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パンダの健康管理方法はまるで人間? 体調が心配された上野動物園のリーリー &シンシンはすっかり元気に

  • 2024年6月22日
  • CREA WEB

好物のタケノコを食べる2歳のシャオシャオ。2024年5月8日(水)。(筆者撮影、以下同)

 東京で親子4頭のジャイアントパンダを飼育する上野動物園。このうち2頭は最近、高血圧が判明したり、吐き戻しをしたりしました。普段の健康管理以外で、どのように対応しているのでしょう。

 『CREA』2024年夏号 のBook in book「偏愛パンダ図鑑」で紹介しきれなかった内容を中心にお伝えします。



検査のためにお腹や足の毛を刈られたリーリー。2024年5月8日(水)

 お腹の白い毛を刈られ、ピンク色の肌が見える18歳のオスのリーリー(力力)。4月23日(火)に上野動物園を訪れると、このようなリーリーの姿が目に入りました。驚きの声をあげる観覧者もいます。でもリーリーはいつも通り竹をよく食べ、元気に歩いていました。

 毛を刈ったのは、吐き戻しをしたリーリーを詳しく検査するためです。上野動物園の記録によると、最初の吐き戻しは2018年の夏。その後は、たまにペッと吐いたり、続けて吐いたりと、一定ではありませんでした。

 昨年1年間で、吐き戻した回数と吐きたそうにした回数は計13回。吐きたそうにした回数も含めるのは、モニターでの観察から、明確に吐いたか判断しづらいケースがあるためです。

 今年は5月8日(水)時点で2回の吐き戻しが確認されました。1年間の3分の1が終わって2回のため、単純に掛けると1年間に6回で、昨年の13回から半減。でも安心はできず、「注意深く見守っているところです。ご覧の通りリーリーは元気なので、元気なうちに検査をしておくことにしました」。上野動物園の副園長兼教育普及課長を務める冨田恭正さんはこう語ります。


検査から約2週間後のリーリー。2024年5月8日(水)。

 検査をしたのは休園日の4月22日(月)。パンダ舎で麻酔をかけたリーリーを車にのせて、園内の動物医療センターに運び、腹部、胸部、右の前肢、左右の後肢の毛をバリカンで刈りました。そして、超音波(エコー)、CT(コンピューター断層撮影装置)、内視鏡で検査を実施。採取した血液による精密検査もしました。

 超音波検査では、人間と同じように検査用のゼリーを使います。今回はプローブ(超音波検査機器で体にあてる部分)の先にゼリーを塗りました。CT検査も人間と同様の方法で行いました。上野動物園でパンダのCT検査をしたのは今回が初めてです。なお、MRI(磁気共鳴診断装置)は園内にありません。

 4月22日(月)のリーリーの検査には、中国ジャイアントパンダ保護研究センターの獣医師、楊 海迪(ようかいてき)さんも立ち会いました。楊さんは、神戸市立王子動物園で心臓疾患がみつかり、3月31日(日)に息を引き取ったメスのタンタン(旦旦)のため中国から来日中でした(5月末に帰国)。

 検査を終え、車でパンダ舎に戻ったリーリーは問題なく麻酔から覚醒。いずれの検査においても、吐き戻しの原因となる明らかな異常は確認されませんでした。毛を刈られたところは、徐々に毛が生えてきています。


リーリーが暮らす屋外公開エリア。2024年5月8日(水)。

シンシンの「パンダ団子」の量を減らす

 リーリーと同い年で18歳のメスのシンシン(真真)は、昨年9月に血圧が高めだと判明しました(参照:上野動物園のパンダ「シンシン」体調不良で公開お休み中…近況を動物園に確認。再開の予定はいつ?)。ただし、パンダの血圧測定では、人間のようにきちんとした数値を測れるわけではありません。

「かなりブレが生じるので、あくまで全体的な傾向を把握するという形です。しかも、パンダの血圧に関する研究は多くありません。台湾の台北市立動物園が研究成果として、上は140〜160程度が正常範囲ではないかと発表しており、それを参考の一つとしています」(冨田さん)。

