「お酒+α」で、そこに集った皆がつながるアートイベント「八戸横丁月間 酔っ払いに愛を 2024」が今年も開催されます。戦後の闇市が始まりといわれる、日本全国の横丁。狭い空間で肩を寄せ合い、しっぽり飲むという、どこかアンダーグラウンドなイメージがつきまといます。しかし、最近では、インバウンド人気や昭和リバイバルもあり、誕生年数が少ない健全なイメージで、気軽に入れる横丁も全国に増えてきました。青森県八戸市には、戦後にできたディープな横丁から、比較的新しい横丁まで、なんと8つの横丁が存在します。
妖しい魅力で酔客を魅了する八戸の横丁文化まず紹介するのは、比較的入りやすい5つの横丁。2002年東北新幹線八戸駅の開業を記念してできた〈みろく横丁〉は、八戸市中心街にあり、道幅は狭いですが、外から店内が見えるため、横丁初心者でも安心して楽しめます。みろく横丁と交差する〈花小路〉も、マチニワや八戸ブックセンターに通じるため、人通りも多く入りやすい雰囲気。藩政時代に牢屋があったため〈ロー丁(ろーちょう)れんさ街〉と呼ばれる横丁は、戦後引き揚げ者のためにできたマーケットでした。そこと隣接する〈長横町れんさ街〉は1945年から続く飲食店街で、長横町の中ほどには、かつて駐留米兵のためのローラースケート場があったそう。〈ロー丁れんさ街〉〈長横町れんさ街〉〈八戸昭和通り〉は比較的道幅も広く、お店に入るハードルは低め。
そして、次の3つの横丁は、道幅も狭く薄暗い、ディープな雰囲気の横丁です。〈たぬき小路〉は道幅の狭さや看板など、古い映画のセットのように昭和の趣がそのまま残っています。そこから続く〈五番街〉はひとりしか歩けないような小路沿いに、隠れ家的なお店が並びます。〈ハーモニカ横町〉も、1945年から続く飲食店街で、小料理屋からエスニック料理まで多種多様なお店が営業しています。
これらの多彩な横丁を、初めての人でもディープに楽しんでほしい。そのためにさまざまなイベントを10月に凝縮し、常連客や観光客関係なく、誰もがピースに楽しむことができる催しにしたのが、アートイベント「酔っ払いに愛を2024」なのです。八戸の横丁の魅力をファンタジックに加速させるこのイベントについて、実行委員会の方にお話をうかがいました。
八戸横丁の魅力を味わうアートプロジェクトとして2009年にスタート現行の「酔っ払いに愛を」は2014年から始まりましたが、そもそものはじまりは2009年でした。八戸の10月は、夏祭り「三社大祭(さんしゃたいさい)」が終わった後の飲食店の閑散期。また、全国の都市と同様に、八戸でも郊外化が進み、中心街の空洞化が問題視されていました。そういった横丁の課題や可能性をアートの視点から盛り上げることができないか。八戸ポータルミュージアムが主導し、民間の助成金事業としてスタートしたのが「横丁オンリーユーシアター」でした。
「横丁オンリーユーシアター」は横丁の路地や空き店舗を舞台に、約10団体のパフォーマーが、ダンスやお芝居、お笑い芸などを披露。横丁の酔客たちとハプニング的にコミュニケーションし、その瞬間ならではのパフォーマンスを生み出します。この「横丁オンリーユーシアター」に、「地酒で乾杯!」「横丁飲みだおれラリー」「八戸さんぽマイスターによる横丁探訪」といったさまざまな主催者によるイベントが加わり、現在の「八戸横丁月間 酔っ払いに愛を」という複合イベントになり、毎年10月に開催されてきました(2021年のみ中止)。
「酔っ払いに愛を」を統括し、「横丁オンリーユーシアター」のプロデュースを手がけるのは、酔っ払いに愛を実行委員会の皆さん。事務局・八戸ポータルミュージアムのコーディネーター・寺地菜摘さんと、主査・坂本淳美さんが、このイベントの魅力について語ってくれました。
