スイーツプロデューサー・磯崎 舞が、日常に寄り添うおやつから贈り物にも選びたくなる焼き菓子を紹介する連載『#焼き菓子部』。暑さが本格的になるこれからの季節、食べたくなるのは柑橘のスイーツ。レモンやオレンジなど素材を活かした爽やかさが、涼を運んできてくれますよ。今回は「エルベラン」の土佐ベルガモットケーキをご紹介します。
神戸市中心部にアクセスしやすい、西宮市の閑静な住宅街・夙川にある「エルベラン」。先代のシェフが1964年にオープンし、現在は2代目シェフの柿田 衛二さんに引き継がれ、地元で長く親しまれている洋菓子店です。できる限り無添加にこだわり、素材のもつ風味を活かした菓子を作り続けています。
「本当においしいものは、いい素材からしか生まれない」というモットーで、日々アンテナを張りめぐらせるなか出合ったのが国産ベルガモット。アールグレイの香りにも使われている柑橘類で、主な産地であるイタリア以外では生産が難しいとされていましたが、高知県・春野町の柑橘農家が生み出したのが「土佐ベルガモット」です。柑橘の栽培が盛んな高知県ですが、温暖化の影響で良質な温州みかんを将来栽培できなくなる懸念から新たにベルガモットに着目。2009年に栽培がスタートし、初収穫まで5年の歳月がかかりました。そんな柑橘農家への応援の意味も込めて誕生したのが、土佐ベルガモットケーキです。
両手にすっぽり収まるほどのサイズの小箱は、イエローとブルーの鮮やかな色使いが目を引きます。包み紙にくるまれたケーキを取り出すと、商品説明が箱の底部に詳しく書かれていて、店のスイーツや客に対する気持ちが伝わってきますね。
ベルガモットを最大限活かすため、シンプルで食べやすいブッセのような菓子に仕上げられています。国産もち米粉を使ったもっちりした生地に挟まれたベルガモットクリームが軽やかに口どけると、清々しい香りと酸味が満ちてうっとり。ビターチョコとミルコチョコを合わせて上部にコーティングすることで味にメリハリが出て、ベルガモットが一層引き立てられています。
果皮の表面をすりおろしてすぐにオーガニックシュガーと擦り合わせることで、皮に含まれている香りの成分を余さず砂糖に移しています。果汁にもベルガモットを擦り合わせた砂糖を加えることで香り高いベルガモットのピューレを作り、そのどちらも使うことでベルガモット本来の香りと酸味を表現。手間暇を惜しまず独自の作り方を追求しているところに、柿田さんの素材への愛を感じられます。
アイスティーと合わせて、癒しのひと時を過ごしてみてはいかが。