全国の料理人がこぞって来るビストロが、城崎温泉にあった!

  • 2025年2月13日
  • コロカル

推薦人

野村友里さん

野村友里

eatrip 料理人

Q. その方を知ったきっかけは?

以前から知っていてくれたようで、数年前の森道市場のときに声をかけていただきました。

Q. 推薦の理由は?

兵庫の城崎温泉という、なかなか辿りつけない地に、わざわざ行きたくなるお店とコミュニティを築きあげて勢いがあるから。

たっぷり飲んで、ガッツリ食べる。料理家も愛するビストロが温泉街に

城崎温泉は非常に歴史のある温泉地だが、観光客や移住者などに対して開けた空気を感じる。7つの外湯文化や約80軒ある旅館を大切にしつつ、変わりゆくツーリズムに対して柔軟な姿勢は、ローカルの手本となっている。

カランコロンと下駄の音を響かせ外湯へ向かう観光客。冬の松葉ガニを目当てに、城崎温泉は平日も賑わっていた。

カランコロンと下駄の音を響かせ外湯へ向かう観光客。冬の松葉ガニを目当てに、城崎温泉は平日も賑わっていた。

宿で食事をして外で湯に浸かるという、「部屋食外湯」スタイルが城崎温泉の特徴だが、インバウンドの影響もあり、近年では「素泊まり外食」も滞在中の選択肢のひとつになっている。ここ数年で城崎は知る人ぞ知る美食のまちになっていて、ハイシーズンは8割が外国人客で席が埋まるというビストロ〈OFF KINOSAKI〉は、そのニュースタイルに迎合しているのだ。旅館の和室で正座していただく、少量多種の会席料理とは真逆の、たっぷり飲んでガッツリ食べるビストロの醍醐味といえる自由なスタイルが、城崎温泉に新たな価値をもたらしている。

より遠くの人に自分たちの取り組みを伝えられたら

2013年から豊岡駅近くで〈WOLF DINER〉というビストロを営んでいた谷垣さん。但馬地域(兵庫県北部)の農家や生産者との連携や対話をしながらお店づくりをしていたなかで、城崎温泉が「温泉と文学」を軸に新しい変化を遂げようとしている時期と重なり、より遠くの人に自分たちの取り組みを伝えられると考えた。

「いろんな人たちが城崎に来て、なにかが渦巻いていて、これから新しいことが起こるんじゃないかとずっと間近で見ていたんです。豊岡の駅前の場所もすごく好きだったのですが、思い切って移転に踏み切りました。城崎に観光で来る、より遠くの人に自分たちがやろうとしていることを伝えられるんじゃないかと思ったんです」

2018年、元は旅館で当時倉庫になっていた場所を見つけた。温泉街のメインストリートから1本奥まった場所で、当時はさほど人通りは多くなかったが、小川が流れ、桜並木が美しい場所だった。

「後ろが山なので湿気が多く、飲食店の友人たちからは『飲食店には向いていない場所』と言われていましたが、城崎国際アートセンターの元館長の田口幹也さんだけは唯一『いや、大丈夫じゃない?』と。今思うと田口さんの自宅の近所にビストロがほしいという私情が入っていたと思うんですけど(笑)。実際は、山側をワインセラーにすることで湿度の問題はむしろいい方向に働きました」

春は店内からでも桜並木が望める。奥には気鋭の芸術家・新城大地郎氏の書が飾られている。

春は店内からでも桜並木が望める。奥には気鋭の芸術家・新城大地郎氏の書が飾られている。

OFFが人気の理由は、旬の新鮮な食材とそれを生かした調理法にある。野菜、魚、肉、乳製品、調味料。谷垣さんはあらゆる生産者の声に耳を傾け、素材のおいしさを引き出す調理を施していく。豊岡から城崎へお店が移転したことで、よりいっそう京丹後の生産者と距離が近くなったという。たとえば、京丹後のオーガニックファーム〈SORA農園〉や、ジャージー牛の乳製品を製造する〈ミルク工房そら〉は仲のいい生産者のひとり。谷垣さんの創作にもいい影響を及ぼしている。

寡黙で職人気質な谷垣さんから生み出される皿は、多くの説明も派手な名前もないが、料理の主役が素材であることを再認識させられる。「WAGYU」や「KOBE BEEF」が目当てのインバウンド客も、「TAJIMA WAGYU」をはじめとする但馬地域の素材の豊かさを五感で知ることになる。

「あやめ雪かぶ、にんじん、みかん、フロマージュブランのサラダ」(1200円)は、甘みと酸味のバランスが抜群なひと皿。

「あやめ雪かぶ、にんじん、みかん、フロマージュブランのサラダ」(1200円)は、甘みと酸味のバランスが抜群なひと皿。

「丸ごとせこがにのトマトクリームパスタ」(3500円)。せこがにが出回る年内限りの看板メニュー。

「丸ごとせこがにのトマトクリームパスタ」(3500円)。せこがにが出回る年内限りの看板メニュー。

「但馬牛のステークフリット」(100g 2140円〜)はOFFの名物。揚げ焼きした表面の香ばしさと食感、脂の旨みに悶絶!

「但馬牛のステークフリット」(100g 2140円〜)はOFFの名物。揚げ焼きした表面の香ばしさと食感、脂の旨みに悶絶!

