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タンタンのおかげで「長生きできる パンダが増えるのでは」王子動物園で 「ありがとうタンタン」展を開催中

  • 2024年6月18日
  • CREA WEB

追悼式の会場。遺影は飼育員が選んだ。(筆者撮影、以下同)

 『CREA』2024年夏号 のBook in book「偏愛パンダ図鑑」で紹介しきれなかった内容をお伝えします。

 日本で初めてとなるジャイアントパンダの追悼式が5月10日(金)に行われました。中国・四川省で生まれ、神戸市立王子動物園で3月31日(日)に息を引き取ったメスのタンタン(旦旦)の追悼式です(参照:【追悼】「帰ってこいよーー」何度も奇跡を起こし病と闘ったパンダ「タンタン」の28年の生涯)。

 タンタンの前に日本で生涯を終えたパンダは、生後1週間以内に死んだ赤ちゃんと死産を除けば9頭。上野動物園にいたランラン(蘭蘭)、カンカン(康康)、フェイフェイ(飛飛)、ホァンホァン(歓歓)、トントン(童童)、リンリン(陵陵)と、アドベンチャーワールドにいた蓉浜(ようひん)、梅梅(めいめい)、王子動物園にいたコウコウ(興興)です。上野動物園とアドベンチャーワールドに追悼式をしたか尋ねたところ、献花台は設けたものの、追悼式は行っていないそうです。王子動物園もコウコウの追悼式はしていません。


神戸市立王子動物園。正面のタンタンの写真は、小さなたくさんのタンタンの写真で作られている。右に見える観覧車にはパンダも。2024年5月10日(金)。

 タンタンの追悼式は、王子動物園内にある動物科学資料館のホールで行われました。一般の参列者は100人の募集に対し、約4,000件の応募(1件で複数人の応募もあり)が殺到したため抽選に。当選者の中には「動物サポーター」(大人の個人サポーターは年7,000円以上を寄附)の枠を設けました。王子動物園によると、100人のうち何人をサポーター枠としたかは非開示とのことです。

 このほかの参列者は、主催者が6人(王子動物園の園長と飼育員2人、神戸市の市長と建設局長、灘区役所の区長)、王子動物園の関係者が約10人、来賓が約40人(神戸市会副議長や「日中友好神戸市会議員連盟」会長・副会長ら)です。

死について「常に覚悟はしていました」

 タンタンは、阪神淡路大震災が発生した1995年に中国で生まれ、震災で傷ついた神戸市民らを元気づけるということで2000年に来日。王子動物園の加古裕二郎園長は追悼式で「神戸の復興のシンボルにふさわしく、多くの市民を励まし、最後まで神戸で復興を見届けてくれたことに最大限の敬意を表したいと思います。祖国を離れ、縁あって日本と中国の友好の架け橋として神戸で過ごし、人々に愛され続けて、ここ神戸で一生を終えたタンタンの功績を神戸市民や多くのファンは決して忘れることはないでしょう」と述べました。

 タンタンを15年間担当した飼育員の吉田憲一さんは、「治療をがんばってくれたおかげで、パンダの病気について分かったことがたくさんあったと思います。今後、ソウソウ(爽爽)に教えてもらったことから、長生きできるパンダが増えるのではないかと思っています。大きな功績を残してくれて本当にありがとう」と涙声で語りました。

 ソウソウは、中国でタンタンに付けられた中国名。タンタンは日本で付けられた愛称です。王子動物園の飼育員は普段、ソウソウと呼んでいました。

 16年間タンタンを担当した飼育員の梅元良次さんは「心臓疾患が見つかってから毎日がんばって治療に取り組むあなたを一番近くで見てきました。本当は一番つらく大変だったのは、あなたのはずです」と語り、「最期の瞬間まで本当によくがんばってくれました」とタンタンをいたわりました。


飼育員の吉田さん(左)と梅元さん(右)。

 タンタンは2021年3月に心臓疾患が判明しました。3月31日(日)の夜は、タンタンが呼吸をしていないことに気づいた宿直の飼育員がすぐに宿直の獣医師を呼び、午後10時23分から心肺蘇生処置を開始。退勤していた吉田さんと梅元さんも駆け付け午後11時前に到着して、処置に加わりました。しかしタンタンは午後11時56分に心肺停止となり、死亡が確認されました。

 タンタンの死を覚悟した時期について、梅元さんは「心臓疾患が発見された頃から、自分で病気のことを調べたり、獣医師に聞いたりして、どのような病気かなんとなく理解していたので、常に覚悟はしていました」。

