新潟県の田上町は、板橋区よりもほんの少し狭い面積31.7平方キロメートルで、約1万人が住んでいます。小さなまちには竹林がたくさんあり、その面積はなんと約17ヘクタール、東京ドーム3.6個分!春になると町外から多くの人がたけのこを買いにやってくるので、地元のみなさんは、竹こそがまちの宝、名物だと思ってきました。一方で、高齢化に伴って手入れされない竹林が増えていることも地域の課題です。
稲作のほか、ル・レクチェや梅などの農業や工業が田上町の主な産業です。
まちの人たちの宝であると同時に課題でもある竹を使って盛り上げようと2022年に始まったイベントが〈たがみバンブーブー〉です。1か月のイベント期間中、人口1万人の町に、約2万人が訪れるという人気ぶり。3回目となる〈たがみバンブーブー2024〉は9月14日から10月14日まで開催され、竹を使ったさまざまな演出に来場者が驚かされました。
荒れかけた竹林が会場に。竹を使った屋外インスタレーション〈たがみバンブーブ−竹林〉の入り口。トンネルで気分が盛り上がります。
〈たがみバンブーブー2024〉は、2か所の有料会場と1か所の無料会場の合計3か所で構成。有料会場は、手入れが行き届いていなかった竹林を整備した〈たがみバンブーブ−竹林〉と大正時代に地元の豪農が建てた館の〈椿寿荘〉で、無料会場は2020年にオープンした〈道の駅たがみ〉です。
メイン会場といえるたがみバンブーブ−竹林では、3人のアーティストがそれぞれに制作した竹と光を使ったインスターレションを巡ります。
『たがみの輪』周辺は、竹が雪の重みでしなってドーム状になっています。
第1エリアにあるのは、熊本を拠点に竹あかり演出を行うユニット、CHIKAKENによる作品『たがみの輪』です。竹を組み合わせて空間にたくさんの竹まりが吊るされていて、幻想的な雰囲気が漂います。
『星空のドーム』周辺は、非日常感を演出。
第2エリアは、新潟市出身の空間デザイナー小出真吾さんによる『星空のドーム』。よく見ると五角形と三角形が繋がって、たくさんの星がドームに散りばめられています。児童公園の遊具のようなドーム型のオブジェと、星の形と光が組み合わせられて、幼い頃に見た景色が思い起こされるような夢のあるエリアでした。
『まきまき竹あんどん』は光の色が赤や緑に変わります。
第3エリアは美術家の髙橋匡太さんが地元の小学生たちと一緒に制作した『まきまき竹あんどん』。布をつくる過程で出た切れ端を新潟県内の企業から譲り受け、小学生たちがその場所に生えている竹に巻きつけました。
バンブーアートの光が揺らめく大正時代につくられた庭と道の駅虫の声が鳴り響く〈椿寿荘〉の枯山水にバンブーアートが美しく
大正時代に建てられた豪農の館〈椿寿荘〉では、広い枯山水の庭にたくさんのバンブーアートを設置。緑豊かな木々や石灯籠、足元には苔が美しい庭では虫の声がBGMとなってますます趣豊か。
通常17時までの〈道の駅たがみ〉は期間中20時30分まで営業。テントの下でくつろぐ人の姿も見られました。
会場を巡るシャトルバスの発着所でもある〈道の駅たがみ〉では、テントをはった「憩いの広場」にバンブーアートが展示されました。
運ぶだけでも大変な長い竹で作ったブランコ。ハイジの気分が味わえます。
道の駅のそばに高さ6メートルの大きな竹製のブランコが組み立てられるのが期間中の恒例です。昼間は親子連れ、ときどき大人がブランコを楽しんでいました。
〈ホテル小柳〉では、庭にバンブーアートを設置した部屋も。
町内には4つの温泉旅館・ホテルがあり、すべてが協力会場として館内にバンブーアートを設置。たがみバンブーブ−をメインとした宿泊ツアーも企画されて、大勢の観光客が訪れました。
〈ホテル小柳〉では、たがみバンブーブーの盛り上がりを受けて、常時バンブーアートを設置する客室も用意されているほどで、田上町といえば、たがみバンブーブーだという認識が広がりつつあります。
幼稚園児から80代まで準備に参加。中学生はプロデュースもたがみバンブーブーは、2022年にスタートして以来、徐々に規模を拡大してきました。主催者は地元の商工会メンバーが中心の「たがみバンブーブー実行委員会」ですが、バンブーアートの制作や設置、運営を担うボランティアを「たけのこ団」と称して毎年募集しています。
〈道の駅たがみ〉では、バンブーアート制作体験も実施中。ひとり2200円。要予約。
「たけのこ団」による作業は、たがみバンブーブ−竹林の敷地内で枯れた竹の撤去、通り道に生えている竹の伐採、ドリルで竹に穴をあける作品制作や、作品の設置などさまざま。
2024年の活動は、8月17日から9月11日までの日曜日を除くほぼ毎日続きました。平日は団員が本業を終えた夕方から、週末は半日ほどと、なかなかハードなスケジュール。それでも幼稚園児から70〜80代の人まで、文字通り老若男女、たくさんの人が参加しました。
特に幼稚園から中学3年生まで、田上町の子どもたちはほとんどみんなたがみバンブーブーに携わっています。
田上中学校3年生考案の「竹葉茶」。香りのよさが魅力です。
期間中に1日だけ行われた〈たがみバンブーナイト〉は田上中学校3年生がプロデュース。1日限りのアイドルグループによるショー、「たこやき」ならぬ、たけのこ入りの「たけやき」やソックスや竹葉茶などバンブーグッズの販売も行われました。バンブーグッズはイベント終了後も〈道の駅たがみ〉で販売されています。
馬場大輔さんは、田上町にUターンして〈道の駅たがみ〉駅長に。
イベントの仕掛け人で〈道の駅たがみ〉で駅長を務める馬場大輔さんは、「子どもたちに、地域のことを好きになってもらいたいと考えたことがきっかけ」と話します。
田上町には、小学校がふたつ、中学校がひとつあり、高等学校はありません。田上の子どもたちは中学校を卒業すると、町外に進学。やがては町外で暮らし、田上町に戻ってくることは稀です。
竹林とたけのこが数少ない名物である田上町で育った記憶をずっと大切にしてほしい。大人たちのそんな気持ちが、秋の夜にふさわしい上品なインスタレーションと町の一体感をつくり上げてきました。
竹は耐久性が低いため、イベント終了後には作品もブランコも撤去され、また夏が来ると新たにイベントの準備がスタートする予定です。
自慢のたけのこを使った「めんま」は、2024年10月から発売開始。
田上町では今後も〈道の駅たがみ〉を中心に竹を使った特産品作りなどまちの宝、竹と一緒に盛り上がっていきそうです。
information
道の駅たがみ
住所:新潟県南蒲原郡田上町大字原ヶ崎新田3072-1
TEL:0256-47-0661
営業時間:ショップ・食堂 4〜11月 9:30〜17:00 12〜3月 10:00〜16:00
定休日:第2火曜、12月31日〜1月2日
Web:道の駅たがみ
*価格はすべて税込です。
writer profile
Saori Nozaki
野崎さおり
のざき・さおり●富山県生まれ、転勤族育ち。非正規雇用の会社員などを経てライターになり、人見知りを克服。とにかくよく食べる。趣味の現代アート鑑賞のため各地を旅するうちに、郷土料理好きに。