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東村アキコ初個展は「NEO美人画」 コロナ禍に生まれた現代アート

  • 2022年11月24日
  • CREA WEB

 コロナ禍の長い家時間にも慣れた頃、東村アキコさんはふと、誰に頼まれたものでもない「本当に自分が描きたい絵」を、時間を気にせず夢中になって描いた。茶道の姉弟子の和柄マスクと着物姿が素敵だったのを思い出し、茶室に迷い込んだ蝶との「ソーシャルディスタンス」をモチーフに、心ゆくまで描き込んだ。

 この一枚を皮切りに、東村さんは1年近くかけて多様な《現代を生きる女性の着物姿》を描き溜め、2022年11月に20点の作品群『NEO美人画2022』を発表。個展会場でインタビューした。


現代女性を描いた「NEO美人画」


個展は東京・青山のスパイラルで、2022年11月27日(日)まで開催。一枚目に描いた作品がアイコンに。

「大学を卒業してすぐにマンガの仕事を始めて、休みなく働いていたら、あっという間に23年経っていました。締め切りがなかった時期はなく、コロナ禍もそうでしたが、食事会や講演会、取材旅行、出張、イベントなどがなくなったので、夜の予定が全部なくなって。そんな状況はマンガ家になって初めてで、息子が寝た後にリビングで紅茶を飲みながら、iPadで仕事に関係のない好きな絵を描き始めたんです。一枚描いてみたらもっと描きたくなって、それから暇さえあれば作品を描くようになりました」

応接間に飾られた美人画が好きだった


東村アキコさん。

 自伝的漫画『かくかくしかじか』で描かれているように、東村さんは金沢美術工芸大学の油画専攻を卒業している。長らくファインアートから離れていたが、「いつかまた」と情熱をあたためていた。

「高校生の時はとにかく油画科に行かなきゃと思っていましたが、よく考えると子供の頃から日本画が好きなんです。親戚の家の応接間や旅館のロビーに飾ってある美人画を見るのが好きでした。学生時代も美人画の画集を読み漁り、展覧会に行き、女性をモデルに美人画のような油画も制作していました。でも、日本画科の入試はお花など静物を描かないといけないんです。私は人が描きたかった。今回『NEO美人画』を描いたことで、自分は日本画のタッチで人物を描きたかったんだなと思いました。

 好きな画家を挙げるとしたら、大正・昭和に活躍した伊東深水と志村立美。うっとりするほど艶っぽく清らかで、細い線で描かれた結い髪や着物の縞が筆でスパッと一発で決まっているところに惚れ惚れします。戦後の日本画を牽引した加山又造のモダンでアーティスティックな美人画もとても素敵です。美人画はいつの時代もデフォルメされていて、イラスト的な部分があるんです。すごく写実的な表現と、マンガ表現の間にある。私の美人画としての表現は、いろいろ試して模索して、ここだな、と思うところを見つけました」

一枚に短編マンガ1本分のストーリー


スマホやクリームソーダなどが登場する『NEO美人画2022』。

 日本美を感じる着物姿の女性たちは、スマホを持っていたり髪色がピンクだったり、とても現代的だ。

「5年前から茶道を習い始めて、着物の勉強をするようになって。日本の四季の移ろいや着物の合わせ方、柄の持つ意味など、知れば知るほど面白いんです。着るのも、描くのも楽しい。どうにかこの素晴らしさを今の若い人たちにも伝えたい、そして街に着物を着る女性が増えたらいいな……と思い、今の女性が日常の中で着物を着ている姿をテーマにしました。一枚ごとに、こういう状況でこういう気持ちでと、それぞれ短編漫画1本分くらいのストーリーを込めています」


東村アキコ『NEO美人画2022』より。

 これはどんなシーンで、彼女たちは何を思っているのか……。絵に添えられた、東村さんが自ら綴った文章を読むとヒントが見えてくる。かがんでびっくり箱を開ける女の子の絵(作品No.7「びっくり箱」)には、こんな詩が。

お姉ちゃん、いいものあげるって小さな箱をもらったの
お菓子が入ってるのかなって、
開けてみたら可愛いハートが飛び出してきた

うちの可愛い姪っ子は折り紙が得意な女の子
紙細工のびっくり箱なんてあるんだね

「お正月に親戚が集まって、おせちやお雑煮を食べたり、初詣に行ったりするとき、ちょっとよそ行き感のある飛び柄の小紋を着るといいなと思ったんです。丸い部分が絞りになっていて、帯はピンクの絞りの名古屋帯。それが小さな親戚の子がくれたびっくり箱のピンクドットとリンクしています。珊瑚が並んだ髪飾り、ネイルの色も合っています。