左から、坂本淳美さんと寺地菜摘さん。八戸ポータルミュージアム〈はっち〉にて。
「横丁は、人と人のつながりや、愛を感じられる場所。その魅力を、初めての方にも安心して体験してもらえるのがこのイベントです」
15年前から続いているだけあり、八戸というまちの個性が伝わるエピソードもたくさんあるといいます。
「今年も出演してくださるロービングパフォーマーのun-paさんが2018年にパフォーマンスした際の話です。un-paさんは全身銀色で、どう見てもパフォーマンスしている方なのに、白い紙を掲げて立つun-paさんを、タクシーの運転手が乗せて走り去ってしまいました。実行委員の担当者が慌ててタクシーを拾ってun-paさんを追跡したことがあります」
八戸は、酔っ払いだけではなく、タクシーの運転手もノリが良さそう。
まずは地酒で乾杯して飲みだおれラリー実行委員のおふたりがおすすめするのは「横丁オンリーユーシアター」だけではありません。まず初日10月1日に開催される「日本全国地酒で乾杯!」は、青森県南位や東北の蔵元が集合し、地酒の飲み比べができる企画。日本全国を中継でつないで乾杯するので、全国の酔っ払いの方々との一体感も高まります。
10月16日の「今夜はハシゴしNight!」もお得。3000円(チケット購入必要)で、あらかじめ決められた5軒のお店を巡ります。それぞれのお店で、ドリンク一杯とおつまみ1品がつくうえに、抽選で景品も当たるそう。自分ではチョイスしないお店にも、ラリーで巡るため、新たな出会いも生まれます。ハシゴして飲むスペインのバル文化ならぬ、八戸のハシゴ酒の流儀を堪能できそうです。
八戸を知り尽くした、八戸さんぽマイスターによる横丁ツアー「八戸横丁ラビリンス探訪」も人気だそう。ひと癖もふた癖もある八戸訛りの八戸さんぽマイスターから、横丁の歴史を聞きながら、裏メニューを頬張り、参加者限定カクテルを傾けるのはいかがでしょうか。保険代におつまみワンドリンクがついて1800円。4日、5日、11日、12日の合計4日間開催されるので、この機会に八戸の横丁のラビリンスに迷い込んでみては。
横丁を舞台に繰り広げられるライブパフォーマンス「横丁オンリーユーシアター2024」は、今年で15回目。10月4日と5日に開催されます。4日18時からは八戸の中心街に位置する広場〈マチニワ〉にパフォーマーたちが大集合し、チケットなしでオープニングイベントを鑑賞することができます。ほかにも路上やどこかのお店で、突然パフォーマンスがはじまることもあるそう。
「コロナ禍が明けて今年から、お客様が飲みながら横丁を歩き回れることになったので、パフォーマンスする側としても楽しみです」と語るのは、八戸市と十和田市を中心に活動するジャズダンス集団〈DANCE WAG(ダンスワグ)〉代表の沼尾美也子さん。
〈DANCE WAG〉は2017年から毎回白い仮面をつけ、5〜8人の集団でジャズダンスをベースにした妖しい踊りを披露しています。今回のパフォーマンスでは、20〜60代のダンサーが参加予定で、目下新作を練習中だそう。「毎回とにかくお客様のノリがよくて、踊っていてすごく楽しいんです。お客さんを巻き込んでいくスタイルなので、私たちを見にきたら羞恥心は捨てて一緒に楽しみましょう」とお客様へのメッセージもいただきました。
長横町れんさ街でポーズをとる〈DANCE WAG〉のメンバー。〈DANCE WAG〉は八戸市と十和田市で教室を持つダンススタジオ。10代から60代までの生徒さんがいるなかで、今回は、代表の沼尾美也子さんほか選抜メンバーで横丁に繰り出します。
たぬき小路にて。
この仮面を見たら積極的に絡みにいきましょう!
