伊豆下田のおすすめとして〈山田鰹節店〉をあげるという津留崎徹花さん。その場で薄削りにして販売してくれる鰹節に、紹介した誰もがリピートするようになるのだとか。
そんな山田鰹節店のご家族に、鰹節やさば節での出汁のとり方を実演してもらい、これだけで立派な料理の一品になると思えるほど感動したようです。
今回は、徹花さんが教えてもらった基本となるだしの取り方や鰹節とさば節の使い分け、そして出汁を使った家庭料理のレシピを惜しみなく紹介します。
この夏も、遠方からたくさんの友人が下田に遊びにきてくれました。海水浴を楽しんだり、おいしい海の幸・山の幸を堪能したり、いろんな人と出会ったり。
みんな大満足の様子で「またくるね!」と言うので、そのたびに下田って本当にいいところなんだな〜と感じています。
そんな友人や知人からよく下田のおすすめ情報を聞かれるので、おすすめリストをつくってあります。そのなかの一軒が〈山田鰹節店〉という鰹節屋さんです。訪れた友人たちが必ず気に入るお店で、リピート率ほぼ100パーセント。
以前にもこの連載でご紹介したことがあるので、詳しくはこちらを読んでいただければと思います。今回はその山田鰹節店さんに、出汁のとり方から鰹節やさば節を用いたおすすめの料理などを教えていただきました。これが本当に感動的で、自分の人生がちょっと変わったかも、というくらいの気づきがあったのです。
お店はご家族4人で切り盛りされています。社長の山田悦子さん(左)とお姉さんの高橋和子さん(右)、お兄さんの山田光弘さん(中左)、甥っ子さんの高橋昌史さん(中右)。左の箱がさば節、右側の箱が鰹節です。
今回教えてくださったのは、山田鰹節店を営む高橋和子さんと山田悦子さん姉妹。おふたりは和子さんの息子の昌史さんと3人暮らしをしていて、朝昼晩とほとんどの食事をともにしているのだそうです。朝ごはんをつくるのは和子さん、昼ごはんと夕飯は悦子さんの担当。
まずはじめに教えていただいたのは、肝心かなめの出汁のとり方。山田鰹節店さんには古く使い込まれた削り機が設置されていて、鰹節やさば節を、その場で薄削りにして販売しています。どちらも根強い人気商品なのですが、鰹とさば、どんな風に使い分ければいいのでしょうか。
「鰹節は上品な味わいなので、お吸い物や煮物に重宝しますよね。さば節はそれよりも主張が強いので、お肉なんかにはとても合うんですよ」と和子さん。
鰹節
1 1リットルの水を鍋に入れ、昆布を浸してひと晩おく。(昆布の種類によって分量は変わるので、お好みの量で)
2 翌朝、鍋を火にかけ、ごく弱火で20分ほど炊く。昆布を取り出し、30グラムの鰹節を入れる。ぽこぽこ泡が立つ程度の火加減で2〜3分煮る。
3 火を止めたら少し冷めるまで置いておく。ザルにあげてぎゅっと絞る。
さば節
とり方は鰹節と同様。煮る時間を少し長めに。4〜5分が目安。
出汁をとりながら、そのつど味見をさせていただきました。まずは昆布だけでとった出汁をひと口。使用している昆布は、店頭でも販売されている羅臼の赤葉という昆布です。20分かけてじっくり引き出された昆布の香りが広がります。
次は、鰹節を入れて煮た一番出汁。とても上品な味わいながら、鰹の旨みと甘みが広がり「うぅ、お、おいしい……」と、声がもれるほど。さらに「これちょっとだけ入れてみて」ということで、塩をほんのひとつまみだけ入れてみる。すると上品な鰹出汁がグッと引きしまり、旨みがさらに凝縮して感じられる。
これが本当に感動的なおいしさで、これだけですでに立派な料理の一品になると思えるほど。(あまりにも感動したので、その晩は家族に、翌日は友だちに実演試飲させたほどです)
たった少しの塩で、これほどまでに味わいが変わるものかという驚きとともに、あまりにもおいしくて、もし私が病床にふしたときにはこの出汁プラス塩が飲みたいと思ったのです。
ザルでぎゅっとこした出汁もいただいてみる。しっかりと鰹の風味が溶け出し、どんな家庭料理をも支えてくれる頼もしさ。
さらに、さば節でとった出汁も味見。鰹節に比べると塩気を強く感じ、魚の力強さがある。たしかに、これくらいパンチがあると脂っ気のある肉料理と調和できるのか、と納得です。
ひどく感動している私に、「出汁って言葉にならないんだけど、どこかホッとするんだよね。たったひと口の出汁が人をホッとさせてくれるの」と和子さん。
鰹とさば、それぞれに個性があり持ち味がある。夕飯当番の悦子さんは、その日の献立によって「さて今日は鰹にするか、さばにするか」と考え、店頭にとりにいくのだそう。鰹出汁とさば出汁に合う、ご家族のおすすめ料理も教えていただきました。
材料
・鰹出汁・新玉ねぎ・塩・酒・醤油・みりん
1 玉ねぎは根っこの部分に十文字の切り込みを入れ、火を通りやすくする。
2 玉ねぎを鍋に入れ、ヒタヒタになるまで鰹出汁をそそぎ、蓋をしてやわらかくなるまで中火で20〜30分煮る。
3 調味料で薄めに味つけをする。
出汁とほんの少しの調味料だけ、そしてほったらかしの簡単料理。でありながら、新玉ねぎの甘みと鰹出汁が混じり合い、オニオングラタンスープのような深みのある味わいに。
材料
・さば出汁・豚肩ロース肉(バラ肉など、お好みの部位で)・キャベツの千切り・醤油・みりん・お酒