 袖からのぞいている長襦袢はおたふく柄で、私が実際に持っているものなんですが、お正月に福が来るよう、縁起を担いでいるんです。そういう合わせをするのが楽しいし、可愛い。そういうことが、見た人に伝わるといいなと思っています」

アートを、着物を、気軽に楽しんでほしい


東村アキコ『NEO美人画2022』より。

 黄八丈(きはちじょう)に草木染めの茶の帯の女性が、トンボを見つめている作品(No.14「万年青」)は、眺めているだけで清々しい気持ちになる。

「彼女が手に持っているのは『万年青』と書いて『おもと』と読む、江戸時代に大流行した観葉植物です。染め付けの植木鉢に入れて飾るのも、江戸の粋なインテリア。今も愛好家がいます。誰かからのもらいものか、日光浴させていたものを部屋に取り込もうとしたら、トンボが入ってきた。茶道の先生が、襟足がパシッと切り揃えられたショートカットを『レモンの切り口見たいね』とよく言うんですが、そういうスカッとした女性、万年青みたいにこざっぱりと瑞々しい女の子です。

 アートには難解な表現とか、これはどういうテーマなんだろう? と考えさせたりするものも多いけれど、私は美人画が見ていて一番楽しい。国内外問わず、女性美がきれいな色で描かれている絵を見ている時間が幸せ。社会に問題提起をしたり、一石投じたりという力は美人画にはないかもしないけど、この子私にちょっと似てるな、あの子に似てるな、こういう髪型いいな、こんな風に着物を着てみたいな、と、ファッショングラビアのように楽しい気持ちで見てもらえたらいいなと思います。浮世絵は江戸時代のグラビアですから」

伝統的な「美人画」を最新技術のNFTで


東村アキコさん初の個展開催とNFT発表は同タイミングだった。

 制作には、フルカラーコミック『私のことを憶えていますか』など普段のマンガ制作で使用しているiPadとApple Pencil、そしてメディバンペイントという無料ソフトが使われた。発表の場は、NFTプラットフォームのAdam byGMOだ。

「日本固有の美しさをデジタルツールで描いて、披露する場もデジタル世界だったら、伝統と現代の融合みたいなものが表せたり、見てくれる人とも新しい繋がり方ができたりするんじゃないかと思ったんです。でも正直、NFTってなんだっけと思っている人も多いですし、実際に見ていただける場として個展をやりたかった。ネット世界とリアル世界どちらにも届けたいなと。やっぱり、たくさんの人に見てもらいたいんです」


左:作品は撮影もSNSもOK。右:図録には特典のスペシャルイラストが。

村上隆さんのメッセージ

 個展の図録には、先駆けてNFTプロジェクトを発表中の現代アーティスト・村上隆さんからのメッセージも。「NFTアートの世界に堂々と船出したことは、大いなるチャンスをすでに捕まえていると思います」と讃えている。

「村上隆さんに、NFTのことでわからないことが出てきて相談しようと電話をしたら、ややこしいことは何もないよと。作品に『これがオリジナルです』という証がつく技術ができて、作る側は絵をこれまで通り描けばいい。身構える必要はないんだなと思いました。だからクリエイターはどんどんイラストを描いたり、漫画家さんはラフスケッチを出したりしてもいいですよね。みんな見たいと思うし、アーカイブができるし」

来年以降も制作予定。5年で100作品!?


東村アキコさん。

「今年から5年続けて、1年に20作ずつ『現代の美人画』を制作していこうと思っているんです。今年のテーマは着物でしたが、来年以降も描きたいものをしっかり掘り下げてテーマを考えようと。美人画であることは変わらず、私は幼稚園でお姫様の絵をチラシの裏や自由帳に描いていた頃からずっと、女の子を描きたいんです。自分の中の絵師としての魂が、世のいろんな世代のいろんなタイプの美女を描きたいと思っている。少女漫画家であることもそうですが、女性を描くことがライフワークなんです」

東村アキコ NFT「NEO美人画 2022」展


期間 開催中〜2022年11月27日(日)
場所 スパイラルガーデン(東京都港区南⻘⼭5-6-23 スパイラル1F)
時間 11:00〜20:00
⼊場料 無料
※会場では図録、ポストカードを販売
※最終日11月27日は図録購入者へのサイン会実施(整理券は当日11:00より配布)

文=CREA編集部
撮影=鈴木七絵

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