音楽好きコロンボとカルロスがリスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは長野県松本市。
アナログとハイレゾ音源をほどよくミックスした進化系の老舗カルロス(以下カル): 松本っていうと音楽のまち、それも小沢征爾さんってイメージだよね。
コロンボ(以下コロ): 夏の風物詩『セイジ・オザワ 松本フェスティバル』。小沢さんが亡くなった今年も開催されたんだ。
カル: クラシックだけの祭典じゃなくて、ジェイムス・テイラーがお忍びでやってきたりとゲストも多彩だよね。
コロ: ほかにも「りんご音楽祭」とか、ボクらが行った週末には「信州ギター祭り」が開催予定だったよ。
カル: ハイエンド・ギターとギター・ビルダーが集うイベントね。ギターの産地としても信州は有名。さらに〈サウンドパーツ〉社っていうオーディオメーカーもあるね。
コロ: そうそう創業時は真空管と関連パーツをつくっていた会社なんだけど、いまじゃマニア垂涎のアンプを製作している。ここ〈エオンタ〉のパワーアンプも〈サウンドパーツ〉のカスタムだよ。〈マッキントッシュ〉のプリアンプとのコンビで稼働中。
エオンタとは古代クレタ語で「存在するものたち」。まさに創業50周年を迎えた〈エオンタ〉に相応しい。
入口の階段の壁に書かれたサイン。ビル・エヴァンスをはじめレジェンドたちの足跡が。
カル: 〈エオンタ〉の創業って、1974年なんだってね。今年で創業50周年なんだ。これまたすごい。ってことはバリバリのオールドスタイルのジャズ喫茶なの? 私語厳禁だったり?
コロ: いやいや、全然ハードコアじゃないかも。スピーカー前のコーナーは聴いているお客さんを尊重しておしゃべり禁止エリアだけど、カウンターやほかの席はうるさくならない程度にって感じだよ。ボクらが入店したときはジャズといっても、E.S.T.がかかっていたくらいだから、とても柔軟。
カル: E.S.T.(エスビョルン・スヴェンソン・トリオ)ってスウェーデンのピアノ・トリオ? レディオヘッドに影響を受けたっていわれる。いいよね、エレクトロ感が90sな感じで。ニュージャズの走りみたいなトリオだ。
コロ: しかもアナログでなくて、DSなんだよ。
カル: デジタル・ストリーム! これまた柔軟。
スピーカー前の特等席はジャズ喫茶の伝統に則り「おしゃべり禁止」。
伝統の足跡を残している店内。もはや希少価値であろうポスターがそこかしこに。
コロ: 店主の小林和樹さんはアナログだけに固執するのではなくて、ハイレゾ音源も追求しているみたいで、CDもそのまま通さず、DSでかけるんだってさ。スマートにデジタル・シフトしている。
カル: だからレコードの代わりにジャケットがiPadで飾られているんだ。ハイレゾ音源ってそんなにすごいの?
コロ: より精緻な音になるって言ってたよ。古い作品はレコードで、新作はハイレゾって感じらしい。だからってCD化が早かったわけじゃなくて、出た頃は音に満足できなくて、買っては捨て、買っては捨ての連続だったんだって。
レコードに負けず劣らずのCDコレクション。そのまま再生されるのではなくい、DSを通すことで精緻な音に。
ハイレゾ音源によるビル・エヴァンスの『Explorations』。面出しはもちろんiPad。
カル: 落ち着いたのは?
コロ: 聴けるようになったのは〈フィリップス〉のCDプレイヤー「LHH700」が出たあたりかららしいよ。
カル: 今じゃ、ビル・エヴァンスの『Explorations』もハイレゾで聴くらしいね。
コロ: ジョン・コルトレーンの『Selflessness Featuring My Favorite Things』なんかもデジタルみたい。聴いていてドーンと来たね。コルトレーンのオーラが突撃してきたみたいだったよ。
カル: 大袈裟じゃない?
コロ: 細かいところまで再現性が高いから、音が雰囲気だけじゃないんだよ。〈LINN〉のDSプレイヤーの威力がすこぶる発揮されている。
カル: デジタルのよさだね。
コロ: それとワンオペだから、忙しいときにラクなんだってさ(笑)。とはいえ、圧倒的なレコードコレクションだし、オーディオもしっかりしているから、アナログもまったく遜色ないよ。
カル: 「ALTEC A7」のスピーカーに「JBL2405」+「JBL HARKNESS」をつけ足すというこだわりようなんでしょう。
コロ: よく知ってるね! アンプは「サウンドパーツ6550」。おまけにオーディオ評論家の岩崎千明さんの教えにより、お店中をパンチカーペットでくるんで、反響をおさえているほどの手のかけようなんだ。
ジョン・コルトレーンの名作『Selflessness Featuring My Favorite Things』。アナログとデジタルでかけてくれた。
スピーカーはこれまた〈ALTEC〉の名作A7に「JBL2405」をつけ足したりとチューンナップ。
カル: 選曲は基本50年代以降なの?
コロ: そうみたい。ブルーノートばかりがかかるお店じゃない。イタリアのアルボラン・トリオがかかったりして、かなりアップデートしている印象だったな。お客さんが教えてくれるんだって。それぞれに得意分野があるから、かなり感度の高い情報が入ってくるそうだ。ただし、ヴォーカルものはあまりかけないんだって。
カル: 外国人のお客さんも多いらしいね。
コロ: 英国のガイドブック『Lonely Planet』にも載っているらしい。「ジャズ好きにおすすめの店」って感じでね。
カル: 海外のガイドブックって、この手の店をしっかり取材しているよね。恵比寿あたりの取材拒否のレコードバーなんかも、普通に載っていたりするもんね。
コロ: 余談なんだけどさ、取材のときに聴かせてくれた音が、操作のあんばいで、最初は左チャンネルが鳴っていなかったんだ。音圧が強いな、くらいしか違和感がなかったんだけどね。それでコーヒーのみながらもう一度聴かせてくれた。聴き直すと別物だったよ。
カル: さすが、マスター、やさしい! で、コーヒーはどんなだって?
コロ: 深煎りのストロング・スタイル。
カル: まさに王道だ。
イタリアのジャズトリオ、アルボラン・トリオの『ISLANDS』。
ちょっと深煎りな味わいがとても芯があって美味。焙煎はお願いしているとはいえ、自身でブレンドはするそうだ。
information
Jazz et booze EONTA
住所:長野県松本市大手4−9-7
tel:0263-33-0505
営業時間:16:00〜23:00
定休日:水曜
【SOUND SYSTEM】
Speaker:ALTEC A7 +JBL2405+JBL HARKNESS
Turn Table:MICRO SX-555 FVW
Control Amplifier:McIntosh C36
Power Amplifier:Sound & Parts 6550(custom)
DS Player:LINN Akurate DS
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多