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横山剣が語るユーミンのご当地ソング 平凡な風景に天才がかける魔法とは?

  • 2018年11月8日
  • CREA WEB

 東洋一のサウンド・マシーン、クレイジーケンバンドを率いる横山剣さん。その常人の域を超えた旺盛なクリエイティヴィティにインスピレーションを与える源泉のひとつが、魅力的な女性たちの存在です。これまでの人生で恋し憧れてきた、古今東西の素敵な女性について熱く語ります!


#005 松任谷由実 (中篇)


2013年12月に国立競技場で行われたラグビー早明戦の試合後、ユーミンはラグビーを題材とした自らの楽曲「ノーサイド」を熱唱した。(C)文藝春秋

松任谷由実(まつとうや ゆみ)

1954年、東京・八王子生まれ。72年にシングル「返事はいらない」で荒井由実としてデビュー。76年には松任谷正隆と結婚し、松任谷由実に改名。「ひこうき雲」「あの日にかえりたい」「恋人はサンタクロース」「守ってあげたい」「真夏の夜の夢」など、無数の名曲を世に放つ。これまで発表したオリジナルアルバムは全38作品。2018年、第66回菊池寛賞を受賞。

 ユーミンの楽曲から鮮烈に伝わってくるのは、出身地である八王子ならではの感覚です。

 中央線沿線ではあるけれど、いわゆるフォークのイメージが漂う阿佐ヶ谷や吉祥寺とは違う。多摩川がだんだん清く澄んだ上流になっていって、多摩丘陵が風景に溶け込む、都下の雰囲気が色濃いんですよね。

 僕が生まれ育った横浜と八王子は、JR横浜線でつながっている。そこに奇縁を感じましたね。

 八王子には、大正・昭和の天皇陵など、パワースポットも少なくない。ユーミン自身にも、シャーマン的なオーラを感じます。中沢新一さんと細野晴臣さんの対談集『観光−日本霊地巡礼』では、ユーミンはアメノウズメノミコトになぞらえられているぐらい。

 多摩地区を歌った曲には特に名曲が多い。「雨のステイション」というせつない楽曲は、西立川駅がモチーフ。「LAUNDRY-GATEの想い出」は、かつて立川に存在した米軍基地のゲートについて歌っています。

 そして、言わずと知れた「中央フリーウェイ」。中央自動車道に乗ってあの歌の舞台となった場所を通るたび、右に見える府中競馬場と左にあるサントリーのビール工場を確認してしまう。その瞬間、全身に電気が走りますね。ごく平凡な風景に、ユーミンの魔法がかかる。

 同じような意味で、横浜は山手のレストラン「ドルフィン」を訪れ、ソーダ水の中を貨物船が通る様子を確認している人もたくさんいるでしょうね(笑)。こちらは「海を見ていた午後」で歌われています。

自分を惹きつける土地には
ユーミン印が捺されている


『A GIRL IN SUMMER』(06)は34枚目のオリジナルアルバム。ボーナストラックには「愛・地球博」こと愛知万博のテーマソング「Smile again」が収録されている。

 2006年にリリースされた『A GIRL IN SUMMER』に収録された「哀しみのルート16」は、国道16号線をモチーフにしています。この道路は、横浜線とはまた別の形で横浜と八王子をつなぐ経路ですよね。

 この界隈には、ユーミンの地元である八王子以外にも、大瀧詠一さんが拠点を置いた福生など、僕の音楽的興味をくすぐる街がいっぱい。

 そもそも多摩地区のみならず、僕が関心を示すようなスポットには、ことごとくユーミンが関わっているんですよね。ツボが押さえられていて、経絡のごとし。

 横須賀、本牧、山手、湘南、飯倉……。すべてにユーミン印が捺されています。

 僕は高校をドロップアウトした後、神宮前に住んでいた時期があるんですけど、絶対にここじゃないという実感があって、世田谷の用賀に越したんです。その途端に、曲がいっぱいできるようになった。

 近くを流れる多摩川の水のパワーなのかなと勝手に思ったりもしたんですが、考えてみると、用賀はユーミン邸にも近いし、旦那さんである松任谷正隆さんが代表を務める「マイカミュージックラボラトリー」もここにある。

 恐らく、音楽にいい影響を与える何かが秘められた場所なんでしょうね。

アジアを歌った曲が醸し出す
レモングラスの香り


『水の中のASIAへ』(81)。4曲入りだがアルバムとしてカウントされている。ジャケット写真が撮影されたのは、シンガポールのラッフルズホテル。

 ユーミンのご当地ソングには、海外を歌ったものも多い。特に、『水の中のASIAへ』という4曲入りEPの収録曲はお気に入りです。

「スラバヤ通りの妹へ」は、インドネシアの首都ジャカルタに実在する通りが舞台。「HONG KONG NIGHT SIGHT」は、ユーミンのレパートリーの中で唯一、松任谷正隆さんが作曲を手がけている曲。『スージー・ウォンの世界』という映画のヒロイン、スージー・ウォンの名前が歌詞に登場するのも憎いですね。

 アジアの都市の光と影をこういう切り口で取り上げるのは、このレコードが発売された81年の時点では相当新しい試みだったんじゃないかなと思います。

 ホテルで喩えるなら、バンコクの「オリエンタル」(現マンダリン オリエンタル)やシンガポールの「ラッフルズ」みたいにコロニアルな感覚。レモングラスの香りが、音から漂ってくるようです。

 その土地からじわじわと沁み出してくる、ソウルミュージックの地縛霊ともいうべきものの存在が、ユーミンの楽曲にはきちんと刻まれています。

 ひとたび具体的な地名が登場すると、その歌はちょっとドロドロとした実体を背負ってしまうものですが、ユーミンの場合、ギリギリのところでファンタジーとして成立させることに成功している。尊敬します。


横山剣 (よこやま けん)

1960年生まれ。横浜出身。81年にクールスR.C.のヴォーカリストとしてデビュー。その後、ダックテイルズ、ZAZOUなど、さまざまなバンド遍歴を経て、97年にクレイジーケンバンドを発足させる。和田アキ子、TOKIO、グループ魂など、他のアーティストへの楽曲提供も多い。2018年にはデビュー20周年を迎え、3年ぶりとなるオリジナルアルバム『GOING TO A GO-GO』をリリースした。
●クレイジーケンバンド公式サイト http://www.crazykenband.com/

構成=下井草 秀(文化デリック)

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