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岩手県の一ノ関駅前に生まれた、 観光と物産の新たな拠点〈一BA〉とは? 地元若手経営者たちの思い

  • 2017年7月12日
  • コロカル

東京から、東北新幹線で約2時間。宮城県、秋田県との県境に位置する岩手県南の交通の要所、一関市。その隣に位置し、中尊寺、毛越寺を中心とする世界遺産を有する平泉町。

ユニークな「もち文化」が根づき、2016年農水省の「食と農の景勝地」で日本の5つの農村景観に認定されたこのエリアには、東北地方でも有数の広さの水田と、その東西両側には北上山地と奥羽山脈の山々が緑の絨毯のように連なり、田園風景が広がっている。

このまちも少しずつ、しかし、確実に人口は減少している。駅前や中心市街地の商店街はシャッターが下り、郊外のロードサイドにはチェーンのスーパーマーケットや店舗が並び、その便利さやにぎわいは市民に恩恵を与えつつも、古くからの文化や伝統産業は継承の危機を迎えているものも多い。もしかしたら、いまの日本の地域の典型とも言えるかもしれない。

そんなまちに、最近新しい動きが生まれた。地域の若手経営者が観光と物産の新しい動きをつくるべく、2017年4月3日に設立されたのが、〈一般社団法人 一関平泉イン・アウトバンド推進協議会〉(以下IOB)が結成された。コロカルはこの法人に設立メンバーとして参加している。同法人の拠点として、2017年7月1日に〈一BA〉(いちば)がJR一ノ関駅前にオープンした。

コワーキング・スペース兼ワークショップ・スペース〈co-ba ichinoseki〉、地元産商品を扱うショップ、民泊施設、観光案内所などの機能を持つこの場所は、活気のある「市場」のような場所になることを目的としている。連載初回の今回は、その立ち上がりまでの経緯や各参加企業の思いをレポートする。

左から、京屋染物店の蜂谷淳平さん、マガジンハウス・コロカル編集長及川卓也、イーハトーブ東北の松本数馬さん、松栄堂の小野寺宏眞さん、世嬉の一酒造の佐藤 航さん、京屋染物店の蜂谷悠介さん。

一BAを立ち上げたのは、いずれも一関市出身で一度は地元を離れた後、伝統ある家業を継いだ30〜40代の経営者たちを中心としたメンバー。地元で親しまれる夏祭りで幼い頃からつながってきた面々でもある。

(株)イーハトーブ東北を起業した代表理事の松本数馬さん、世嬉の一酒造(株)の代表取締役・佐藤 航さん、(株)京屋染物店の専務取締役・蜂谷淳平さん、(株)松栄堂の代表取締役社長・小野寺宏眞さん、そして同じく一関市出身で『コロカル』編集長の及川卓也が、理事を務める。

なぜ地元? なぜ観光?

1980年生まれの松本数馬さんは、蜂谷さん兄弟や小野寺さんとは幼なじみ。(株)イーハトーブ東北 代表取締役社長。

「この映画館は、今年で創業68年目。自分が生まれる前からずっと家族がやっていて、いずれ地元に帰って何かやりたいなと思っていました」

と話してくれた松本さん。Uターン直接のきっかけは、東日本大震災。2011年の1月に勤めていた金融機関の仙台支店に転勤になって、すぐに震災が起きた。

「この映画館も被災して、修繕する資材や人間もおらず廃業寸前でしたが、三重や名古屋の同業の方々が自ら車を運転し手伝いに来てくれ、5月には再開できたんです。また、私自身もボランティアに加わり、喜びも悲しみも分かち合う場面にたくさん触れて、地元で何かやりたい、それも早くやりたいと思うようになったんです」

一関市は、人口減も著しく、子どもの頃に見た駅前のあのまち並みが廃れていた。そこで、松本さんが注目したのはマーケットが伸びている“観光”。

「2011年に平泉が世界遺産に登録され、国内外からの観光客も伸びていたので。銀行員をしながら観光のマーケットを調べたり、旅行業に必要な資格を調べたりして、専門学校に通い総合旅行取扱管理者の資格をとったり」

そして2017年2月に、松本さんはイーハトーブ東北を立ち上げた。

「僕の事業は、農泊や観光をベースとしていますが、IOBで行いたいのは、まずは観光と物産、サービスを一体で運営することなんです。本業を持つ各参加者のハブとなる機能をもたせます」

まちの活性と、自分たちの可能性を広げる存在として、松本さんの起業や、IOBに可能性を感じたのが、兄弟で〈京屋染物店〉を継ぐ蜂谷悠介さん、淳平さんだ。

自社だけではできない、新たな商品づくり

大正8年創業の株式会社京屋染物店。岩手県一関市に店と工房を構え、社長の蜂谷悠介さん、専務で弟の淳平さんがスタッフとともに、郷土のお祭り用の商品をはじめ、手ぬぐいや藍染の洋服などのオリジナル商品も展開する。

全国的に染物屋は跡継ぎ不足で廃業する方も多いから、今や注文は全国からくる。

「今の課題は、この場所じゃないとつくれない商品をどうつくるか。『繁盛店がないと、まちは活性化しない』。地元のある社長さんにそう言われたことがあるんですけど、最近すごく共感できる。同世代の経営者が同じようなことを考え、それぞれの事業に取り組み始めています」と悠介さんは話す。