昨年のマチニワでの公演の様子。
そのほかの出演パフォーマーは、五十嵐ゆうや(ダンスパフォーマンス)、KANTA(和太鼓)、清水宏(スタンダップコメディ)、セ三味ストリート(肉体派津軽三味線パフォーマンス)など、盛りだくさん。公演はひとつおよそ20分で、プログラムはこちらから確認できます。チケットの種類は、2種類あり、3公演鑑賞券とワンドリンク引換券がついて1500円と、1公演のみ鑑賞できるワンコインチケット500円。
昨年はオープニングイベントの演出も担当した五十嵐ゆうやさん(右)のパフォーマンス。
昨年に引き続き2度目の出演の和太鼓パフォーマーKANTAさん。
「三陸国際芸術祭2024 三陸芸能大発見サミット」では迫力の伝統芸能も10月11日から3日間、八戸ポータルミュージアム〈はっち〉や〈マチニワ〉、横丁周辺で開催される「三陸国際芸術祭2024 三陸芸能大発見サミット」は、岩手県陸前高田から青森県八戸にまたがる三陸沿岸各地域の芸能団体と、台湾から招聘した芸能団体が一堂に会し、野外などで演舞を披露します。無料で迫力の伝統芸能が鑑賞できる滅多にない機会です。
10月18日には本格ベトナム料理が食べられる〈ロブ フォートンズ〉では、「酔っ払いに愛を」公式テーマソングを歌う〈OTOMEOTO〉らのライブも開催されます。「酔っ払いに愛を 2024」の盛りだくさんのラインナップを見れば、八戸というまちのサービス精神が伝わってきます。10月は八戸の横丁で酔いどれてみたいですね。
information
八戸横丁月間 酔っ払いに愛を2024
住所:青森県八戸市中心街 横丁各所
会期:2024年10月1日(火)〜10月31日(木)
Web:八戸横丁月間 酔っ払いに愛を2024
第12回日本全国地酒で乾杯!
日時:2024年10月1日(火)18:00〜20:00
会場:八戸まちなか広場 マチニワ
八戸さんぽマイスターと行く横丁特別編〜八戸横丁ラビリンス探訪〜
日時:10月4日(金)・11日(金)18:30〜20:30
10月5日(土)・12日(土)17:30〜19:30
(終了時間は目安)
料金:1800円(保険代、つまみ、ワンドリンク付)
申し込み:八戸さんぽマイスター(慶長) 080-1808-2138
横丁オンリーユーシアター2024
日時:2024年10月4日(金)18:00〜21:00、5日(土)18:00〜21:40
会場:八戸市中心街と横丁各所
チケット:回数券チケット1500円(3公演鑑賞券+ワンドリンク引換券)
ワンコインチケット500円(各公演会場で購入可能)
購入方法:八戸ポータルミュージアム はっちより購入予約可能(チケット引き換えは、はっちにて)
今夜はハシゴしNight ! 横丁連合+@飲みだおれラリー
日時:2024年10月16日(水)17:00〜
受付・抽選:長横町ムーンプラザ ファサード
チケット:チケット3000円(ワンドリンク×5軒と、景品が当たる抽選券)
販売所:八戸ポータルミュージアム はっち、アミティ、大松たばこ店ほか
三陸国際芸術祭 2024 三陸芸能大発見サミット
日時:2024年10月11日(金)18:30〜20:00(前夜祭)
2024年10月12日(土)12:00〜20:30
2024年10月13日(日)11:00〜16:00
会場:マチニワ、はっち、市庁前市民広場、みろく横丁ほか横丁周辺
Robphotons LIVE MUSIC
日時:2024年10月18日(金)19:00〜21:00
会場:ロブ・フォートンズ八戸店
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Ji to zu
字と図
青森で暮らす夫婦ふたりデザイン事務所。文字執筆編集者(吉田千枝子)とデザイナー(よしだすすむ)のユニットです。ハーブと庭づくりにはまってます。http://jitozu.com/
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撮影:西川幸冶(STUDIO・2GRAM)