日本の食卓に欠かせない海苔やわかめなどの海藻。普段あまりにも当たり前の存在ゆえ、その価値や魅力に注目することは少ないかもしれない。しかし、今、海藻への注目が高まっている。
日本近海に約1500種を超える海藻が生息し、そのすべてが食用になり得るとされている。一方で、世界で類をみないほど海藻を食べるとされている日本でも普段の食卓に並ぶのは数十種類に留まっているという。
まだまだ海藻食文化は発展途上なのだ。そんな海藻の栽培や研究に取り組みながら、海藻食文化の普及に力を入れている〈合同会社シーベジタブル(以下、シーベジタブル)〉。
〈シーベジタブル〉共同代表の友廣裕一さん
「海藻が育つことで、海の環境もよくなるんです。環境問題への意識が高まり、さまざまなサステナブルフードが登場してきましたが、中にはサステナブルであるためだけに、つくられているものもあるので、食べずにいたほうが環境に負荷はないんです。
でも、海藻は食べて消費量が増えても、環境負荷をかけずにたくさん育てることができる。そして、海やそこに暮らす魚たちにとってもよりよい環境をつくることができる。食べることで地球環境に貢献できる稀有な存在なんです」と〈シーベジタブル〉共同代表の友廣裕一さんは話す。
日本の海藻食文化を守り、つなげていくために〈シーベジタブル〉共同代表の蜂谷潤さん。水質・栄養分析の専門家メンバーらと共に、海藻の栽培に適した設備開発や水質・栄養の分析をしながら、高品質の海藻育成を進めている。
そんな〈シーベジタブル〉のメンバーは、海藻や水質、栄養の専門家、海藻類の栽培を知り尽くした研究者、おいしい料理に仕上げるシェフなど、各分野のスペシャリストたちばかり。
社外の研究者や生産地の漁業関係者とも連携をしながら、海藻の研究と栽培、海藻の食べ方の開発や提案。そして海藻を届けるまでを一貫して取り組み、北は岩手県、南は沖縄県まで各地に拠点を設け、栽培のほか研究や種苗生産などを行っている。
「すじ青のり」は、青のりのなかで最も香り高いといわれる品種。〈シーベジタブル〉では徹底した鮮度管理によりすじ青のり本来の香りが楽しめる製品を提供している。
海の豊かさや資源を守りながら、持続可能な食文化を創造している〈シーベジタブル〉が、創業当時から主力製品として生産しているのが「すじ青のり」。青のりのなかで最も香り高く、最高級品種といわれる海藻だ。
スジアオノリの主産地であった高知県四万十川では、河口部の水温上昇に伴って収穫量が激減。2020年には出荷量がゼロとなるまでに陥った。
地下海水をつかって青のりを量産する陸上栽培は世界初の技術。
そこで〈シーベジタブル〉は、世界で初めてミネラル豊富な地下海水を清浄に用いて青のりを量産する陸上栽培を開始。独自に開発した設備や生産ノウハウによって、高品質なすじ青のりを通年で安定的に供給することに成功したのだ。
海面栽培により育まれる海の生態系。海面栽培には地元の漁師たちとの連携がなくてはならない。
近年は海面栽培に力を入れている。日本各地で海産物の漁獲量の減少が叫ばれているが、魚が生息するには海藻が不可欠。海藻が形成する藻場は“海のゆりかご”といわれるように、海の生態系のバランスを保つ役割を担っている。
しかし、気候変動により魚たちが海藻を食べる期間が長くなり、食害が発生。それにより藻場が激減していた。
そこで海面で海藻を育てることで、生態系のバランスを取り戻せないかと動き出したのだ。
「海藻を海で栽培していると明らかに魚の量が増えるんです。ずっと肌感で感じていましたが、最近、しっかりと調査をし、海藻の海面栽培の効果が実証されました」
食材としての海藻、その秘められた可能性とは?すじ青のりのほか、料理にもスイーツにも相性抜群の「とさかのり」、市場の約1割しかない国産のひじきのなかでも希少な若芽だけを使用した「若ひじき」、独特の香りと味わいがやみつきになる「はばのり」、すじ青のりをベースに本物の香りを追求した「青のりふりかけ」。以上がセットになった、海藻のおいしさを楽しめるギフトボックス 3400円(シーベジタブル公式オンラインストア価格)。
海藻の育成による環境改善効果が証明される一方で、消費を促進しなければ、生産の拡大は難しい。現状、世界を見渡しても海藻を多用する食文化は和食ぐらい。日本でも食が多様化し、和食を食べる機会が減ったことで、海藻の消費量は下降を辿っている。
2021年に誕生したテストキッチンでは石坂秀威シェフを中心に料理家たちが海藻の料理開発を行っている。デザートやドリンク、発酵調味料など、海藻の未知なる魅力を引き出す料理が日々生まれている。
「海藻=和食と思われがちですが、食材として向き合うとさまざまなポテンシャルが海藻にはあります。たとえば、乳製品や油との相性がすごくいい。そのため、和食以外の料理でも活用の可能性はたくさんあるんです。洋食、お菓子に加えるとおもしろい発見があります。
本来、海藻というのは魚以上に鮮度が重要なのですが、取引価格が低いことから作業が後回しにされがち。〈シーベジタブル〉では、獲ってすぐに洗い、数時間後には乾燥を開始し、24時間以内に完成します。そのため磯臭さが一切なく、料理にも使いやすいという特徴があるんです。所属するシェフとこれまでもいろいろな料理を提案してきましたが、実際にシーベジタブルの海藻を使った料理を食べていただくと、みなさん本当に驚かれますね」
