデキが初である。今では大規模なコンサートで多用されているが、昭和の時代、あれを演出で使おうと思った発想がすごい、というかもはや怖い。実際、当時の映像に残されているが、手探り感と手作り感がすごくてハラハラする!

 7月26日にBS松竹東急で放送され、これまたトレンドに入った映画『ブロウアップ ヒデキ』は、1975年に開催された「西城秀樹・全国縦断サマーフェスティバル」の様子に密着したドキュメンタリー。富士山麓に設置された野外ステージで、巨大クレーンに吊り下げた籠のようなものに乗って歌うシーンがあるが、怖い! 籠、ガスガス揺れてるし(泣)。


イエローのカーディガンがすてきだが、笑顔がなによりすてきなのである。©文藝春秋写真部

 このクレーン演出は野外ライブの定番となり、マネージャーの方もゴンドラに同乗し、酸素ボンベを彼に渡していたというから、嗚呼、内助の功……。高所恐怖症の友人が「ヒデキはその魅力と高所パフォーマンスで私を殺しにかかる」と言っていたが、至極名言である。

 しかも、ヒデキは実は高所は苦手だと、あるインタビューで語っていた。

 どの席のファンにも、自分の姿をできるだけ近くで見せるため――。その思いが、彼を苦手な高所へと飛ばせたのだ。

トム・クルーズとの共通点

 この度を超えたプロ意識とファン想いのサービス精神、誰かに似ている。……そう、トム・クルーズである。『ミッション:インポッシブル』シリーズでは自ら危険なスタントに挑戦し、『トップガン マーヴェリック』では本当に戦闘機に乗り、Gで顔をゆがめ熱演したトム! 視聴者をワクワクさせたいという思いが強すぎて心のネジが飛び、命の危険を忘れるというデンジャラス・マインドはヒデキと通ずる。

「余力を残す」という文字が辞書にない。「俺がやらねば誰がやる。絶対見たことを後悔させないぜ!」と全力で情熱の炎を燃やすのだ。


ありがとう、ありがとうヒデキ!©文藝春秋写真部

「なぜ、そこまでするのだろう」という疑問は野暮だろう。きっと彼らは、ただただ、命の限り、人を楽しませ、勇気づけたいだけだ。

 そこから出た輝きは、刺激的だが、やさしく強い。記憶から消せるわけがなく、令和でも再びブームを巻き起こしている。

 なんだか今回は、ジャケ写からトレンド振り返り、トム・クルーズとの共通点まで話がとっ散らかってしまったが、いいのだ。恋って変と似ている。好きだった人を思い出すとき、ヘンになるのは当たり前なのだ。

 ということで、まだまだ秋のヒデキ語りは止まらない。ヘンなテンションのまま、後編に続く。後編のテーマは、おすすめジャケ写コーナーのなかに……!


田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

文=田中 稲

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