北海道もようやく夏らしい日差しが照りつける季節になった。そんななかで、私の住むまち岩見沢で音楽フェス〈JOIN ALIVE 2024〉が7月13日、14日に、いわみざわ公園を舞台に開催された。今年で13回目を迎えるこのフェスには、2日間で66組のアーティストが出演。THE YELLOW MONKEYやNiziU、氣志團など多彩な顔ぶれが、5つのステージでパフォーマンスを行った。
主催であるマウントアライブの発表によると、2日間の来場者は3万8000人。岩見沢市の人口の約半分の人々が会場を訪れたことになる。
野外音楽堂キタオンを利用したメインステージ「ROSE STAGE」。
すり鉢状の「ROSE STAGE」。スタンディングエリアに加え、奥側には芝生エリアが広がる。
音楽ステージとともにアートエリアも設けられ、私が代表を務める地域PR団体「みる・とーぶプロジェクト」が作品展示やワークショップを行った。
参加の経緯は、昨年まで活動拠点としていた近隣の閉校になった中学校が、改修をするまでイベント開催ができない状況となってしまったことが大きい。新たな活動の場を探す必要性を感じていたことと、多くの人に活動を知ってもらいたいという思いから、フェス会場で作品発表を行いたいと主催者に提案。ここからさまざまな企画が広がっていった。
メインステージを含めて5つのステージが設置。「北海道グリーンランド遊園地」も会場となりアトラクションエリアでもライブが楽しめた。
このフェスは、アミューズメントとともにアートにも力を入れており、以前は北海道教育大学岩見沢校の学生が中心となって作品制作やライブペイント、パフォーマンスなどを行っていた。
しかしコロナ禍となった2年間、フェス開催ができない状況が続き、2023年に再始動したものの、コロナ対策もあって、アート作品の発表などは大々的に行われなかった。今年、ようやくコロナ以前の規模で行える目処がつき、主催者としてもアートを積極的に取り入れたいという思いを持っていた。
作品発表をすることになったのは窪地になったエリア。
「みる・とーぶ」が展開することになったのは、入場ゲート近くの芝生のエリア。おおよそ50メートルプールほどの広さで、ここにテントを建てて、来場者がひと息つける場所にもなるようにと設計された。思った以上に広いスペースで活動できることとなり、みる・とーぶのメンバーであり、美流渡を拠点に活動する画家のMAYA MAXXさんが新作のアイデアを考えてくれた。
そのひとつが、シンボルとなる塔の制作だった。昨年、MAYAさんと仲間とで旧美流渡中学校のグラウンドに鳥の顔がついた10メートルの塔「アイちゃん」を立てた。これと同じ構造で「今度はクマの顔の塔を立ててみたい」とMAYAさんは語った。さらに、もうひとつ、隣接するステージとアートエリアをつなぐ入場門の装飾も行うことになった。「赤と白のハートで埋めつくしたい」とプランを考えてくれた。
旧美流渡中学校のグラウンドに立つ鳥の塔「アイちゃん」。高さ10メートルの電柱が支柱となっている。
MAYAさんは、このまちのさまざまな場所に赤いクマを描いてきた。同じイメージを描くことで地域がつながっていることが感じられる。これまででいちばん大きな作品は、いわみざわ公園に隣接する食品メーカーの倉庫に描いた直径約10メートルのクマ。(撮影:久保ヒデキ)
手づくりの不器用さとあたたかさを込めて制作期間は約2か月。週に数回、みる・とーぶのメンバーと、普段からMAYAさんの作品制作をサポートしている人々が集まり作業を進めた。
塔の上に載せる頭は直径90センチの球体。ベースとなったのは住宅の断熱材として使われるスタイロフォーム(押出し発泡ポリスチレン)。板状になったスタイロフォームを重ね、それを削り出していった。入場門にも同じスタイロフォームを使い、たくさんのハートをくり抜き取りつけることにした。
板状のスタイロフォームを重ねて立方体をつくりクマの顔の下描きをした。
立方体をカッターなどで徐々に削っていく。
耳と鼻を取りつけてかたちが仕上がった。ここにFRPの加工を施した。
さまざまな大きさのハートも切り抜いていった。
入場門に取りつけるクマのレリーフも制作。
MAYAさんはベースのかたちができると、あっという間に目鼻口を描いた。目のなかに光が入ると急に立体が生き生きとした表情となり、メンバーみんなで「かわいい、かわいい」と何度もいいながら楽しく作業が進んでいった。
赤く塗ってMAYAさんが顔を描き、頭部が完成!
あるとき、メンバーのひとりで、ものづくり作家の榊原美樹さんが「撮影スポットになるクマのパネルがあったらいいんじゃないか?」とMAYAさんに提案。その場でMAYAさんがクマの輪郭を描いてくれて、それを榊原さんがすぐにくり抜いて、さらなる作品ができあがった。
撮影スポット用のクマのパネルの制作過程。
「業者さんに頼めば間違いのないものができるけれど、そうじゃなくて自分たちの手でつくっていったことが大事。みんなが自分の休みを返上して集まってくれて、ああだね、こうだねと話しながらつくっていた、そういう思いもこもっている」(MAYA MAXX)。
ひとつひとつ丁寧に作業は進められ、ペンキは2度、3度と重ね塗りして色が鮮やかに見えるように心がけた。すべてのかたちが均一でなく、ちょっと不器用であたたかい感じが、見る人にもきっと伝わるはずとMAYAさんは考えていた。
子どももペンキ塗りに参加!
