岐阜県恵那市の「恵那駅」を起点に、風光明媚な山間部を走る明知鉄道。昭和9(1934)年に開業し、昭和60年に国鉄(現JR)から第3セクターに引き継がれ、今年で90周年を迎えます。この明知鉄道の名物列車となっているのが、季節ごとに地元の名産を味わえる食堂車。9月1日から11月30日までは、秋の味覚が楽しめる〈きのこ列車〉が運行中です。
50分ほど列車に揺られながら、秋グルメを楽しむ〈きのこ列車〉は、1日1便「恵那駅」を12時25分に出発し、車窓の風景を楽しみながら、きのこづくしの食事を味わうツアー。
車窓からは美しい田園風景が続き、稲刈りシーズンは黄金色の畑が絵画のよう。
車内で楽しいアナウンスを聞かせてくれる営業主任であり、アテンダントの小崎聡美(こざきさとみ)さん。
食事は、地元で採れたきのこを味噌あえや、うま煮、天婦羅などでいただくきのこづくしに、きのこ御飯と土瓶蒸しがついた、ぜいたくな内容となっています。この懐石弁当は日替わりで3店舗が交代でつくっているため、小崎さんは、「それぞれのおいしさを楽しんでいただくために、ぜひ3回ご乗車ください」と話し、乗客の笑いを誘います。
黒皮茸やあみ茸など、珍しいきのこの味覚がたっぷり味わえるこの日は、〈明智ゴルフ場レストラン〉が提供する〈きのこの懐石料理〉。ほんのりした苦味と香り高い黒皮茸(ロージ)、あみ茸(いくち)の菊花あえなど、珍しいきのこを風味豊かに味わうことができます。
ボリュームのある懐石弁当。
きのこ御飯はお替り可能と盛りだくさんの内容。
また、同乗してくれる料理店のスタッフが、きのこ御飯や土瓶蒸しをその場で盛りつけ、あたたかい状態でテーブルへと運んでくれます。
列車内で忙しそうに働く料理店のスタッフの佐々木さん。気さくな人柄で、車内で名産品の販売もしてくれていました。
天婦羅は添えられた抹茶塩でいただくと、さらに香り高い味わいが楽しめます。予約時に確認すれば、どの会社のお弁当か教えてくれるそうですが、せっかくなら、それは当日のお楽しみにしてみては。
食堂車は、もともと、この沿線にある山岡町の細寒天が、生産日本一ということを多くの方に知ってもらおうと、寒天づくしの懐石弁当を味わう〈寒天列車〉を走らせたのが始まりなのだとか。寒天がヘルシーでダイエットにも効果的ということが広まり、人気列車となりました。
このほか、12月1日からは〈じねんじょ列車〉、1月18日〜3月29日の土曜日限定で、地酒〈女城主〉を味わう〈枡酒列車〉が運行するなど、魅力的なラインナップが続いていきます。
車窓の風景に感嘆の声を上げながら、和気あいあいと食事を楽しむ乗客たち。この日は2車両とも満席の人気ぶり。
帰りはフリー切符で、途中下車の小旅行を楽しむ明知鉄道は、総延長が約25キロメートル、11駅と短い路線ですが、終点の「明智駅」にある〈大正村〉をはじめ、女城主の城で有名な岩村城下町のある「岩村駅」、ユニークな駅名で有名な「極楽駅」、「農村景観日本一展望所」に選ばれた「飯羽間(いいばま)駅」など、途中下車の旅が楽しめるのも人気のひとつ。
終点の「明智駅」に到着後、帰りはフリー切符なので、途中下車を楽しみながら、自由にプランを組み立てることができます。
ここ明智駅は、駅名の由来にもなっている戦国武将、明智光秀の生誕地のひとつといわれています。まちなかを歩くと、〈産湯(うぶゆ)の井戸〉や〈光秀公御霊廟〉といった光秀ゆかりのスポットや光秀にちなんだ土産も販売されているので、歴史好きの方は、ぜひ散策してみて。
また、明智町は、町全体に大正時代の建物が点在し、大正ロマンの味わえるエリアとしても人気。日本大正村役場や逓信資料館など、当時の雰囲気をそのまま伝えてくれています。
郵便局には懐かしい丸型ポストやレトロな建物が建ち並びます。
大正時代のレトロな雰囲気が楽しめる大正村浪漫亭へ到着後、最初の折り返し列車が30分後なので、時間のない方は、駅から徒歩5分のところにあるレトロな外観の〈大正村浪漫亭〉がおすすめ。栗きんとんやバームクーヘン、プリンといったオリジナルスイーツや地酒、調味料など、明智町や恵那市の特産品がたくさんそろっています。
