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上から音が降ってくる!? 激戦区・京都にニューオープンしたミュージックバーとは?

  • 2024年8月21日
  • コロカル

音楽好きコロンボとカルロスがリスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは京都市。

森に彷徨い込んだようなおだやかなサウンドスケープ

コロンボ(以下コロ): 音が上から降ってくるって気持ちいいもんだね。すこぶる心地いいので、チルっちゃったよ。

カルロス(以下カル): 〈ドルビーアトモス〉とかの空間オーディオってこと?サラウンドを進化させた7.1.4chのいわゆる多次元システムで聴いたのかな?

コロ: 京都にある〈FUL〉っていうミュージック・ラウンジなんだ。いわゆる空間オーディオの文脈とはちょっと違くて、サウンドフォレストと標榜するだけに、森に迷い込んだみたいなんだよ。

ソファと木があふれる店内。

北アフリカやモロッコの建築様式をベースにつくり上げたサウンドフォレスト。

カル: FPM(Fantastic Plastic Machine)の田中知之さんがプロデュースしたスペースだよね。空間オーディオとはどう違うの?

コロ: いま、いちばんイケてるアメリカの〈1 SOUND〉ってところのスピーカーシステムを採用していて、すべてのスピーカーは天井に配置されているんだ。

カル: 〈1 SOUND〉っていえば、クラブイベントで人気の〈VOID〉に続く、サウンドシステムのアップカマーだね。

コロ: そうそう。セレブや音楽好きがこぞって集まるバリ島のスミニャックにあるビーチラウンジ〈POTATO HEAD〉のシステムもそうだよ。

カル: 〈POTATO HEAD〉っていえば、この間、細野晴臣さんも出た〈NTS One Day Bali〉が行われたところだ。〈1 SOUND〉って何がすぐれているわけ?

コロ: 田中さんによれば、非常に解像度がよくて、周波数帯の整理が行き届いているんだって。

カル: 周波数帯の整理が行き届いてるって?

コロ: ある程度の音量で聴いたとき、ダイナミズムをたっぷり感じるにもかかわらず、人の会話も聞き取りやすいってこと。

カル: ラウンジにはうってつけだけね。

コロ: しかも小口径のスピーカーにも関わらず、いい音圧でちゃんと鳴るんだ。

テーブルと木にあふれる店内。

森に迷い込んだような空間。プラントデザインは〈MAESTRO〉の綛谷武史さんと〈松竹園〉の竹岡篤史さんが担当。

店内の壁にも自然のアート。

店内は3つの空間から構成される。自然光が入る日没前の独特の表情もまたたまらない。

カル: 音源はレコードなの?

コロ: これがすべてデータ。音の出口はこだわるけど、入口はある程度のもので鳴らしてしまうというところを目指したんだって。

カル: うーむ、たしかに現代的な考え方だね。

コロ: そもそもミュージックバー的なものをつくってくださいという依頼に対して、田中さんはいわゆるミュージックバー的なアイコンをすべて排除するところから始めたそうだよ。

カル: たしかにね。大口径のスピーカーもない。居並ぶレコードもない。もちろんマッキンの青いインジケーターもない。まったく新しいかたちのミュージックバーといえる。選曲はどんな感じなのかな?

コロ: ひと言で言えば静謐な音楽。

カル: 京都は「AMBIENT KYOTO」みたいなイベントがあったりと、この手のサウンドが馴染むよね。

コロ: アンビエントに限らず、アコースティック、チルアウト、ジャズ、クラシック、エレクトロと静謐という括りでオールジャンル。いまは田中さんがセレクトしているそうだ。

オーディオの様子

音源はすべてデータを使用。ミュージックバーにありがちなアイコンのほとんどを排除した新しいスタイル。

天井からつるされたスピーカー。

〈1 SOUND〉のスピーカーはデザインもオーガニック。あえて天井に吊ることで未体験のサウンドスケープが

 

カル: 静かな音楽が高解像度で、ある程度のボリュームで流れているってイメージなんだね。

コロ: そう、まるで森の中にいるようにね。たとえば坂本龍一さんの音楽は素晴らしい録音が施されていて、ピアノのタッチの音とか、鍵盤から指が離れるまでの音などがしっかり録音されているんだって、高解像度のスピーカーで聞くとそれがよくわかるそうだ。

カル: たしかに静謐なシチュエーションだね。プレイリストもフォー・テットの「Two Thousand and Seventeen」が流れるやジャコ・パストリアスの「Portrait of Tracy」につながったり、ヴェルヴェット・アンダーグランドの「Femme Fatale」が潜んでいたりと、意外性に満ちているのも森を彷徨ってみたいでいいね。

コロ: その辺は選曲家としての意地が垣間見られるな。意外性や、Shazamしたときの驚きとかも狙いで、違った次元で音楽を楽しむことができる感じを追求したそうだ。

カル: ユーフォルビアやビカクシダなど、店内を彩るプランツにも意外性があるよね。〈MAESTRO〉の綛谷武史さんが京都の持つ霊的なものを表現する一方、〈松竹園〉の竹岡篤史さんがレアプランツや熱帯の植物をあしらったり、ボタニカルなエッセンスが満載。

コロ: シーリングファンから風に葉が揺れたり、影がうっすらとなびいたりと、とても叙情的。

2層にわかれたオリジナルカクテル。

空間とのコントラスが最高なオリジナルカクテル。テキーラベースの柚子などを加えた〈COLORFUL〉(1800円)

〈ブリオッシュフレンチトーストのだし巻きサンド トリュフの香り。

京都のストリートフードから着想したフード類。〈ブリオッシュフレンチトーストのだし巻きサンド トリュフの香り〉(1200円)

カル: フードやカクテルもなかなかなんでしょ。

コロ: ストリートフードをリファインした「だし巻きサンド」や「すき焼き春巻」とかね、京都らしさが効いていて、インバウンドの方々にも喜ばれるはず。

カル: 田中さん、今後のアイデアとかあるのかな?

コロ: まだアイデアの段階なんだけど、「UNDER 100」と題して、BPM100以下の曲しかかけちゃダメってルールを設けたイベント考えているんだってさ。

カル: イベントも静謐流れか。ちなみにCDJでBPMを落としてもいいんだよね。

コロ: もちろん。それとか先日、清水寺でテリー・ライリーの「In C」誕生60周年のライブがあったけど、そんなときは、1日中、テリー・ライリーをかけているとか通常のミュージック・バーとは違うアプローチで、よそとバッティングしない謎の存在でいたいらしいよ。

カル: なるほど。

店内の植物。

植物が織りなす影や揺らぎと選者、田中知之氏による静謐な音楽の佇まいはスピリチュアルでもありミステリアスでもある。

カウンターの様子。

店名の〈FUL〉はMINDFUL、PEACEFULといった形容詞の接尾語「FUL」より想起した。

 

information

FUL

住所:京都市中京区河原町通三条下ル大黒町67-3 フォーラム西木屋町1F

営業時間:17:00〜27:00(Food 26:00 L.O. Drink 26:30L.O.)

定休日:月曜

Web:FUL

Instagram:@ful_kyoto

 

【SOUND SYSTEM】

Speaker:1 SOUND × 10基

Amplifier:Powersoft Quattrocanali 2404 + 1204

Mixer:TASCAM MZ-223

旅人

コロンボ

音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。

旅人

カルロス

現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。

*価格はすべて税込です。

writer profile

Akihiro Furuya

古谷昭弘

フルヤ・アキヒロ●編集者『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。

credit

photographer:深水敬介

illustrator:横山寛多

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