ハートがたくさんできあがった!
スタイロフォームに白いペンキを塗ってから赤を塗る。色が透けないように2度塗りした。
パーツをすべてつくり、開催の5日前から現場での作業が始まった。クマの塔の支柱を立ててくれたのは、岩見沢にある栄建設。普段からアートやスポーツを通じてまちを元気にする活動を行う団体を支援しており、このプロジェクトのサポーターとなってくれた。また、入場門はあらかじめ主催者にトラスでつくったアーチをセットしておいてもらい、そこにハートを無数に取りつけていった。
クマの塔の設置。
入場門にクマとハートを取りつけた。
中央にはクマの塔。名前は「ジョインくん」。来場者を迎え入れる「ようこそ!クマゲート」。写真スポットにクマが3匹。そのほか、これまでMAYAさんが行ってきたシャボン玉を描こうというワークショップで描いた作品や風船を飾り、アートエリアの装飾が完成した。
「入場門のイメージは運動会。自分たちが子どもの頃の懐かしい感覚でつくっているから、みんながかわいいって思うんじゃないかと思います」(MAYA MAXX)。
設営終了! かわいい会場になりました。
「ようこそ!クマゲート」。(撮影:Glaretone)
クマの撮影スポットとMAYAさんが描いた看板。(撮影:Glaretone)
ライブ会場のオアシス的な存在に。子どもたちがたくさんやってきて開催当日、早朝から来場者が列をなしており、開門時間には入り口にドッと人々が押し寄せた。ライブの観覧席を確保した人々が、ひとりまたひとりとアートエリアを訪れるようになり、11時頃には多くの人で賑わった。MAYA MAXXさんの作品展示のほかに、テントの中でガラスアクセサリーや木のおもちゃ車づくりなどのワークショップも開催。思い思いにものづくりを楽しむ様子が見られた。
「ライブ会場は日を遮るものがなく暑かったと思いますが、アートエリアにはテントがあって日陰もあったし、芝生で涼しい風も吹いていました。ステージからもちょっと離れていたし、子どもが遊ぶものもあったので、みなさんひと息つけたのではないかと思います」(MAYA MAXX)。
アートエリア、初日の様子。(撮影:Glaretone)
ワークショップも多数開催。シャボン玉を実際に見て、それを透明ビニールに描いていった。(撮影:Hideyuki EMOTO(Glaretone))
アートエリアには北海道教育大学岩見沢校の学生が中心となったグループ「ACT」による「森と音楽のお絵描きワークショップ」も行われた。土手の上には、MAYA MAXXさんによる動物オブジェも展示。(撮影:Hideyuki EMOTO(Glaretone))
ガラスのビーズをつなげてつくるアクセサリーづくりのワークショップ。
クマの塔には、来場者が願いごとを書いた布を結びつけていった。MAYAさんはネパールで、仏塔に経文が書かれた5色の旗がなびく様子を見たことがあり、その美しい光景がいつまでも心に残っていたことが、旗を取りつけるアイデアにつながった。
「世界が平和になりますように」「JOIN ALIVEに来年も家族で来られますように」など、さまざまな願いが書かれ、2日間で用意していた500枚の布がすべてなくなった。
「みんなの願いが叶いますように」と布に願いごとを書いた中学2年生。
願いごととともに愛らしい絵もたくさん描かれた。(撮影:Hideyuki EMOTO(Glaretone))
2日目の夕方、陽が少し傾き始めたころに、アートエリアにパフォーマーのかとうたつひこさんがやってきて、無数のシャボン玉を飛ばしてくれた。シャボン玉に西陽が光り、そのうしろに5色の旗がひらひらとはためいていた。シャボン玉を追って、子どもたちがぴょんぴょんと跳ね回り、遠くのステージから音楽が聞こえてくる。まるで夢のなかの光景のようだった。
「来年は、クマのパネルを100体つくって会場に並べてみたいね」
とMAYAさんがつぶやいた。そこにいたメンバーみんながうなずいた。
かとうたつひこさんによるシャボン玉のパフォーマンス。
2021年からMAYAさんを筆頭に、近隣の閉校した旧美流渡中学校をはじめ、岩見沢のイベント施設、店舗などで、私たちは展覧会を開催してきた。今年は「みる・とーぶとMAYA MAXXがやってきた!」と題し、ゴールデンウィークには市内のお寺・阿弥陀寺で作品展示と販売を行い、さらなる作品を加えてJOIN ALIVEの会場での発表となった。会場は違っていても、楽しくてゆったりとした独特のムードは変わらないように思えた。
「ある空間がにぎやかになると光の粒みたいなものがいっぱい増えてくる。そういう空間にいると、みんなが安らいだ気持ちになります。私たちは、いろいろ企画したり、ものをつくったりしているように見えますが、実は光の粒をいっぱい振りまいている、そういう気持ちでやっています」(MAYA MAXX)
言葉ではなかなか表しにくいけれど、MAYAさんのいう光の粒が、確かにそこにあったと感じられた。また来年も、この場でみんなと光の粒が分かち合えたら、そんな希望が心から湧いてきた。
夜もライブは続き、クマたちもライトアップされた。(撮影:Hideyuki EMOTO(Glaretone))
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/
https://www.facebook.com/michikuru