CREAがはじめてひとり温泉を特集して7年。当時は「女性がひとりで温泉なんて!」と驚きを持って受け止められたこのテーマも、いつしか珍しくない光景となりました。
好評発売中の「CREA」2024年秋号では、コロナ禍を経て、進化する“温泉地”を舞台に、めぐる旅を大特集しています。
温泉では、まったり過ごすのもやっぱりいいもの。手紙を書いたり、湯めぐりに大忙しになったり。こもり方もさまざま、進化しています。
絶景、美食、旅の目的はいろいろあれど、頭を空っぽにして、ただひたすら湯に耽るためだけに訪れたい宿がある。
開湯600年以上という鉛温泉が湧き出ずるのは、木々に埋もれた渓谷の谷間にぽつんと建つ一軒宿。あたりには店どころか民家も見当たらず、散歩道もない。
退屈する? なんて心配はご無用、だってここには極上の湯がそろっているから。
4つある湯処はすべて源泉かけ流しで、名物の「白猿の湯」は足元から新鮮な湯がぽこぽこと湧き続ける全国でも希少な足元湧出温泉。
ただし「白猿の湯」は基本混浴なので、宿についたら“入浴時間の時間割”を眺めつつ作戦会議(脳内)を始めよう。
「白猿の湯」は日に3度、女性専用に切り替わる。であれば、夕方まで入れる「白糸の湯」で汗を流し、軽くお酒を飲んで昼寝して。
「白猿の湯」は夕ごはんの後に、終日女性専用がある渓流沿いの「桂の湯」は深夜に行こうか、朝風呂は……とけっこう忙しい。でもワクワクする。
日本一深い岩風呂という「白猿の湯」は水深1メートル以上の立ち湯。小柄な女性なら顎まで湯が迫り、深さゆえのやわらかな水圧と重力から解放される浮遊感、圧倒的な湯力が全身を押し包む。
ぬるめの露天で満天の星を眺める「桂の湯」に、熱めの湯とサウナで覚醒する「白糸の湯」、温度や水圧の違いで異なる肌あたりを楽しみつつ、心地よく疲れたらせせらぎを枕に眠り、起きてまたとっぷりと湯に沈む。
宿から一歩も出なくとも強く満ちる解放感に包まれて、身も心もうるおう旅へと昇華する。
鉛温泉 藤三旅館
所在地 岩手県花巻市鉛字中平75-1
電話番号 0198-25-2311
客室数 36
ひとり料金/1泊2食付き 17,900円〜 ひとり対応/繁忙期を除く通年可
アクセス JR新花巻駅よりバスで約55分、花巻駅よりバスで約40分、各駅より無料シャトルバスを運行(1日3便)
花巻市は旅行前・旅行中のふるさと納税を実現する「旅先納税®」を岩手県内の自治体で初導入。藤三旅館でも適用されます。
「めぐる旅」と「こもる旅」をテーマに47都道府県のひとりにいい温泉宿68軒、旅の目的地になるサウナと蒸し湯10軒など、最旬の温泉スポットを特集した「楽しいひとり温泉。」は、「CREA」2024年秋号でお読みいただけます。
文=嶺月香里
写真=嶋崎征弘