ついにあたりが真っ白になり、雪の季節がやってきた。庭に出て植物を眺めたり、収穫して食べたりできなくなるのは、とても寂しいのだが、そんな気持ちを慰めてくれるものがある。それは夏から秋にかけてせっせと集めて、干しておいた植物たちだ。野に自生しているミントやカキドオシ、必ず畑で育てるホーリーバジルなどを乾燥させておけばお茶にできるし、スゲや豆のツルをとっておけば、しめ飾りやカゴ編みの材料にもなる。
秋までに植物を収穫して部屋のいたるところに干しておく。
こうした植物のなかで、いちばん活用しているのは、なんといっても赤シソだ。春になったらポットにタネを撒いて、たくさんの苗をつくり庭や畑に植えている。こぼれダネから発芽するものもあって、特に手をかけなくてもぐんぐん伸びる。
ほかの草に囲まれながらも元気に育つ赤シソ(右)。私がたくさん育てているのはウラベニシソという品種で葉っぱの表が緑、裏が赤(これを赤シソと呼んでいいのかは迷うところだけれど)。
なぜ、赤シソをこんなに育てるのか。1番の理由は梅干しに欠かせないからだ。いつも奈良の農園から、無農薬栽培の梅を10キロ取り寄せている。7月初めにそれを塩漬けしておいて、赤シソが育つのを待つ。
南高梅を塩漬けにする。
8月中旬くらいに赤シソの葉っぱをたくさん集める。梅10キロに対して、赤シソを葉っぱだけで1〜2キロ集めたいと思っていて、自家栽培したものだけでは足りずに、近隣の農家さんから買ったりもしている。
シソを塩で揉む作業は、ことのほかたいへんだ。まずは下処理として、茎から葉っぱをとって、それを洗って乾かして、口当たりをよくするために葉っぱについた軸をとる。大きなボールに10杯以上はあるだろうか。軸をとる作業は1日では終わらない。
赤シソ(今回はウラベニシソ)を洗っては軸を外し、洗っては軸を外しの無限ループ! かなり大変!!
下処理ができたら塩で2回もんで灰汁をとる。梅を塩漬けして梅酢の上がったカメにこれを入れると、鮮やかな赤紫色が広がる(この瞬間が大好き)。そのまま1週間くらいおいておき、いよいよ梅を干す作業へと移る。3日間ほど天日で干していくと、シソの色が梅に移って、どんどん赤くなっていく。シソは天日で半日くらい干して、干しあがった梅干しと一緒にカメに収めて熟成させる。
干して3日目の梅。どんどん赤味が増してくる。
干した梅をカメに入れる。
梅の上に塩揉みして半日干した赤シソ入れて蓋をして、半年以上熟成させる。
たっぷりのシソで蓋をしておくことで、梅の腐敗を防ぐ効果もあるという。確かに梅酢に浸したこの赤シソは、不思議なことに時間が経っても腐らない。結構前につけた梅干しと一緒に赤シソも出してきて、ちょっと干してユカリのふりかけにしたり、もちろんそのまま食べてもおいしい(実際に食べる際には十分にご注意ください)。
漬物にもジュースにも応用できるさらに梅干しをつける過程で出る梅酢も、いろいろ使えるアイテム。サラダのドレッシングに混ぜたり、漬物に活用したりすることも。ちなみに我が家の息子は、疲れたときにちょっぴり飲んだりしている。
梅酢と梅干しと一緒につけたシソを混ぜて漬物に。
8月に梅干し用に葉っぱをカットした赤シソは、そのまま植えておけばさらに成長するので、シソジュースをつくることも。いろいろ試してみたところ、鍋にあふれるくらいたっぷりとシソを入れ、砂糖も思い切ってたくさん入れるとおいしい(水1リットルに対して砂糖250グラムくらい)。
煮立ってきたら砂糖を混ぜて、最後にクエン酸を入れると、鮮やかな赤紫になる。暑さでぐったりした体に活力が戻ってくるので、夏には欠かせない。
葉っぱはカットしてもまた再生する。
シソジュース。とにかく色がきれい!!
今年は酵素シロップにも挑戦!秋になってタネがつき始めて、茎がだいぶ硬くなってきたら、今度は根元からカットして、半分はそのまま吊り下げて干してお茶にする。もう半分は、今年初めて酵素シロップにしてみた。酵素シロップとは、野菜や果物の全量に対して、1.1倍の白砂糖を合わせ、それを混ぜて発酵させてつくるもの。免疫力アップや抗酸化作用があるという。
秋になって実をつけたシソ。
今回は、シソの太い茎の部分もタネの部分も葉っぱもすべて、だいたい5センチくらいの長さにカットし、ほかにミントやタイムなどのハーブも加えた。保存瓶に葉っぱと砂糖を層にしながら入れていき、最後に砂糖で蓋をする。1〜2日くらい経つと、水分が出てくるので、手で混ぜる。その後、毎日朝と晩、2回ずつ混ぜていくと、だんだんと発酵して酵素シロップになる。完成の目安は、砂糖が完全に溶けて、味がまろやかになった頃。北海道は気温が低いので2週間くらいかかる。これをソーダで割ったりすると、シソジュースとはまた違った味わいが楽しめる。
酵素シロップの材料。シソと一緒にハーブも。ナスタチウムやカレンデュラなどの花も一緒にくわえて香りもアップ。
保存容器に砂糖とシソやハーブなどを層にして入れた状態。
発酵してきたら液をザルなどで濾す。
炭酸で割るとおいしい。発酵して糖分が分解されているので思ったほど甘くない。
さらに今年はシソの実を醤油でつけて、ご飯にかけたり、カツオのタタキと一緒に食べたりも。冬、干しておいて、お茶にしきれなかったシソでリースをつくったりもしていて、このリースに使ったタネを春にまけば、新しい命としてつながっていくのもうれしい。
指でサヤをもんでタネをとるとき、シソのいい香りがふんわりとしてくる。そのたびに、お腹がグウとなりそうになって、私はこの香りと味が本当に好きなんだなと妙に納得してしまう。
夏から秋の間は、シソをいろんなものにかけて食べていた。焼いた野菜のアクセントにも。
余ったシソはほかのハーブと一緒にリースに。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/
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