アンティークな雰囲気の館内に併設されたカフェでは、「光秀ハヤシ」(1100円)や「はいから浪漫パイセット」(570円)も楽しめます。
information
大正村浪漫亭
住所:岐阜県恵那市明智町456
TEL:0573-55-0057
営業時間:9:30〜17:00(カフェは〜16:00)
定休日:年末年始のみ
Web: 大正村浪漫亭
明知鉄道は単線のため、1〜2時間に1本、折り返し運転しています。
女城主の城として知られる岩村城下町でタイムスリップ途中下車の旅で「岩村駅」へ。ここは江戸時代、商家が栄えた町並みが残り、まるで時代劇のワンシーンに入り込んだような雰囲気を楽しめます。最近では、NHK朝の連続テレビ小説『半分、青い。』のドラマロケ地としても有名になりました。
重要伝統的建造物群保存地区に指定され、江戸時代の風情が今も残る町並み。
このまちには、約800メートルにも及ぶ石畳の残る岩村城跡があります。城主であった遠山景任(とおやまかげとう)に嫁いだ織田信長の叔母であるおつやの方が、景任の死後、城主となったことから、〈女城主の城〉と呼ばれるようになりました。
創業200年以上の老舗の酒蔵で人気の銘酒を味わうこの名前を使用した岩村醸造がつくる〈女城主〉は、このまちの特産品のひとつとなっています。店構えも、江戸時代の風格をそのまま残し、230年以上続く酒蔵として、まちのシンボル的存在となっています。
甘酒アイスクリーム(200円)は人気で、売り切れてしまうことも。
入口すぐには人気の銘柄〈女城主〉や〈幻の城〉、お酒好きにはたまらない大吟醸も並んでいます。うなぎの寝床のような細長い店内では、無料でお酒の試飲体験も楽しめます。
400年前に掘られた井戸の天然水を使用してつくられる酒はまさに百薬の長。
information
岩村醸造
住所:岐阜県恵那市岩村町342
TEL:0573-43-2029
営業時間:9:00〜18:00
定休日:元旦のみ
Web: 岩村醸造
江戸時代、長崎遊学していた初代店主が、伝授された製法を代々受け継ぎ、今も昔ながらの味わいを楽しませてくれている〈松浦軒本店〉の〈カステーラ〉。ふんわりした食感と甘さは懐かしさいっぱいのおいしさです。
恵那の銘菓・栗きんとんや栗蒸し羊羹など季節の和菓子も販売しています。
〈カステーラ〉はお土産にも最適。1本530円。
information
松浦軒本店
住所:岐阜県恵那市岩村町本町3-246
TEL:0573-43-2541
営業時間:8:30〜19:30
定休日:元旦のみ
Web: 松浦軒本店
食べ歩きにぴったりの五平餅はこの地域の昔ながらの郷土食です。地域によって味も異なり、しょうゆや味噌をベースにクルミやゴマなどを加えてつくります。〈五平餅あまから岩村〉は、形状はダンゴで、甘めのしょうゆ味です。アツアツの焼き立ては香ばしくて、食欲をそそります。
1本120円とお財布にもやさしい五平餅。
information
五平餅 あまから岩村店
住所:岐阜県恵那市岩村町1575-2
TEL:0573-43-2035
営業時間:9:30〜18:30
定休日:月曜(祝日の場合は営業)
ゆったりとした時間の流れるのどかな田園風景と、昔ながらのまちなみに癒やされる明知鉄道の旅。旬の食事を楽しみながら、のんびりゆったりローカル列車でのひとときを楽しんでみてはいかがでしょうか。
information
明知鉄道株式会社〈きのこ列車〉
住所:岐阜県恵那市明智町469-4
TEL:0573-54-4101
料金:大人6000円、子ども(小学生以下)3800円(500円相当のお土産つき)
運行期間:9〜11月(月曜運休/休日の場合は運行)
出発時間:恵那駅12:25発/明智駅13:19着
Web:明知鉄道
writer profile
Naomi Kuroda
黒田 直美
くろだ・なおみ●愛知県生まれ。東京で長年、編集ライターの仕事をしていたが、親の介護を機に愛知県へUターン。現在は東海圏を中心とした伝統工芸や食文化など、地方ならではの取り組みを取材している。食べること、つくることが好きで、現在は陶芸にもはまっている。