徹底した品質管理でつくられる〈シーベジタブル〉の製品は、香りも格段にいい。香り成分が通常の青のりの約4倍近くもある。少しふりかけるだけで料理をレベルアップさせてくれる。
海藻は「海のやさい」と呼ばれるように栄養面でもうれしい点がたくさんある。海苔はタンパク質含有量が40%もあり、大豆以上のタンパク質含有量を誇る。さらには鉄、カルシウム、ビタミンなどの栄養素も豊富。旨み成分であるグルタミン酸も含まれていることから、減塩も叶うというヘルシーフードなのだ。
しかも、それが種をつけた網を海に浮かべるだけで、化石燃料、農薬、肥料を一切使わずに栽培できる。さらには海もきれいにできるということから、世界からエシカルでサステナブルな素材として、注目が高まっているのも納得だ。
「世界各地で海藻に関するスタートアップ企業や産業が増えています。産業としての注目も高まっていますし、海外の星つきレストランのシェフたちも素材としての可能性に関心を持ってくれています。
そういう意味でいうと、世界でこんなに海藻を食べている国は日本以外にないので、海藻の生産や加工、調理の技術や知見においては、日本は一歩も二歩も先を行っていると思います。実際、海外に行くと『日本の海藻はすばらしい』と言われますし、日本で海藻料理を学びたいというシェフも多くいます。
彼らの創造力と好奇心も高いので、我々も固定観念にとらわれていてはいけないなと感じています。海藻の価値や新しい食文化を広げていくためにもいろんな人と手をとっていきたいですね」
未来の海や食を守るために。 海藻が生んだ、多彩なコラボレーション国産の軟骨入りつくねに、香り高いすじ青のりをふんだんに加え、1本1本丁寧にこねて焼き上げた〈両国茶屋〉の「磯つくね串」1本324円。
たくさんの人に海藻の可能性を知ってもらい新しい食文化につなげていくため、この秋、大きなプロジェクトもスタートした。三越伊勢丹で開催されるイベント「EAT & MEET SEA VEGETABLE」だ。
バラエティ豊かなサンドイッチが揃う〈メルヘン〉の、すじ青のりを使ったタルタルソースを使った「すじ青のり香る玉子ハムチーズサンド(648円)」。磯の香りと塩気とクリーミーな卵が相性抜群。開発に携わった〈メルヘン〉の担当者も「定番にしたい」というほどの自信作。
今回120ブランド以上とのコラボレーションが実現。和洋中のお惣菜、ラーメン、ビリヤニ、サンドイッチ、チョコレートにフィナンシェ、アイスクリーム…。海藻の可能性を存分に楽しめる、170商品を超える商品が店頭に並ぶ。いずれも一見、斬新な組み合わせながらも、食べるとなんだか昔からあったような、おいしさが味わえるメニューばかり。
海藻の相性の良さに驚くかもしれない、充実した洋菓子のラインナップ。どのメニューもしっかりと海藻を理解しているからこそ生まれた味。「意外とおいしい」ではなく、「ちゃんと海藻の味が楽しめて、すごくおいしい」という仕上がり。
「三越伊勢丹のバイヤーさんに、ブランドの背景、海藻の基礎知識を知っていただくだけでなく、実際に海藻を試食してもらい、栽培している海も見ていただきました。私たちの想いをお伝えさせてもらったんです。そしてその想いを各店舗さんへ熱量を持って伝えてくださった。そこから、各店舗のみなさんがアイデアを膨らませて、本当にバラエティ豊かな海藻メニューが生まれました。
日本橋兜町の人気チョコレートショップ〈ティール〉の「アオサシトロネット(2801 円/100点限り)」。シトロネットにあつばアオサをまぶした、新感覚のチョコレート。
未知の組み合わせを通して『おいしい』と感じることで、新しい可能性を感じていただけるだろうし、自分でもつくってみよう、また食べたいと感じてもらえると思うんです。その積み重ねが、いつか食文化になっていくはず。なにより新しいおいしさに出合えるのは楽しいですよね。ぜひ、実際に体験してみてもらいたいです」
新たなおいしさとの出合いだけでなく、食べることで環境貢献や産業の活性化にも参加できる。海藻には、持続可能で平和な未来を切り開く可能性が秘められているようだ。
information
合同会社シーベジタブル
Web:合同会社シーベジタブル
オンラインショップ:合同会社シーベジタブルオンラインストア
EAT & MEET SEA VEGETABLE
Web:EAT & MEET SEA VEGETABLE
開催場所:東京都中央区日本橋室町1-4-1 日本橋三越本店 本館地下1階
開催期間:9/25(水)〜10/8(火)
*価格はすべて税込です。
writer profile
Ai Hanazawa
花沢亜衣
はなざわ・あい●編集者/ライター/コンテンツディレクター。2023年に独立し、WEB、雑誌を中心に食、ライフスタイルに関するコンテンツの制作に携わる。三度の飯より食べることが好き。明るいうちのアペロがあればしあわせ。Instagram:@aipon79
photographer profile
Hiromi Kurokawa
黒川ひろみ
くろかわ・ひろみ●フォトグラファー。札幌出身。ライフスタイルを中心に、雑誌やwebなどで活動中。自然と調和した人の暮らしや文化に興味があり、自身で撮影の旅に出かける。旅先でおいしい地酒をいただくことが好き。https://hiromikurokawa.com