
季節を問わず賑わう清水寺。お参り帰りには、清水坂や産寧坂を、気の向くままにゆるりと散歩するのがお決まりの楽しみ方です。そんな参道を行き交う人びとを、ずっと見つめてきたのが法観寺の八坂の塔。冬の澄みきった空を背に堂々とそびえる姿は、町のシンボル的な存在です。
後編では塔の西側にあたる「夢見坂」とも呼ばれる活気あふれる通りをご紹介。さまざまな人から願いを託されたカラフルなくくり猿がお堂を彩る「八坂庚申堂」、気軽に入れるコーヒーショップやカフェ、雑貨屋さんが通りの両側に並びます。坂の途中で、振り返って仰ぎ見る八坂の塔もすてきです。
前編では、塔の東エリアにある、湯豆腐の名店「総本家 ゆどうふ 奥丹清水」や、明治から昭和にかけての日本画の大家・竹内栖鳳の元邸宅を利用した菓子店「御菓子 艸堂」など、京都らしいお店をご紹介しました。お庭を見ながらのゆったりしたランチやカフェタイムにおすすめのエリアです。
「八坂庚申堂」は、傾いた八坂の塔を法力で元に戻したという僧の浄蔵が、平安時代に創建した庚申信仰の霊場。当時は、60日に一度めぐってくる庚申の日に眠ると、体から三尸の虫が抜け出し悪行を天帝に告げに行くとされ、寝ずに過ごす風習がありました。その三尸の虫を食べる力があると信じられていた青面金剛を祀っています。
本堂前の小さなお堂に祀られている賓頭盧(びんずる)さんは、病気を治してくれるなで仏。吊るされたカラフルなくくり猿は、手足をくくられて動けない猿の姿がモチーフ。欲に支配されず心をコントロールしなさいという戒めなのだとか。
庚申の日には無病息災を願うこんにゃく炊きが行われ、北を向いてこんにゃくを3つ無言で食べるのが慣わし。くくり猿に願いを書いて奉納し、欲をひとつ我慢すると願いが叶うと言われています。
町の喧騒とは無縁の静寂の世界が広がる「Salon de KANBAYASHI」。1925(大正14)年築の実業家の邸宅と700坪の緑あふれるアカガネリゾートに点在する離れや蔵が、老舗茶舗の上林春松とコラボした日本茶カフェです。
八坂の塔をイメージした五段重にフレンチオードブルやデザートが盛り付けられたアフタヌーンティーは、森を抜けた先にたたずむ望楼塔で味わいましょう。数々の賓客を迎えた部屋には、あらゆるところに凝った装飾が施され、当時のもてなしの心が時を経て伝わるよう。
こちらでは、お重に入った京都らしいアフタヌーンティーが人気です。おばんざい2段にはセイボリー、スイーツ3段には上林春松の抹茶「琵琶の白」、ほうじ茶「雁ヶ音(かりがね)」を贅沢に使ったデザートも。飲み物は「Mighty Leaf」の紅茶や上林春松の煎茶が選べます。
門を入ってすぐの蔵を改装したカフェでも、日本茶やスイーツを提供しています。2階席からは、八坂の塔が望めますよ。
器を中心にアクセサリーや布小物など手仕事の品々が並ぶショップと、自家製スイーツやランチが楽しめるカフェ「てしごとのみせmokumoku」。全国各地から店主が吟味した作家ものの器が並び、そのどれもが日々の暮らしのなかで使いやすそうなものばかり。
カフェを併設したのは、実際に器が使われている場面をイメージできるようにとの考えからだそう。ふだんは、米粉を使ったスイーツや自家製ドリンクがメインで、週末には10種以上のスパイスをブレンドしたカレーが登場します。
続いては、バス停清水道からすぐの場所にある「十文堂」へ。江戸時代、団子一皿が十文であったことが店名の由来です。
看板メニューの「団だん楽らく」は、小さな炙り団子を、柚子が爽やかな「京風白みそ」、原了郭の黒七味がピリッと効いた「黒ゴマ醤油」、丹波大納言小豆を炊き上げた「粒あん」、だし醤油が香る「いそべ焼」、きな粉たっぷりの「みたらし」の5つの味で楽しむセット。団子もタレもすべて自家製というこだわりが光ります。
「喫茶去」とは、「まあ、お茶でも飲みなさい」という意味の禅の言葉。その心を形にした「西来院」は、2024年3月から公開を始めたばかり。2028年に寺の創建にかかわる中国僧の蘭渓道隆が亡くなってから750年の節目の年を迎えるため、令和の大改修が行われたのがきっかけで、絵画、彫刻、家具などのアーティストらが、心地よく過ごせる空間を作り上げました。
本堂の前庭には、白砂が広がり優しいカーブを描く苔地が。蘭渓道隆が修行した仏教の聖地、峨眉山(がびさん)から運ばれた石が配されています。日本で亡くなった蘭渓道隆が、この庭を通して雲海に包まれた峨眉山の情景を見ているのかもしれないですね。
1月10日~ 3月18日は、第59回「京の冬の旅」非公開文化財特別公開が行われます。「蘭渓道隆頂相」などの寺宝を特別に展示予定です。
東大路通を渡ると、そこはもう祇園。料亭や宿が並ぶ間に、建仁寺の境内へと抜ける路地があります。静かな境内をめぐり、禅寺でアートや庭園に癒やされ、心穏やかに冬の参道さんぽを終えましょう。