またさまざまな業種や、クリエイティブに強い人が集える場所があると、商品開発をしていくうえでも期待が高まると弟の淳平さんは話す。

「僕らはずっと祭りや工芸に携わってきたので、特に地域の芸能や工芸に触れられる場所にしていきたい。そういう積み重ねが、この地域の文化の発信となるし、ひいてはそれぞれの継続的な商品の購入につながるんじゃないかと思うんです」

それぞれの事業の思いを具現化するためには、必要なのは拠点。それは、IOBの事務所にとどまらず、さまざま機能をもたせることとなった。そこに、シェアオフィスを併設することに新たな期待をかけているのが老舗和菓子店〈松栄堂〉の小野寺宏眞さんだ。

「可能性」が生まれる場所として

明治36年創業の〈菓匠 松栄堂〉は、一関市に本店を構える一方、県内にも8店舗をもつ。〈田むらの梅〉〈ごま摺り団子〉など看板商品は、代々地元で愛されている。このまちで商いをするからこそ、社長の小野寺さんは地域ビジネスの可能性を考えている。

「みんなが、新たなビジネスを始めるときに、拠点施設を駅前につくる必要があると思ったんです。観光客や地元の人と交われるスペースが今までなかったし、廃れた一ノ関駅前をなんとかしたい気持ちが強かった。それから、宿泊機能があることが重要で、それが実現可能な場所にしました」

一関市は、盛岡市と仙台市のちょうど中間に位置し、三陸方面への電車の乗換駅ともなっている。さまざまなビジネスが生まれる拠点になり得るのだ。

また、シェアオフィスは全国に展開する〈co-ba〉に加入。

「日本各地域の感度の高い人たちの交流人口が増え、そういった交流を通して何かが生まれるんじゃないかという期待がある。可能性が生まれる場所にしたいというのがポイントですね。ワークショップやイベントなど力を注いでいきたい」

それにしても、驚くべきはそのスピード感。約6か月間で組織と拠点の立ち上げを成し遂げた彼らには、自治体主導の地域活性事業にありがちな停滞感は、一切ない。

決裁権を持った経験ある経営者たちが各社の事業として捉えているから、まるでベンチャー起業のようなスピード感を持ってそれぞれタスクをこなしていく。

スピード感ある「ビジネスとしてのまちおこし」

「既存団体ではできない軽やかな動きで新しいものを生み出す素地を感じたことも、IOBに参加した大きな理由ですね。わかりきったことですが、既存だとしがらみでできないことが、新規団体では身軽にできることも多いでしょうし(笑)」

そう話すのは、世嬉の一酒造(株)の社長、佐藤 航さん。同社のつくる日本酒、そして国際大会でさまざまな受賞歴のあるクラフトビール〈いわて蔵ビール〉などは、全国、アジアでも展開している商品。また、古い蔵を改修したレストランも市内で人気の観光スポットだ。

「両方のバランスをとりながら活動していくことが重要だと思うので、そのハブになっていきたい。自分たちはもちろん、外からの作用によって市民が自分のまちを理解する、そして誇りに思うきっかけになればいいですね」

祭りがつなぐ、それぞれの思い

IOBのメンバーが育んできたまちに対する強い思いは、子どもの頃から生活の一部としてきた一関市大町の水天宮のお祭りで育まれてきた部分が大きい。近くを流れる磐井川流域は、古くから水害で悩まされていた。その鎮魂として水天宮を建て、花火を3発あげたことから始まったお祭りだ。

「8月のはじめにある夏祭りで、メインは神輿です。祭りの運営にみんな家族ぐるみで子どもの頃からどっぷり参加していて、そのなかで自然といわゆる『郷土愛』というものが身についていったのかもしれないですね。一BAも、楽しいからみんなが集まる、後の世代にも残していきたいからみんなで協力する、祭りのような存在にしていきたいですね」(京屋:蜂谷淳平さん)

一関、平泉をどう体験、滞在してもらう観光商品をつくり上げるか。また、この地域に根づく食文化「もち」などについても掘り起こしながら、(詳しくは、コロカルニュースで紹介)新しい現代的な価値を持つ商品やサービスをどう磨き上げられるか。

地域の「人とアイデア」を集め、「観光」「商品」「仕事」「生きがい」をつくり出す、活気のある「市場」のような場所。始まったばかりだが、駅前の、そしてまちの空気が少し変わってきているのは確かだ。

次回は、拠点となる〈一BA〉のリノベーションの様子を中心に、「地域拠点のDIY」をテーマにお伝えします。

information

一BA(いちば) 

住所:岩手県一関市上大槻街1-5

TEL:0191-48-3838

営業時間:9:30〜18:30

定休日:土曜日・月曜日

https://www.facebook.com/ichiba.tohoku/

photographer profile

Kohei Shikama

志鎌康平

山形県生まれ。写真家小林紀晴氏のアシスタントを経て、山形へ帰郷。東京と山形に拠点を設けながら、日本全国の人、土地、食、文化を撮影することをライフワークとしています。山を駆け、湖でカヌーをし、4歳の娘と遊ぶのが楽しみ。山形ビエンナーレ公式フォトグラファー。http://www.shikamakohei.com/

writer profile

Kei Sato

佐藤 啓(射的)

ライフスタイル誌『ecocolo』などの編集長を務めた後、心身ともに疲れ果てフリーランスの編集者/ライターに。田舎で昼寝すること、スキップすることで心癒される、初老の小さなおっさんです。現在は世界スキップ連盟会長として場所を選ばずスキップ中。https://m.facebook.com/InternatinalSkipFederation/

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