ワインセラーのガラスに書いている生産者のリスト「Local Legends」はお客さんへの説明だけでなく、谷垣さんが生産者に対する信頼とリスペクトの証でもある。

「その土地のものや旬のものを大事にしていろんな人と出会っていますが、より足元を掘るとその下に世界が広がっているんです。今は特に、掘れば掘るほど遠くの人とつながっていける感覚を持っていますが、これも豊岡〈WOLF〉時代からやってきたことの延長線上だと思うんです」

今回、谷垣さんを推薦した野村友里さんにもローカルを掘り続けてきた話をしたことがあったという。「『そんな前からやっているなんてすごいね』って言ってもらいました(笑)」

「LOCAL LEGENDS」には、〈井上茶寮〉の名前も。

「LOCAL LEGENDS」には、〈井上茶寮〉の名前も。

谷垣さんはコロナ禍をきっかけに、但馬で〈TANIGAKI〉を営む双子のお兄さん谷垣伸太朗さんと、〈SUNUSER(スヌーザー)〉というブランドを立ち上げ、オンラインサイトで地元食材の加工品などを販売していたが、2024年末に静岡駅前の複合施設に〈スヌーザー〉の名を冠した居酒屋スタイルのカジュアルレストランをプロデュース。静岡の生産者にフォーカスしたメニューを監修した。ローカルで活動する料理人が、ローカルの飲食をプロデュースする。そんな流れを谷垣さんはこう話す。

「昔はローカルと都市部とのつながりだったと思うんですが、今は都会を経由せずに、ローカルとローカルがコラボレーションする動きが全国的にあるような気がしていて。たとえば長崎県雲仙市の原川慎一郎さんや、山梨県北杜市の飲食店の方々とはポップアップでご一緒しています」

城崎のまちにビストロがもっと増えたら

城崎に来たからには、やはり一度は宿泊先の旅館でごはんを食べてもらうほうがいいというのが谷垣さんの考えだ。そのかわりOFFには2泊目以降やランチで、あるいは夜一杯だけ飲みに来てほしいという。観光客の立場ではその気遣いがうれしい。

「OFFはそういう役割でいいと思っているんです。多分このまちの人も『外に出てみてよ』と思っていると思います。その自分のところで囲い込まない感じが不思議なまちですよね」

そして城崎のまちをもっと楽しんでもらうための、谷垣さんの願望。「もっとワインが飲めるお店が城崎に増えたらいいのにって思うんです」すなわちライバル店が増えるということだが……

「ひとつのパイを奪い合うのではなく、パイを増やしていくという考えなんです。たとえば(スペインの)サンセバスチャン。バルが密集していますが、技術やいいものをすべて共有することによって、あれだけ繁盛していますよね。城崎にはビジネスチャンスがじゃんじゃんあるんで、若手の料理人とか来たらいいと思います。それをいうと『ライバルも増えるじゃん』っていわれるんですが、いいお店ができればできるほど我々もまちも潤うのではと思います」

飲食店の選択肢が増えれば、それだけ長く滞在する人も増える。城崎にはぜひ2泊以上してほしいと谷垣さんはいう。

「城崎というまちは、来るきっかけこそ温泉入って遊んでと観光目的ではありますが、プラスアルファまちを知ってもらって、好きになってもらって帰っていく仕組みがあると思います。結果、リピートしてくれるんです。うちのお店も良かったけどまち自体もめちゃめちゃ良かったから、次は家族を連れて来たり、いろんな人を連れてこようというような循環になっているのだと思います」

城崎には古くから共存共栄の精神が根づいているという。まちを「ひとつの旅館」と見立てて、「駅は玄関、道は廊下、宿は客室、外湯は大浴場」と役割を明確にして、それぞれが商いとして成り立ち城崎全体が潤うことを目指している。谷垣さんの言葉は、まさに「共存共栄」を体現していた。

information

谷垣亮太朗

兵庫県城崎にて”地元食材+ナチュラルワイン+温泉=Paradise”をキャッチコピーに、歴史ある温泉地で、ローカルの良さ、生産者さんとの繋がりを大切にした料理と、ナチュラルワイン、スペシャルティーコーヒーが楽しめるお店〈OFF〉を営んでいる。一期一会を大切に、旅するように全国各地でポップアップも行なっている。

information

OFF KINOSAKI

住所:兵庫県豊岡市城崎町湯島536

TEL:0796-21-9083

営業時間:ランチ/水曜・日曜 11:00〜16:00(15:00L.O.)

ディナー/木曜・金曜・土曜 18:00〜22:00(食事20:30)

Web:Instagram(@off.kinosaki)

editor profile

Yu Ebihara

海老原 悠

えびはら・ゆう●コロカルエディター/ライター。生まれも育ちも埼玉県。地域でユニークな活動をしている人や、暮らしを楽しんでいる人に会いに行ってきます。人との出会いと美味しいものにいざなわれ、西へ東へ全国行脚。

photographer profile

Maki Igaki

井垣真紀

いがき・まき●結婚を機に、関西から豊岡市の城崎温泉に移住。豊岡市の移住ポータルサイト「飛んでるローカル豊岡」、インスタグラム「豊岡グラフ」、NHKラジオ「ラジオ深夜便・日本列島くらしのたより」などで、住んでよかった!と思う豊岡の魅力を伝えています。

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright © Magazine House, Ltd. All Rights Reserved.