 こうした前提に基づきますが、シンシンの血圧は200を超えたこともあります。そのため上野動物園は、昨年9月からシンシンの高血圧の改善に向けたさまざまな取り組みを続けています。

 例えば、薬は中国の専門家と相談しながら量を調整して投与。血圧は定期的に測定しています。

 副食の「パンダ団子」を与える量は、通常なら1日約600グラムですが、シンシンは約400グラムに減らしています。また、パンダ団子には卵を混ぜますが、シンシンの分だけ卵の黄身を抜いて作っています。黄身がパンダの高血圧に影響するかは明らかになっていませんが、念のため抜くことにしました。ちなみに上野動物園ではかつて、砂糖と塩も入れていましたが、現在はシンシンに限らず、どのパンダのパンダ団子にも入れていません。

 高血圧の明確な原因は、今のところ判明していません。ただ、「運動は大事だと中国の専門家から助言されているので、なるべく運動させたいなと思います」(冨田さん)。シンシンが過ごす屋外は、公開エリアと非公開エリアを自由に行き来できるようにしています。シンシンが非公開エリアにいる間は観覧できませんが、シンシンのためなのです。気温の上昇などにより、シンシンが室内にいる間も非公開となります。

 こうした取り組みの甲斐もあってか、シンシンの血圧はじわじわと下がり、安定してきています。常に140〜160の間というわけではなく、全体の傾向としてはやや高めながらも、最近は200を超える値は出ていません。

 リーリーに対しては、シンシンより少し後の昨年10月から血圧測定を始め、昨年11月28日から薬を投与しています。リーリーの血圧は140〜160より高いものの、シンシンほど高くはなく、200を超えることはめったにありません。そのため、降圧剤(こうあつざい)は低用量から使用しています。

レイレイの目の周りが白い理由は……?

 上野動物園には、リーリーとシンシンの子どもで2歳の双子も暮らしています。メスのレイレイ(蕾蕾)とオスのシャオシャオ(暁暁)です。

 レイレイは、目周りの黒い部分の毛の一部が少し白くなっています。「原因は分かっていませんが、中国の専門家と相談して、寄生虫の可能性があると考え、駆虫薬を皮ふに塗っています。今のところ悪化はしておらず、毛が抜けたということもありません。注意深く観察を続けています」(冨田さん)。筆者が見たところ、最近は以前と比べ白さがあまり目立ちません。

 双子の姉で、昨年2月に中国へ渡ったシャンシャン(香香)も上野動物園にいた頃、目の周りが白くなっていました。レイレイも上野動物園でのシャンシャンも、寄生虫は確認されておらず、あくまで「疑いがある」という状況です。なお、シャンシャンが中国で暮らして8カ月近く経った昨年10月に筆者が見たら、目の周りはまだ白かったです。


目周りの黒い部分の毛の一部が少し白いレイレイ。2024年5月8日(水)。

中国へ渡って約8カ月経った頃のシャンシャン。目の周りはまだ少し白い。2023年10月11日。

のけぞるシャオシャオ。2024年5月8日(水)。

 行動の面では、時おり、シャオシャオがのけぞったり、レイレイが後ろ向きに歩いたりしています。「なぜシャオシャオがその行動で、レイレイがその行動かは分かりませんが、常同行動の一つだと思いますので、やぐらを組んでエンリッチメント(飼育動物の生活環境を豊かにする取り組み)としたり、昼間に竹を食べる時間が長くなるよう竹の配置を工夫したりしています」(富田さん)。

 5月にはハンモックも設置。屋外に出られる日は、シャオシャオもレイレイも、やぐらに登ってお昼寝したり、ハンモックに乗ったりしています。


やぐらの下から出てきて、岩の上を歩くシャオシャオ。パンダのエリアは、ふるさとの中国・四川省の山岳地帯をモデルに造られている。2024年5月8日(水)。

●上野動物園

https://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/


中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(12カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo


パンダワールド We love PANDA

定価 1,650円(税込)
大和書房

文・写真=中川美帆

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