 NHKが4月29日(月)に放送した『ごろごろパンダ日記』で、梅元さんが涙を流しながら「初めて泣いたな」と話すシーンがあります。なぜこのときだったのか筆者が梅元さんに尋ねたところ、「撮影がいつだったか覚えていませんが、改めて話しながら、いろいろと思い出してしまったからだと思います。亡くなってからは、ずっと気が張っている感じだったためか、一人でタンタンのことをゆっくり考えることがありませんでした」とのことです。

中国のパンダの獣医師も参列

 追悼式では、長年にわたり、タンタンのために竹を供給した神戸市淡河町自治協議会「笹部会」の岩野憲夫さん、西浦常次さん、辻井正さんも登壇。「タンタンがおいしそうにエサを食べているのを見て、私も元気づけられたことを昨日のように覚えております」と振り返りました。


神戸市淡河町自治協議会「笹部会」の左から、西浦さん、辻井さん、岩野さん。

 タンタンのために「中国ジャイアントパンダ保護研究センター」から来日して、2月26日(月)から5月末まで滞在した獣医師の楊 海迪(よう かいてき)さんも参列。楊さんは3月31日(日)夜、王子動物園の獣医師と共にタンタンの死亡を確認しました。東京の上野動物園で吐き戻しをしたオスのリーリー(力力)の健康管理のために、同園で4月22日(月)に行われた検査にも楊さんは立ち会っています。

 楊さんは追悼式で「ずっと日本のチームとともにタンタンの治療に努めてまいりました。私たちは何度も何度も奇跡を目撃してきました。日本チームのメンバー全員の献身的な治療と努力にも感謝したいと思います」と話しました。梅元さんは楊さんのことを「とても勤勉で真面目な方。タンタンの日々の健康管理や治療について、たくさんの役立つアドバイスをいただけました」と評しています。


中国ジャイアントパンダ保護研究センターの獣医師の楊 海迪さん。

追悼式でタンタンに向けて歌う青谷愛児園の園児。客席の左右と後方で立っているのは報道関係者ら。

 追悼式の後は、神戸市の久元喜造市長らが記者会見に対応。神戸市が引き続きパンダの飼育繁殖研究を希望していることに対し、見解を求められた中国駐大阪総領事館の薛 剣(せつ けん)総領事は「こういうお気持ちがあることは、しっかり承っております。これから相互の間で検討することになると思います」と日本語で答えました。


記者会見する神戸市の久元喜造市長(左)と中国駐大阪総領事館の薛剣総領事(右)。

 王子動物園の加古園長と吉田さんと梅元さんも登場。最初は3人とも沈痛な面持ちでしたが、タンタンとの楽しかった思い出などを問われて答えるうち、笑みがこぼれるようになりました。


(左から)記者会見する加古園長、梅元さん、吉田さん。

 タンタンは死後ほどなくして解剖され、6月12日(水)時点で園内に保管されています。今後、中国へ送られる予定です。

 園内のパンダ館でタンタンが過ごしていた場所は、たくさんの花で彩られました。献花の受け付けが4月2日(火)に始まると、全国から多くの人が訪れ、花を手向けたり手を合わせたりして、タンタンを偲びました。泣いている人もいます。タンタンが生前、寝転んでいた寝台を目の当たりにして、筆者も涙が出ました。

 献花は当初、郵送でも受け付けていました。ただ、1日に数百の花が届き、供えるまで時間がかかって場所も少なくなったことから、やむなく郵送での受け付けを終えると王子動物園は4月6日(土)に発表。献花の数は、追悼式前日の5月9日(木)までの期間で約5,000束です。パンダ館での献花は5月28日(火)まで受け付けました。

 園内の動物科学資料館では、特別展「ありがとうタンタン」を5月11日(土)〜9月1日(日)の予定で開催中。「日中共同飼育繫殖研究」の成果のほか、タンタンが生前、ブラッシングしてもらっていたブラシや、薬入りのジュースを飲む際に使っていたフライパンなどを展示しています。


献花台には、飼育員が柵越しに薬入りのジュースをあげる際に使ったフライパンや、タンタンをブラッシングする時に使った黄色のブラシも供えられた。2024年5月10日(金)。

タンタンの寝台と、タンタンがのぼりやすいように設置された階段も花でいっぱいに。パンダ館の屋上でひまわりの花が咲いたので、ひまわりを供えた人も多い。2024年5月10日(金)。

タンタンが使っていたパンダ館の屋外エリア。左は2021年3月30日(火)、右は2024年5月10日(金)。

●神戸市立王子動物園

https://www.kobe-ojizoo.jp/

●タンタンの特設ページはこちら

https://arigato-tantan.jp/


中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(12カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo


パンダワールド We love PANDA

定価 1,650円(税込)
大和書房

文・写真=中川美帆

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