1 鍋にさば出汁と調味料を入れて火にかける。(キャベツから水分が出るので、味つけは少し濃いめに)
2 キャベツの千切りを入れ、少し柔らかくなったら豚肉を上にのせる。豚肉に火が通ったら完成。
3 シメに、うどんやラーメンを入れるのもおすすめです。
さば節はよい品質のものを仕入れないと、臭みのある出汁になってしまうのだそう。仕入れるさば節も吟味を重ねたもの。臭みのない、透き通ったおいしいさば出汁です。
材料
・鰹節・炊いたごはん
1 炊き上がったごはんの上に、鰹節をのせ、醤油を少したらす。お好みで生わさびのトッピングなども相性抜群です。
カメラマンという職業柄、ほかの鰹節屋さんを取材することもあります。その度に、山田鰹節店さんの鰹節の素晴らしさに気づかされてきました。口に入れると柔らかくて甘みが広がり、出汁をとると臭も濁りも渋みもない、ただ旨いのです。
この日は、食べる直前に鰹節を削ってくださいました。それをごはんにのせて口にしたときの感動といったら! まだ少し水分を含んだふんわりと柔らかい鰹節、もう最高でした。
「めんだし厚削り」と、「かつお削り節」(うす削り)。Webや電話での注文も可能です。
先ほど使用した鰹とさばの薄削りのほか、お店の人気商品のひとつが「めんだし厚削り」。こちらを用いためん出汁のつくり方をご紹介します。
材料
・昆布適量・めんだし厚削り 50グラム・水 1リットル
[調味料]
・醤油 1カップ・みりん 1カップ・酒 50cc・砂糖 大さじ1
1 1リットルの水を鍋に入れ、昆布を浸してひと晩おく。翌朝、鍋を火にかけてごく弱火で20分ほど炊き、昆布を取り出す。厚削りを入れ、ときどきかき混ぜながら中火で20分ほどグラグラと煮る。
2 もうひとつの鍋に調味料をすべて入れ、ごく弱火で20分煮立てておく。
3 1でとった出汁4カップと、2の調味料を合わせる。
こちらがめんだし厚削り。鰹とさば、宗田鰹の厚削りが合わせてあり、上品な鰹と強めのさば、どっしりとした宗田鰹が混ざることによって、コクと奥行きのある、めん出汁に仕上がります。
煮立てた調味料に出汁を合わせる。つくりたてよりも、数日寝かせたほうがまろやかになるとのことです。
和子さんは一度にたくさんの量をつくっておき、タッパーなどの保存容器に入れて冷凍しておくのだそうです。解凍すればすぐに使えるので、とても便利。
ご家庭の食卓によく上がる、めん出汁を使用したおすすめのお料理も教えていただきました。
材料
・めん出汁・好みの野菜
1 野菜を食べやすい大きさに切る。(タケノコは下茹でをしておく)
2 フライパンに油を少量ひいて熱し、野菜を並べて中火で焼く。裏返したら弱火にして蓋をし、火がとおるまで蒸し焼きに。
3 鍋にめん出汁を温めておき、野菜を入れて味を含ませる。
韓国風ドレッシング(左)と、柑橘ドレッシング(右)。
韓国風ドレッシング
材料
・めん出汁・すりごま・ごま油・ニンニクのすりおろし・コチュジャン・お好みで、砂糖やハチミツ
柑橘ドレッシング
材料
・めん出汁・新玉ねぎのみじん切り・新玉ねぎのすりおろし(水気を少し切る)・生姜のすりおろし・醤油少々・レモンの搾り汁(ほかの柑橘でも)・お好みで、砂糖やハチミツ
手前は韓国風ドレッシングをかけたチョレギサラダ(レタスやわかめ、新玉ねぎのスライスなど)。奥はハムなどをのせた洋風サラダに柑橘ドレッシングをかけたもの。さっぱりとした味わいで無限に食べられてしまいます。
今回、和子さんと悦子さんの手料理をいただいたことで、改めて出汁というもののすばらしさを知りました。ついつい面倒だと思いがちなのですが、出汁さえしっかりとれば、シンプルな材料と味つけで料理が数段おいしくなる。そして何より、こんなにホッとする味ってほかにあるのだろうかと。
「体にやさしくて心がホッとする。日本が誇るすばらしい文化だと思うんです」と悦子さん。
そうした文化を今一度見直して欲しい、そうおふたりは話します。その理由は? とあえて質問してみたら、「だって、こんなにおいしいんだもん。それを知らないなんてもったいないよね」と。心の底から、納得です。
「質の悪い鰹節で出汁をとると、臭みや濁りがあっておいしくないんです。だからうちは品質にこだわって、本当においしい出汁をみなさんに味わってほしいと思ってます」と悦子さん。
日本最古の歴史書『古事記』には、鰹節の原型とされる「堅魚(カタウオ)」について書かれているそうです。室町時代には「焙乾」という技術が加わり、いまの鰹節に近いものがつくられるようになったといいます。もうずっと昔から、鰹節は日本人の遺伝子に組み込まれていたのですね。だからか、とても心が落ち着くのです。
information
山田鰹節店
住所:静岡県下田市2-2-15
tel:0558-22-0058
営業時間:8:30〜19:00
定休日:水曜
Web:山田鰹節店
文 津留崎徹花
text & photograph
Tetsuka Tsurusaki
津留崎徹花
つるさき・てつか●フォトグラファー。東京生まれ。料理・人物写真を中心に活動。移住先を探した末、伊豆下田で家族3人で暮らし始める。自身のコロカルでの連載『美味しいアルバム』では執筆も担当。