古くからその静けさと美しさで文化人をひきつけてきた洛北の地には、江戸時代のすてきな庭園が並びます。武士を引退した石川丈山が結んだ草庵に始まる詩仙堂、絵画のような額縁庭園が広がる圓光寺、ミニ桂離宮と呼ばれることもある雅な曼殊院、どのお寺の庭も鮮やかな秋色に染まります。さらに、一乗寺界隈は、個性あるカフェやショップが豊富なエリア。紅葉さんぽの行き帰りにふらりと立ち寄ってみましょう。
路面電車の叡電一乗寺駅から、山へ向かって約15分。風流な山門が迎えてくれる「詩仙堂」は、今をさかのぼること約400年前、徳川家康に仕えていた石川丈山が、武士を引退し、この地に結んだ草庵がはじまりです。
狩野探幽による中国の詩人三十六人の肖像画を掲げる小部屋があることから詩仙堂と呼ばれ、いちばんの見どころは唐様庭園。山肌にそびえる背の高い紅葉を背景に、丸く刈り込まれた庭木が重なる様は、中国の山々を思わせます。
お座敷から庭園を堪能した後は、静かな境内に時折響きわたる鹿(しし)おどしの音色や、さらさらと流れるせせらぎに耳を傾けながら、お庭をそぞろ歩いてみましょう。秋明菊やススキなど、さまざまな秋草に出会えますよ。
詩仙堂からは歩いて2~3分。「圓光寺」は徳川家康が開いた学問所にはじまる由緒あるお寺です。こちらでは一幅の絵画のような庭が書院前に広がります。
「十牛乃庭(じゅうぎゅうのにわ)」と称される枯山水庭園の中央には、牛の形をした大きな石。予備知識なしに眺めても見応えは十分ですが、この庭は、子供が牛を追う様子を通して、人が悟りを開く道のりを表現しているそう。
広い境内は散策できるようになっており、見どころも豊富です。山門入ってすぐのモダンな枯山水「奔龍庭(ほんりゅうてい)」、清らかな水の滴る音がかすかに響く「水琴窟」、円山応挙が作品のモチーフにした「応挙竹林」、そして高台にある東照宮から一望できる京の街。
また、日曜日には予約制の早朝坐禅会(公式HP詳細)も開かれており、尼僧専門道場としての歴史をもつ圓光寺の坐禅体験は、他では体験できない本格的なもの。その魅力はつきることがありません。
圓光寺からは、静かな住宅地をぬうように歩いて約15分。坂道を上がりきった先に静かにたたずむのが「曼殊院」です。歴代の皇族が住職を務めた門跡寺院で、日本庭園の最高峰とも称される桂離宮を手がけた八条宮智仁親王の子、良尚(りょうしょう)法親王により、この洛北の地に移されました。
秋には、書院前の枯山水が風雅な深紅に彩られ、水の流れを表す白砂と、鶴島と亀島の緑との色のコントラストが目を楽しませてくれます。
庭に配された灯籠や、堂内の装飾にも、親王のセンスがきらりと光ります。また、勅使門の付近は紅葉の並木が続き、白壁にダイナミックな紅葉が映える風景は地元で長年愛されてきました。
比叡山の麓にたたずむ曼殊院では、静かな洛北の地を実感できる詩情あふれる秋景色が迎えてくれます。
叡電の一乗寺界隈は、隠れたカフェ激戦区。そのなかで、約80年もの間、詩仙堂へ行きかう人びとをもてなしてきたのが「一乗寺中谷」です。
お祭りの日に食べられていたでっち羊羹を作ることからスタートした中谷。店の名前を冠した中谷パフェには、竹皮に包まれたでっち羊羹がちょこんとのっています。また、豆腐羊羹や豆乳プリンが使われているのは、近所に美味しいお豆腐屋さんがあるからだそう。
もうひとつの中谷の名物といえば、白味噌のお雑煮。ゆでた丸もちに、大根と人参、小芋が入った京都ならではの味です。以前は冬季のみのメニューでしたが、今では1年を通していつでも味わえます。
紅葉シーズンも後半になると、肌寒い日になることも。そんな日には、心まで温めてくれそうですね。
アンティークの棚やテーブルに並ぶ本。書店というには美し過ぎる空間。2010年の英紙ガーディアンが発表する「世界で一番美しい本屋10」に日本で唯一選ばれたのが、こちらの「恵文社一乗寺店」です。
文学、アート、建築、ファッション、サブカルチャーといったさまざまなジャンルの書籍からからリトルプレスまで、読書好きはもちろんのこと、ふだん本になじみのない人をも魅了するという噂を聞きつけ、遠方から足を運ぶ人も多いそう。
書店の西隣は、料理、ワイン、編みものなど衣食住を中心とした本と、それらにリンクする雑貨が並ぶ「生活館」です。食や手芸、暮らしや民藝にまつわる書籍やキッチンツール、コーヒー、調味料など、気の利いた贈り物にもなりそうなアイテムがそろいます。
比叡山のふもとに広がる一乗寺では、紅葉のピークは例年11月の最終週。市内中心部よりも一足早く秋の気配が感じられます。地元の甘味や、秋の夜長を楽しむ読書を後押ししてくれるショップにより道しながら、紅葉さんぽを楽しんでみませんか。